カラー・ベース・シンセ(Colour Bass Synth)の作り方 〜NUU$HIが解説!

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昨今の洋楽ダンス/クラブ・ミュージック・シーンにおける主流のシンセ・サウンドやミックス・テクニックなど、最新の音作り術をプロ・クリエイターたちが紹介! ここでは、攻撃的な音色だけどどこかエレガンスでメロディアスという近年注目のベース・ミュージック・サウンド「カラー・ベース・シンセ」 (Colour Bass Synth)の作り方をプロデューサー/DJのNUU$HIが解説します。

“カラー・ベース・シンセ”とは?

 カラー・ベース・シンセは、簡単に言うならばスクリレックスなどで有名なダブステップで多用されるグロウル・ベースにメロディやハーモニーを持たせたもの。攻撃的な音色だけどどこかメロディアスという、近年注目のサウンドです。

 “カラー・ベース”というのは、現在ベース・ミュージック界隈で盛り上がっているダブステップのサブジャンルのことで、提唱者はチャイムというクリエイターだと言われています。もともとメロディック・ダブステップというサブジャンルもありましたが、彼がリズミカルかつハーモニックなシンセ・ベースを開発して以来、一気に“カラー・ベース”という言葉が定着しました。

 もっと言うと、既にこのカラー・ベース・シンセを4つ打ちに取り込んだ“カラー・ハウス”というサブジャンルも存在しています。それくらい、今人気のサウンドなのです。用意するのは、ソフト・シンセ2つとボコーダー・プラグイン。ここでは最も代表的な作り方を紹介します。

 参考音源 

STEP 1:スーパー・ソウ・シンセでコードを打ち込む

 まずはボコーダーの仕組みから簡単に説明しましょう。ボコーダーには、モジュレーターとキャリアという2つの音声信号を用います。ボコーダーから出力されるピッチはキャリアによって決まりますので、モジュレーターのピッチは関係ありません。今回、自分はABLETON Liveを使っているためソフト・シンセにはLive付属のWavetableとOperatorを、ボコーダー・プラグインにはVocoderを用いますが、サード・パーティ製のプラグインでも代用可能なので試してみてください。

 それではキャリアにWavetableを立ち上げ、MIDIノートでコード・フレーズを打ち込みましょう。コードで一番高い音、すなわちトップ・ノートでメロディ・ラインを作ると、よりカラー・ベースらしくなります(赤枠)。キャリアの音色は、スーパー・ソウなどキラキラしたサウンドがお薦めです

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トップ・ノートでメロディ・ラインを作るとカラー・ベースっぽさマシマシ!

STEP 2:モジュレーター用シンセでリズムを入力

 次はOperatorをモジュレーターとして立ち上げ、リズムをMIDIノートで打ち込みます。ここでは分かりやすく8分音符で刻んでいますが、グリッドを無視してグルービーに……例えばスウィングをかけたMIDIノートを配置してもOKです! 冒頭でも説明したとおり、モジュレーターはボコーダーから出力されるピッチには無関係なので、画像のようにすべて同じノートを配置しても大丈夫。短い音を多用し、リズミカルなフレーズにするとよいでしょう。

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MIDIノートにはスウィングをかけてもOK

STEP 3:ボコーダー・プラグインをインサート

 OperatorにVocoderを直列でつなぎ、細かいセッティングをします。Carrierの下部にあるプルダウン・ウィンドウをクリックし、Externalを選択。そしてAudio Fromも、下部のプルダウン・ウィンドウをクリックし、ソースとなるコード・シンセのチャンネル、つまりWavetableのチャンネルを選びます(赤枠)。

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キャリアとなるチャンネルを設定しよう

 これでキャリアにWavetableをアサインできたので、Operatorのシーケンスを走らせるとボコーダー処理されたWavetableのシンセ・コードが鳴ります。以上で基本となるサウンドは完成。Wavetableのトラックは、ミュートすることを忘れずに!

STEP 4:ボコーダー内でさらに細かい音作り

 ここからはVocoderの細かい設定について。使用するボコーダー・プラグインによってはパラメーターや機能が異なると思うので、参考程度にしてみてください。僕の場合、画面右端にあるFormant、右上にあるDepth、中央下段にあるBands、左上にあるEnhance辺りを触って音色調整をします。

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フォルマントやバンド・パス・フィルターで遊んでみよう

 Formantでは、中低域にフォーカスすると耳に痛い高域成分を和らげることが可能です。Bandsは周波数帯域ごとのバンド・パス数のことで、僕は36にして100Hzと15kHz付近を削り、もこもこした帯域と耳に痛い帯域をさらに微調整。最後にEnhanceをオンにすることで余計な中高域がまとまり、扱いやすいサウンドになります。EQで調整してもよいのですが、僕はEnhanceの方が自然に仕上がるので好みです。

STEP 5:ローカットEQを挿入

 ここからはVocoderより後段に挿すプラグイン・エフェクトの話。カラー・ベースはもちろん、ベース・ミュージックでは基本的にサブベースを用いることが多いので、これと周波数帯域のカブリを無くすためにカラー・ベース・シンセ側にローカットEQを入れます。僕は100Hz付近で入れることが多いですが、サブベースと一緒に鳴らしながらちょうど良いポイントを探るといいでしょう。

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サブベースとのすみ分けを作ろう

STEP 6:空間系エフェクトで微調整

 お好みでディレイやリバーブといった空間系エフェクトを足して、オケとなじませます。ディレイでは、L/Rのディレイ・タイムを30msと短く設定し、金属音のようなサウンドを演出するという、ダブステップでは鉄板の技を使用しました。リバーブはDry/Wetを8.7%にして、若干の奥行き感を表現するくらいがちょうど良いかなと思います。

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短めディレイはダブステ鉄板テク!

STEP 7:詰めはマルチバンド・コンプレッサーで

 最後は、Live付属のマルチバンド・コンプのOTT。XFER RECORDSからも単体プラグインとして無償提供されており、ダンス・ミュージックを作るクリエイターなら知らない人は居ないというくらい有名です。

 ここでは先ほど設定したリバーブの残響成分を持ち上げて、空間のすき間を埋めるために用います。Highを2.50kHz、Lowは88.3Hzに調整し、Amountは48%にすると効果が分かりやすいかもしれません。

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リバーブの残響成分をコンプで持ち上げよ

 以上でカラー・ベース・シンセの完成です。キャリアの音色やボコーダー・プラグインのパラメーターをいじって、あなただけのオリジナル・サウンドを追求してみてください!

 完成した音源の試聴はこちら! 

 

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NUU$HI
【Profile】千葉を拠点に活動する25歳のプロデューサー/DJ。2020年にダブステップの世界的レーベルDiscipleからヒット曲『Sakura VIP』をリリースした後、Halcyonから1st EP『Fairy Tale』を発表した。昨年にはバーチャル・ライオットなどにサポートされて、初のアメリカ・ツアーを成功させている。

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