バンド・サウンドのEQテクニック〜いなたく骨太な70’sロック・テイストに

バンド・サウンドのEQテクニック〜いなたく骨太な70’sロック・テイストに

ここからは実践編として、バンド・レコーディング後のEQ処理を例に挙げて見ていきましょう。今回はテイストの異なる2曲を題材曲として用意しました。1曲は、80'sフュージョン風、もう1曲は、いなたく骨太な70'sロック・テイストを目指してEQ処理を進めていきます。題材曲はEQ前後で楽器別に試聴できるようにしていますので、ぜひ聴き比べてみてください。

講師:大野順平(スタジオ・サウンド・ダリ)

 

【Step 3】バンド・サウンドのEQ処理〜70'sロック・テイスト〜 目次

EQ処理の目標:いなたく骨太な70’sロック・テイスト

 この曲は、ちょっと大胆に処理をしていなたく骨太な質感にチャレンジしてみようと思います。普段なら曲調に合ったマイクをチョイスするのですが、宅録ではそこまで選べないと思うので、今回はスタンダードなセットで録りました。

題材曲:「ユーモア」
vo、ag、eg:中間正太 p、b:炭竃智弘 ds:北川浩一郎

★EQ前後を聴き比べる:

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写真左から、中間正太、北川浩一郎、炭竈智弘

ボーカル:吹かれを無くす

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 部分的に吹かれの低域が気になったので、80Hz以下をローカットしました。倍音部分の10kHz少し上は、ProQ3とEQP-1Aの両方でブースト。僕はEQP-1Aを歌に多用していて、10〜12kHz辺りを上げて、子音が強いところだけ後からディエッサーで抑えたりします。なお、試聴音源の2ミックスはリバーブで軽く調整しました。

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★EQ前後を聴き比べる:

エレクトリック・ギター:おいしいポイントを損なわずに耳障りなポイントをカットする

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 エレキギターはおいしいポイントと耳障りになるポイントがどちらも2〜4kHzの間にあり、その辺りのコントロールが非常に難しいです。いろいろなオケを出しながら耳障りなポイントをうまく探して、おいしいポイントを損なわないようにカットするあんばいを注意しましょう。

 今回はヒィーッというポイントが曲中で気になったので、EQで調整しました。楽曲やフレーズにもよりますが、音程にならないほどの超低域や、歌の邪魔をするレベルの高域は積極的にカットすることが多いです。この曲ではアーティストの中間君と方向性を話し、結構大胆に上下を切ることにしました。もちろん、たっぷりひずんだヘビーなリフなどで上下を切り過ぎると台無しになることもあるので注意しましょう。

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★EQ前後を聴き比べる:

エレクトリック・ベース:ベースとアコギの低域を調整

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 ミックスをしていてベースが聴こえないと悩んだときはベースをミュートしてみましょう。背骨を抜かれたような感じになるのが正解で、そうなっていない場合はその帯域にほかの楽器が居るので、聴こえてきづらいのです。特にエレキベースはアコギのおいしい低域部分とぶつかることがすごく多いので、ベース・ラインをしっかり聴かせたいときには、ほかの楽器の低域もうまくコントロールして共存させることがとても大事です。

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★EQ前後を聴き比べる:

アコースティック・ギター:リズムよりボイシングを優先的に聴かせる

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 8分音符刻みのピアノに対して、コードのボイシングがしっかりと聴こえる骨太なアコギを目指しました。高域のチャリチャリした部分を抑えてコード感が見えやすくなるよう処理しています。もちろん中域を上げるという選択肢もありでしょう。低域はベースとの兼ね合いでローカット。エレキギターと同様、楽曲のイメージに合わせて大胆にカットしました。逆にアコギ弾き語りの場合は、今回カットした辺りの低域を切り過ぎると台無しになってしまうので気を付けましょう。200Hz以下が細やかにコントロールされてすべて聴こえると、とても気持ち良いミックスになると思います。

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★EQ前後を聴き比べる:

ピアノ:ナローで“しょぼい”音色にしてフックにする

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 この曲はエレキギターとエレキベース、ピアノの3パートによるユニゾンなのですが、ピアノをあえてナローで“しょぼい”音色にしてフックにしてみようかなと思いました。単体ではグランド・ピアノらしくない音になってしまっていますが、時にはこういう大胆な加工で楽曲を印象付けるのも効果的です。

 生ピアノやアコギは単体でバッキングを賄えるとてもレンジの広い楽器なので、アンサンブルでは逆にほかの楽器を聴こえなくさせてしまうことがあります。アンサンブルは補い合ってしかるべきなので、要らないなら入れない、入れるなら共存させ、それぞれの役割を際立たせることが大事です。

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★EQ前後を聴き比べる:

ドラム:ドラム・ミックスでのEQ処理

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 処理前のドラムはハイファイな音でしたが、ちょっといなたい感じにします。ここでは、個々のドラム・トラックをほぼいじらずドラム・ミックスでEQ処理をしました。ドラム・ミックスごと処理をすると位相の乱れが起きないというメリットもあります。ここでは、Pro-Q3で330Hz、800Hz辺りをカットし、上下は結構ガツンとフィルターをかけました。

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 さらに、Maag EQ4で160Hzを4dB、650Hzを1.5dBカットしています。ナローにすると変な帯域が出てくるのが気になったりするので、それも踏まえた上でコントロールしましょう。

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★EQ前後を聴き比べる:

 

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講師:大野順平

【Profile】スタジオ・サウンド・ダリ所属のレコーディング・エンジニア。中田裕二、SUGIZO、福原美穂らの作品を多数手掛けるほか、浜端ヨウヘイ、秦基博、LUNA SEA、KOTEZ andYANCYと多ジャンルにわたって個性的なアーティストの作品に携わる。

 

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