バンド・サウンドのEQテクニック〜シンセ・ベース&生ドラム・メインの80’sフュージョン風に

バンド・サウンドのEQテクニック〜シンセ・ベース&生ドラム・メインの80’sフュージョン風に

ここからは実践編として、バンド・レコーディング後のEQ処理を例に挙げて見ていきましょう。今回はテイストの異なる2曲を題材曲として用意しました。1曲は、80'sフュージョン風、もう1曲は、いなたく骨太な70'sロック・テイストを目指してEQ処理を進めていきます。題材曲はEQ前後で楽器別に試聴できるようにしていますので、ぜひ聴き比べてみてください。

講師:大野順平(スタジオ・サウンド・ダリ)

 

【Step 3】バンド・サウンドのEQ処理〜80'sフュージョン風〜 目次

EQ処理の目標:シンセ・ベース&生ドラム・メインの80’sフュージョン風

 曲の中での主役は何かを考えて、いろいろな楽器が際立つように整えていきましょう。この曲だと打ち込みのシンセ・ベースから組み立てられているので、シンベを主役として格好良く聴こえるように仕上げていきたいと思います。

題材曲:「Sunlight Recommendation」
eg:中間正太 vo、syn、prog:炭竃智弘 ds:北川浩一郎

★EQ前後を聴き比べる:

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写真左から、中間正太、北川浩一郎、炭竈智弘

ボーカル:シャキッとしていて厚みが出過ぎない質感に

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 ボーカルの置き位置によってEQ処理は大きく変わります。ここでは歌を前に出すような曲ではないので、シャキッとしていて厚みが出過ぎないボーカルを目指します。

 メイン・ボーカルとコーラスともにサ行が耳に刺さるのが気になったので、ディエッサーやコンプの代わりにダイナミックEQを使って、サ行の発声のときに7.5kHz近辺のゲインが落ちるようにしました。さらに、耳障りな2kHz近辺と厚ぼったい400Hz辺りを2dBほどカット。厚みを持たせるために100Hz辺りを、倍音成分を増やすために10〜20kHz辺りを少しブーストしています。

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 また、1人で歌う部分とコーラスが全部入ったときのレベル差が激しかったので、オケなじみを良くするためにボーカル・ミックスを作り、声が全部入ったときに厚ぼったくなる300Hz、1.8kHzの2点をダイナミックEQで落ちるようにしています。3.5kHz辺りにはスタジオの反射なのか定在波で飛び出してくるポイントがあったのでカット。試聴用の2ミックスはさらにリバーブとディレイで軽く調整しています。

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★EQ前後を聴き比べる:

エレクトリック・ギター:リズム感を出す

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 上モノだけで聴いてみたところ、エレキギターが鍵盤に食われがちだったので、コリコリした1〜2kHz辺りの部分を足してリズムが出るようにしてみました。

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★EQ前後を聴き比べる:

オルガン&クラビネット:音の魅力を保ちつつ歌を妨げない

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 オルガンは中域の張り出しが少し歌の邪魔をしているので1kHz近辺をカットします。オルガンの魅力を損なわない程度に歌との関係を見ながら軽く調整しましょう。

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★EQ前後を聴き比べる:

 

 クラビネットは、中高域が時折耳に障る感じがしたので2.8kHzをダイナミックEQで処理しました。

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★EQ前後を聴き比べる:

シンセ・ベース:音程感を出す

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 シンセ・ベースは元からとても良い音だったのですが、音程感をもう少し出すために180Hzくらいを上げました。

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★EQ前後を聴き比べる:

キック:ボンボンした感じを解消し、アタック感を出す

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 チューニングで取り切れなかった“ボンボン”している感じが気になったので、90〜100Hzをカット。スネアの処理後、キックのアタックがあってもよい感じがしたので、6kHz近辺を上げつつ、650Hzあたりのいなたいアタック感もやや強調してみました。キックは100Hz近辺を整理していくとスッキリすることが多いです。まずは作りたいキックの音をイメージしてそこに近付けていくことが大事ですね。

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★EQ前後を聴き比べる:

スネア:コンコンした感じを抑える

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 “コンコン”している感じがちょっと気になるので処理してみました。400〜600Hz辺りの倍音をカットすると必ずスネアが細く聴こえるので、太さを出すために、それより低域のポイントを持ち上げる場合もあります。スネアは高域を上げがちですが、4kHz辺りを上げると一緒に持ち上がってくるハイハットやシンバルのカブリが気になることが多いので注意しましょう。

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 ここでは、EQP-1Aで100Hzをブーストしつつ厚さを抑えるためにアッテネートすることで、太さがあってスッキリした音を作りました。ボトムは3kHz辺りが耳に付くので切っています。

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★EQ前後を聴き比べる:

ハイハット:耳障りな部分を除いてサクサクした質感に

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 僕はハイハットのキッというところが苦手なので、切っていきます。大体は6〜8kHz辺りに嫌な耳触りのところがあるのですが、今回はもう少し上にあったので、9〜10kHz辺りを削りました。この辺りを削ると割とサクサクした質感になっていきます。今回は大丈夫そうですが、高域のポイントを削っていくと、エレキギターを出したときにハイハットが聴こえなかったりもしますので、全体を聴きながらあまり削り過ぎないように気を付けましょう。

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★EQ前後を聴き比べる:

アンビエンス:汚れた質感を出すためにドラムの中域を埋める

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 全体的にドンシャリでさらっとし過ぎているのが気になったので、汚れた質感を少し出したいと思ってアンビエンスを入れました。高域はバッサリ落として中域を残し、ドラムの中域を埋める働きをしています。

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マスター:1枚膜を取る

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 膜を1枚取るような感覚で、Maag EQ4を使ってエア・ゲイン、ローエンドを0.5dBずつ上げて、160Hzを0.5dBカットしています。

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★EQ前後を聴き比べる:

 

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講師:大野順平

【Profile】スタジオ・サウンド・ダリ所属のレコーディング・エンジニア。中田裕二、SUGIZO、福原美穂らの作品を多数手掛けるほか、浜端ヨウヘイ、秦基博、LUNA SEA、KOTEZ andYANCYと多ジャンルにわたって個性的なアーティストの作品に携わる。

 

【特集】EQテクニック再入門

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