食品まつり a.k.a foodmanがbanvox新曲をリミックス! 〜banvox新曲を題材に3人の巧者が挑む “リミックス制作の極意”

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Photo:Hiroki Obara 撮影協力:BAR 東京 Gorilla03

大好きなサンプラーで制作したことが
”食品まつりらしさ"につながった理由でしょう

 異なる音楽ジャンルの3名のビート・メイカーがbanvoxの新曲「Utrecht」のリミックスに挑んだ本特集。ここでは各リミキサーに登場していただき、それぞれが制作したリミックスの解説や、ポイントについて語ってもらおう。続いては、2019年にディプロ率いるMad DecentからEPをリリースするなど、国内外で幅広く活躍するビート・メイカー/DJの食品まつり a.k.a foodman(以下、食品まつり)。彼のリミックスは、何とキックレス/ベースレスというアレンジが斬新なアブストラクト・ミュージックだ。中高域にフォーカスした彼のリミックスについて、詳しい内容を伺った。

Text:Susumu Nakagawa

 

banvox - Utrecht(食品まつり a.k.a foodman Remix)

 

ハードでしか出せない
独特のリズムの揺れや音質がしっくりきた

 「Utrecht」の印象を食品まつりに尋ねてみたところ、このような答えが返ってきた。

 「banvoxさんの楽曲はEDMらしいあざやかなサウンドが特徴的で、迫力もある印象です。今回の素材もEDM系だと思っており、実際に聴いてみると全然違う内容だったので意外でした。ただ、ローエンドの迫力たっぷりな音像はbanvoxさんらしいなと思いましたね。最近自分は『Shikaku』というEPを出して、収録曲はキックやベースが一切入っていないアレンジなんです。なので今回は、こういった方向性でリミックスに取り組んでみました」

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食品まつり a.k.a foodmanの自宅スタジオ。デスク中央にAPPLE MacBookを設置し、その両脇にはメイン・モニターとしてMACKIE. CR3(上)を備える。制作時はAPPLE iPhone付属のイアフォンとAUDIO-TECHNICA ATH-M20Xを併用することも多いそうだ

  普段、食品まつりはABLETON Liveを用いて制作しているが、今回はサンプラーのKORG ESX-1を軸にリミックスしたそうだ。これはどうしてなのだろうか?

 「最初はLiveで作り始めたのですが“何か違うな”と感じ、ESX-1でやってみたところ、ハードでしか出せない独特のリズムの揺れや音質がしっくりきたので、そのままESX-1で作業を進めました。あと、ほかのリミキサーの方たちは恐らくDAWを使うと思ったので、自分だけハードでやったらライブ感も演出できて面白いのではないかと考えたんです。ソフトとハードの質感にも違いが出ると思うので、その辺りもESX-1を選んだ理由ですね」

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食品まつり a.k.a foodman愛用サンプラー
リミックスで使用した真空管内蔵のサンプラー、KORG ESX-1。最大128ステップのシーケンサー、アルペジエイター、10種類以上のエフェクトなどを搭載し、リアルタイムに音色を加工することができる

上モノのリリース・タイムを短くして
パーカッションっぽく鳴るように加工した

 リミックスの制作における、全体的なシステムについても尋ねてみよう。

 「今回はESX-1とアナログ・シンセのKORG MonologueをMIDIで同期させ、ESX-1のアウトはオーディオI/OのBEHRINGER UCA222 U-Controlを経由してAPPLE MacBook上のLiveに流れます。基本的に楽曲はESX-1の中で組むので、Live上にはステレオ・トラックが1つ立ち上がっているだけなんです」

 

 食品まつりは、リミックスの展開についても語る。

 「展開自体はとてもシンプルです。最初に上モノのステムをサンプリングして作ったメイン・フレーズが流れ、そこにコンガやクラップが入り、さらにシンセやほかの打楽器のミニマルなフレーズが重なってくる。それらを抜き差しすることによって、じわじわ上がってちょっと下がり、またじわっと上がるという展開を作っています」

 

 食品まつりいわく、リミックスに使用した音源は全部で8つあるとのこと。それらの内訳を一つ一つ解説してくれた。

 「上モノのステムをサンプリングして作ったトラックは、全部で2種類あります。1つ目はただスライスしただけのもの。2つ目は、スライスした音で短いリフを奏でたものです。これらは、上モノのステムのピアノ部分などをESX-1でサンプリングし、リリース・タイムを短くしてパーカッションっぽく鳴るように加工しています。また1つ目の方は、ESX-1でハイパス・フィルターをかけて高域を若干際立たせました」

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上モノのステムに用いたフィルター
4種類のフィルター・タイプを選択できるESX-1のFILTERセクション。ESX-1でサンプリングした上モノのステムには、ハイパス・フィルターをかけてレゾナンスを上げ、高域を若干際立たせた

 ESX-1の内蔵音色も使っているそうだ。

 「そのほかには、ESX-1の中にあるROLAND TR-808系のコンガと“カーンッ”という音。この音はESX-1の内蔵エフェクトMOD DELAYでステレオ感を強調しています。たまにシンバルみたいに鳴らしているんです。あとは、以前自分で録音してESX-1に保存してあったクラップとカズーのような音、ハイハットのステムを細かく切った音、そして同期したMonologueのシンセ。1:00〜辺りから後半にかけてリズミカルに入ってきます」

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パーカッションへ使用したモジュレーション・ディレイ
各エフェクトの選択やかかり具合、ルーティングなどを設定できるESX-1のEFFECTセクション。リミックスでは、MOD DELAYをROLAND TR-808系コンガと“カーンッ”という音に用いている

 食品まつりは、これら8つのパートをESX-1内で音量調節し、2ミックスで出力したそうだ。

 「個人的に好きなノブが、ESX-1の左上にあるTUBE GAIN。本体内蔵の真空管に通す出力信号の量を調整することができます。リミックスではこのノブを9時の位置まで回し、真空管独特の温かみのある音を付加しているのです。ESX-1自体が既に丸みのあるサウンドなので、ここでは味付け程度に加えています」

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真空管の音色を付加するTUBE GAINノブ
ESX-1のトップ・パネル左上に搭載されたTUBE GAINノブ(中央)。真空管回路に通す出力信号の量を調整することができる。リミックスではこのノブを9時の位置まで回し、真空管独特の温かみを加えている

キックやベースなど低域の楽器に頼らず
いかに中高域の楽器だけでグルーブを出せるか

 このリミックスの最大の特徴とも言えるキックレス/ベースレスというアレンジについて尋ねてみたところ、このような答えが返ってきた。

 「キックレス/ベースレスというのが、ここ2〜3年における自分の音楽スタイルなんです。特に海外でDJするときは、クラブやライブ・ハウスはもちろん、アート・スペースやギャラリー、美術館などでのDJも多く、そういった場所では必ずしも大音量でプレイできるかというとそうでもありません。なので、そんな状況でもどうしたらオーディエンスをロックできるか考え抜いた結果、キックやベースなど低域のパートに頼らず、いかに中高域の楽器だけでグルーブが出せるか、というテーマにたどり着いたのです。それからというもの、こういった低域抜きのダンス/アブストラクト・ミュージックを制作するようになりました」

 

 キックレス/ベースレスで作るグルーブとは、どのようなものなのだろうか?

 「結構これが難しいんです。うまくハマるときとそうでないときがあるので、まだ試行錯誤している段階ですね。ただうまくいった場合、低域は全然スカスカなのに妙にじわじわ高揚感が出てきて自然にオーディエンスが踊ってくれるときがあります。2017年ごろサンディエゴでパフォーマンスしたときに一度成功して以来、この音楽性を追求しているんです」

 

 そして、2ミックスはLive内で処理したそう。

 「マスターには、マスタリングに特化したプラグインのIZOTOPE Ozone 8 Elementsを使用しています。具体的にはOzone 8 ElementsのMaximizerで音圧を少し上げ、 Imagerで空間を大きく広げました。Ozone 8の好きなところは、実践的なプリセットがたくさん用意されているところ。タイトルを見るとプリセットの中身が大体想像できるので、いろいろ試すのが楽しいです。普段は好みのプリセットを選んで、各パラメーターを微調整するような使い方をしています。個人的にはImagerも大好きで、いろいろな曲で活躍していますね」

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マキシマイザー
ABLETON Liveのマスターに挿した、マスタリング専用プラグインのIZOTOPE Ozone 8 Elements。Maximizerで音圧アップを図っている

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ステレオ・イメージャー
Ozone 8 ElementsのMaximizer前段に入れたステレオ・イメージャーのImager。ステレオ感を広げるのに多用しているそうだ

一度リミックスの方向性が定まったら
すぐに完成させることが大事

 食品まつりは今回のリミックスを振り返り、banvoxが制作したステム・データと自分の曲調が“意外とマッチした”と感じているそうだ。

 「banvoxさんのステム・データの音色からは、個人的にはポップな印象を受けたので、自分が普段から作っているようなアブストラクト系のサウンドが出せるのかとても不安でした。しかし、最終的には違和感の無い仕上がりになったと思います。この理由は、ESX-1でステム・データをサンプリングしたからというのが恐らく一番大きいでしょう。ESX-1でサンプリングすると、若干音がチープな感じになるのですが、自分はこのESX-1独特のサウンドが大好きなんです。この辺りが、“食品まつりらしさ”につながった理由なのではないでしょうか」

 

 今回だけではなく普段から、食品まつりはリミックス制作の“スピード感”に気を付けていると話す。

 「これは曲作りでも言えるかもしれませんが、一度リミックスの方向性が定まったら、すぐに完成させることが大事です。リミックスでめちゃくちゃ時間をかけると途中で迷いが生じやすくなり、最終的な完成形が見えなくなるときがあります。今回の場合だとツールの話になってしまいますが、初期の段階で“LiveではなくESX-1で制作する”と英断したのが良かったと思います。方向性がビシッと決まれば、あとはそのままひたすら作るのみです!」

 

 続けて“オリジナルの素材をできるだけ生かすこと”も大切だと、食品まつりは説明する。

 「今回はある程度加工していますが、“オリジナルの素材が入っているな”と聴いてくれた人が分かる内容だといいですね。というのも、自分はリミックスしていると最終的にオリジナルからだいぶ離れていってしまう傾向があるんです。それではリミックスの意味がありません。やはり少しでもオリジナルの素材感が出せればよいと思います。そして“自分の音楽的要素”もしっかり入れること。今回ではキックレスなアレンジや、自分のシグネチャー・サウンドでもあるボンゴがそうです。自分の楽曲の傾向をよく知っておくことがコツでしょう」

 

 最後に食品まつりは、リミックスをこう例える。

 「リミックスは、まさにミックス・ジュースのような感じ。りんごとバナナ、両方を良い具合でミックスできたら最高です。また、その味に飽きたらレシピを全部変えてしまうくらいの気持ちも持っておいた方がいいでしょう。本能に任せて自分の解釈で自由にやるのもまた、その人のリミックスだと言えますから」

 

食品まつり a.k.a foodmanが掲げるリミックスの極意

─その1─
ソフトに頼らずハードを活用するのもあり

─その2─
オリジナルと自分の音楽的要素が分かるようなアレンジを!

─その3─
本能に任せて自分の解釈で自由にやるのも良し

 

食品まつり a.k.a foodmanのお薦めリミックス“BEST3”

『Ezra - DJ Earl rmx』
ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(自主配信)

 ジューク/フットワーク・シーンで活躍するDJ Earlのリミックス。自分はワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとDJ Earlの両者から影響を受けているのでたまりません!

 

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「The Bug & Daddy Freddy - Run The Place Red(AFX Mix)」
(『Smojphace EP』収録)AFX(Men)

 ノイジーなダンス・トラックを、エイフェックス・ツインがぶっ飛んだブレイクコアに仕上げていて最高です。曲展開における緩急の付け方もシビれます。

 

Lense

Lense(Yasuaki Shimizu Remix)

  • Motion Graphics
  • エレクトロニック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 情緒漂うビートが最高な原曲ですが、Yasuaki Shimizuさんが、そこにさらにユーモアの要素をプラスしたリミックスです。聴いていて楽しい作品ですね。

 

食品まつり a.k.a foodman

【Profile】名古屋出身のビート・メイカー。さまざまな国内アーティストとのコラボレーションのほか、Boiler RoomやLow End Theoryへのイベント出演、ディプロが主宰するレーベルMad Decentからのリリース、イギリスのNTS Radioで番組を持つなど多方面に活躍している。

Recent Work

Dokutsu - EP

Dokutsu - EP

  • 食品まつり a.k.a foodman
  • エレクトロニック
  • ¥611

 

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