名匠所有のディレイ&リバーブ各4種を統合〜WAVES CLA Epic

名匠所有のディレイ&リバーブ各4種を統合〜WAVES CLA Epic

 Reviewed by 
森元浩二.
【Profile】prime sound studio formのチーフ・エンジニア。これまでに浜崎あゆみ、AAA、DA PUMPなど、ジャンルを問わず数多くのアーティストの作品に携わる。

テープのスラップ・エコーからロング・ディレイまで、人数を増やしたような効果も演出可能

 WAVESのクリス・ロード=アルジ氏のCLAシグネチャー・シリーズは、私もミックスで必ず使う、非常に使えるプラグイン群です。その新プラグインがCLA Epic。ディレイとリバーブのそれぞれ4種類を組み合わせた空間系エフェクトです。Epicは“素晴らしい、最高の”という意味のスラングですから、これが氏のミックスの要であるということを示しているのでしょう。私も同意します。

 

 どんなにそれぞれの楽器を格好良い音に作っても、ほかの楽器と混ざったときには、単音で聴いていた時とは違う聴こえ方になります。バランスでそれを回避する手法もあるのですが、ほんの少し空間をプラスすることで、イメージ通りのバランスと音色でミックスの完成度を上げられます。

 

 ドライに聴こえるサウンドでも、空間系エフェクトは重要。空間の感じられないドライなサウンドは、聴く環境によりサウンド感が変わってしまうのです。一方、絶妙に空間を演出したドライなサウンドは、どこで、何で聴いても、その変化は少ないと私は感じていています。

 

 前述の通り、CLA Epicにはディレイとリバーブが4つずつ備わっています。4つのディレイのうち、1はTAPE(画面①)。ステレオのテープ・エコー系ディレイで、ポイントは左右のディレイ・タイムをズラすOFFSETというパラメーターです。+側にするとLchのディレイ・タイムが大きくなり、Rchのタイムは少なくなります。広がりを演出するのに便利です。

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画面① 4タイプのディレイ。3:SLAPのデフォルトである166msはテープ速度15インチ/sでの録音ヘッドと再生ヘッドのタイム差を再現している。筆者はSTUDER A80の177msを必ず使うが、どのレコーダーを元にしているのか気になるところだ

 ディレイ2はTHROW。ステレオのデジタル系ディレイで、TAPEとほぼ同じパラメーターですが、TRIGGERというボタンがあります。これをオンにした場合は、横にあるボタンを押したときのみディレイに送られるので、一部だけロング・ディレイをかけて飛ばしたいときに便利。

 

 ディレイ3はSLAP。これは1と同じくテープ・ディレイなのですが、エコー・マシンではなく2trテープ・レコーダーを使った高音質もので、テープの走行速度を3種類から選べるようになっています。もちろん音符やmsでも指定できるのですが、実際のテープ・レコーダーで得られる数値がお勧めでしょう。

 

 ディレイ4はCROWD。人数感を調整するディレイです。ディレイというよりも初期反射という感じで、WIDEにすると初期反射が増加し、人数が増えたような効果が得られます。

ディレイからリバーブへ内部で送ることも可能。著名エンジニアによる膨大なプリセットを収録

 リバーブはA〜Dがあり(画面②)、AがPLATE。音を聴いた感じはやや暗めで、余韻に鉄板の跳ね返りが多く、AMS RMX16かEMT 140のサウンドです。BのROOMはLEXCON系の明るいリバーブ。リバーブ・タイムを長くすることもできます。ROOMという名前ですが、長いリバーブ音も非常に使えるものだと感じます。CはHALL。初期反射をあまり感じない暗いサウンドで、実際のホールでサンプリングしたIR系リバーブ音に近いと感じました。DはSPACE。これもIR系のサウンドで、HALLより狭い響きです。

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画面② A〜Dのリバーブ×4種。それぞれ低域と高域のリバーブ・タイム増減(RT LOW/RT HIGH)が行える

 CLA Epicの重要なポイントは、リバーブへの音をディレイから送ることができるところです。ディレイのパラメーターにROUTINGというボタンがあり、そこを押すとリバーブA〜Dに送るスイッチとフェーダーが表示されます(画面③)。またディレイ音をリバーブに送った場合は、ディレイ音出力のレベル調整とオン/オフができるようになります。ここでの注意点は、ディレイからのセンドを指定したリバーブは、ディレイからの音しか入力されません。

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画面③ ディレイからリバーブA〜Dへのルーティングが可能に。それぞれのリバーブへのセンド・レベルも設定できる

 それぞれのユニットの音を聴いて気に入ったサウンドを作ってもいいのですが、ロード=アルジ氏のプリセット50種と、グレッグ・ウェルズ氏やマイケル・ブラウナー氏などによる300に及ぶプリセットも収録。プリセットを聴いて気に入ったものを選び、そこから曲に合わせて好みでエディットして使うのが、最高のサウンドを得る早道だと思います。

 

 実は、以前から所有していたのですが、パッと使ってみてその複雑なルーティングが把握できず使わずにいたのです。しかし、今回深く触って、プリセットから好みにエディットする方法を理解したので、これから大活躍してくれると思います。みなさんもぜひ1ユニットずつの音を聴いて、そのサウンドとパラメーラーの変換の感じを覚えてみてください。使えると思えるプリセットの発見率が格段に上がると思います。

 

WAVES CLA Epic【シグネチャー】

26,290円

 Requirements 
■Mac:macOS 10.13.6(High Sierra)〜11.2(Big Sur)、INTEL Core I5/I7/I9/Xeon
■Windows:Windows 10(64ビット、2014年以降)
■AAX/AU/VST3プラグイン、SoundGrid

 

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