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ピッチ補正からハーモニーまでを扱う万能エディター〜CELEMONY Melodyne 5 Studio

ピッチ補正からハーモニーまでを扱う万能エディター〜CELEMONY Melodyne 5 Studio

 Reviewed by 
山中 剛
【Profile】山梨県のプライベート・スタジオを拠点に活動するアレンジャー/プログラマー。1980年代より活動し、近年は大手ブランドのCMや映画、TVドラマの劇伴制作にも多数参加している。

歯擦音を自動で分離しピッチ編集が快適に。高度なディエッサーとしても機能

 CELEMONY Melodyneといえばオーディオ・ピッチ補正の定番ソフト/プラグインとして多くのDAWユーザーに知られています。オーディオ補正機能は今や多くのDAWに標準で搭載されていますが、サウンド・クオリティと操作性の高さでMelodyneを使用しているというユーザーが多数おり、商業スタジオでも間違いなく必携ソフトの一つとなっています。

 

 またバージョン・アップするたびにこちらの予想の上を行くような機能を付加してくれるのもMelodyneの魅力で、現在のバージョン5でもより簡単に歯擦音や音量をコントロールする機能や、和音からのコード検出などかなり実用性が高い機能が搭載されました。ここでは4種類用意されているエディションの最上位であるマルチトラック対応のMelodyne 5 Studioについて先進的なオーディオ・エディターとしての機能と、単なる補正ソフトには収まらないそのポテンシャルについて紹介します。なお、ポリフォニックが扱えるMelodyne 5 Editor、後述の歯擦音ツールを搭載したMelodyne 5 Assistant、入門版のMelodyne Essentialが下位グレードとして用意されています。

 

 Melodyneが多くのユーザーに受け入れられた大きな要因の一つは、優れたユーザー・インターフェースにあります。MIDIのピアノロールのようにピッチを縦軸、タイミングと長さを横軸としてBlob(ブロブ)と呼ばれる波形状のラインの形や太さで音の立ち上がりや減衰の具合、音量などをあらわします。ピッチとタイミング、長さや音量の視認性が高く、まるでMIDIデータのようにそれらをエディット可能な点は、リリース当初からの大きな魅力です。

 

 またピッチ検知のアルゴリズムの精度と性能はバージョンを重ねるたびに向上し、ついに今回のバージョン・アップではブレスや歯擦音(サ行などの音高を持たないノイズ成分)を自動検知可能になりました(画面①)。

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画面① ボーカルをMelodyne 5 Studioに読み込んだところ。音を表すBlobのうち、縦線表示がされている部分がピッチ感が希薄となる歯擦音だ。従来は歯擦音のみ切り分けて、それ以外の部分のみピッチを動かす処理を行っていたユーザーにとって待望の機能。歯擦音Blobの音量調整をすれば、ディエッサーとしても使える

 ちょっと濃い縦線Blobで表示される歯擦音は、通常の音程成分を持つBlobとは扱いが異なり、音高を上下させても変化の対象から除外したり(ピッチ感が希薄なのでそのほうが自然なサウンドになる)、長さを変更するときも長くするときは歯擦音はそのままで音程のある母音部分を伸ばし、短くするときはほんの少しだけ歯擦音も縮めてくれると気の利いたことをやってくれます。今まで音質を重視するために手動で行っていたことをほぼ自動で行ってくれるのです!

 

 現時点でここまで簡単な操作で自然な結果が得られるツールはほかに無いと思います。ディエッサーを使うよりも確実かつ細密に歯擦音をコントロールできる点は、特にミックスにおいても大きなメリットになります。

 

 また音(Blob)の頭とお尻にフェード処理ができるフェード・ツールも搭載。そのほか、選択した複数の音の音量差を最小と最大の2つのパラメーターのみで手軽に調整できるレベル調整マクロ(画面②)を使うと、同時に鳴っている和音でも1音ごとに音量のバラつきを簡単に補正することができます。

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画面② レベル調整マクロで、和音で弾いたフレーズを一括で同じ音量にそろえる。マルチバンド・コンプレッサーでもできないような処理が、コンプ感を加えずにできるのがポイントだ。もちろんトップやベースなど任意のノートのみ大きくするようなことも可能

ポリフォニック&マルチトラックでハーモニー・パートの作成が簡単に行える

 録音後の補正用ソフトとしては間違いなく現時点で最強と言っても過言ではないMelodyne 5 Studioですが、作編曲やトラック・メイクにおいても強力なアシストをしてくれるツールとなります。何といってもMelodyne(Studio/Editor)の最大の特徴はポリフォニックに対応していること。ピアノやギターなど和音で演奏している素材のコードや譜割り(リズム)を変更してバリエーションが作り出せるのです(画面③)。

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画面③ Melodyne 5 Studio/Editorはポリフォニック・オーディオ素材のノート単位での編集に対応。この画面はピアノのコードだが、市販のフレーズ素材の和音構成やタイミングを調整して、自分の曲に合わせるといった作業が可能だ

 またMelodyne 5 Studioでは、複数のトラックを単一ウィンドウに表示するマルチトラックも秀逸な機能。ボーカルやブラスなどのフレーズ・サンプル素材から、自由にボイシングをアレンジしてハーモニー・パートを作成することも可能です(画面④)。

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画面④ 最上位版のMelodyne 5 Studioはマルチトラックに対応。V1、V2は同じボーカル素材を読み込んだもので、選択したV2のみBlobに色が付いている。非選択(グレー)のV1を参考にしながら、短3度下げたハーモニー・パートを制作。なおキーやスケールを自動判定し、画面表示に反映させることもできる

ARAとショートカットでDAWと完全統合。分析結果に基づいたコードやスケール表示も

 そして、このような作業を行うときにDAWがARA(Audio Random Access)に対応していると作業効率が飛躍的にアップします。ARAとはCELEMONYとPRESONUSが策定した、DAWとプラグイン間でフレキシブルなデータ共有を行うための規格で、現在PRESONUS Studio One、STEINBERG Cubase&Nuendo、APPLE Logic Proなどが対応しています。通常のオーディオ・エディットを行うプラグインと決定的に異なるのは、データをDAWと共有しているので使用する際に転送する手間が不必要となることです。

 

 またエディットの内容も即座にDAWのオーディオ・トラックに反映されるので、トラック・エディターなどでほかのオーディオ・ファイルと同じようにコピー&ペーストなどが可能になります。Melodyne 5 Studioで素材から新たなフレーズを作り、それをDAWで編集するという作業がシームレスにテンポ良く行えます。 

 

 またキーボード・ショートカットもDAWに合わせたものが数種類用意されているので、まるでMelodyne 5 StudioとDAWが融合したような制作環境が構築できるのです(画面⑤)。ARAに対応しているプラグインはまだ数は少ないですが、今後DAWの機能の拡張とプラグインの操作性を同時に高めるアプローチとしてもっと発展するのではないかという予感があります。

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画面⑤ ショートカットの設定画面。右にあるようにPro Tools、Logic Pro、Studio One、Cubaseに合わせたプリセットが用意されているほか、カスタマイズもできる。ショートカットの検索も可能となっている

 Melodyne 5 Studioはサウンドを補正するツールとしては、既に定番として確固たるポジションを築いたソフトウェアだと思います。しかしサウンドをクリエイトするツールとしてはそのポテンシャルがあまり知られていないようにも感じます。高度な検出機能を利用してコード・ネームやキー/スケールを表示させたり、オーディオ・ファイルからMIDIデータを書き出すなど作編曲に役立つ機能がたくさんあります(画面⑥)。プロ/アマ、音楽のジャンルを問わずすべてのエンジニア、クリエイターにお勧めできるツールです。

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画面⑥ コード分析は、オーディオの解析結果に従って、Melodyne上でコード・ネームを特定する機能。DAWのコード・トラックの情報をMelodyneに反映させ、それを元に編集するとことも可能だ

 

CELEMONY Melodyne 5 Studio【ボーカル処理】

110,000円(Melodyne 5 Editor:66,000円、Melodyne 5 Assistant:39,600円、Melodyne 5 Essential:9,900円)

 Requirements 
■Mac:macOS 10.12以降(64ビット)
■Windows:Windows 10(64ビット)
■AAX/AU/VST3、ARA、スタンドアローン

 

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