banvoxからの挑戦状 〜banvox新曲を題材に3人の巧者が挑む ”リミックス制作の極意”

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数少ない素材をいかに効果的にリミックスへ生かせるか
そういった“制限の中に見える工夫”にも注目したい

2011年のデビュー作『Intense Electro Disco』から約10年、ベッド・ルームから世界の舞台へと一気に活躍の場を広げたDJ/プロデューサーのbanvox。彼が7月24日にリリースした最新作『DIFFERENCE』は、自身のルーツでもあるブーンバップやローファイ・ヒップホップにハード・スタイルやEDMトラップをミックスするという、まさに“banvoxしか成し得ない”アルバムとなり話題を呼んでいる。今回は、同作に収録された「Utrecht」のステム・データを用いて、異なる音楽ジャンルの3名のビート・メイカーがリミックスを制作。「Utrecht」はダイナミックなビートに乗るソウル調の上モノが印象的な楽曲だが、ここではbanvoxにその制作背景やこの特集のテーマとして選出した理由などについて聞いてみよう。

Text:Susumu Nakagawa

野太いキックやローファイなスネア
これぞ“ザ・ヒップホップ”という感じ

 最新アルバム『DIFFERENCE』をリリースしたばかりのbanvox。まずは本作に収録された16曲の中から、なぜ「Utrecht」を選んだのだろうか。その理由を単刀直入に聞いてみた。

 「インストゥルメンタルの方がいいと思ったんです。なぜならボーカル入りのトラックを題材にすると、ボーカルはそのまま残り、トラックだけが入れ替わったようなリミックスになるだろうと思ったから。そうなると、もはや自分の曲のリミックスではないような気がしたんです。そのため、ボーカルの無いインストゥルメンタルを選ぼうと思いました。これだと僕が作った素材しかないので、否応無しにそれらのどれかを必ずリミックスに使用することになると思ったのです」

 

Utrecht

Utrecht

  • banvox
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

 さらにbanvoxは、「Utrecht」を選んだもう一つの理由があるという。

 「ステム・データの数が少ない曲の方がいいなと思ったからです。ステム・データの数が多いと、単純にリミックスに使える選択肢が増えますよね? でも、それだと当然使われない素材も出てくるでしょう。そうではなく、数少ない素材をいかに効果的にリミックスへと生かすことができるのか……? そういった“制限の中に見える工夫”にも注目したいと思ったんです。だから、もともとステム・データの数が少ない「Utrecht」を選びました。キック、サブキック、スネア、ハイハット+リム、タンバリン、そして上モノの6つしか無いのです」

 

 そもそもこの曲は、どのような背景の元に制作されたのであろうか? banvoxはこう続ける。

 「ファイルを確認したら、制作時期は2011年だということが分かりました。僕は日中に曲作りを行うタイプなのですが、なぜか「Utrecht」のようなブーンバップやローファイ・ヒップホップを作るときは、全部深夜に行っているんです」

 

 今でもbanvoxは、当時の制作手順を思い出すことができるという。

 「現在はIMAGE-LINE FL Studio 20ですが、このときはFL Studioのバージョン10を使っていたと思います。基本的に僕は曲のイントロから作るタイプなので、恐らくこのときも上モノのワン・ループを作り、そこにビートを足して完成させるような流れだったでしょう。制作では、まずテンポ128BPMで制作したエレピにドラムとベースを足し、最後にボーカル・サンプルを加えて2ミックスに書き出しました。これを逆再生したものを、「Utrecht」では上モノに使用しています。なので上モノのテンポは本来128BPMだったのですが、カット・アップして「Utrecht」のテンポ90BPMにうまく合うようにしているのです」

 

 このようにして制作された上モノに、banvoxはキックやスネアを重ねていったそうだ。

 「これぞ“ザ・ヒップホップ”という感じの野太いキックやローファイなスネアのサンプルを、FL StudioのChannel Rackに入れて打ち込みました  。キックには、硬めのものとローエンドが効いたものの2種類のサンプルを用いています。できたドラム・パターンは一度まとめてオーディオに書き出した後、Playlistに張り付け、チョップしたり並び替えたりしてビートを再構築していきました  。ただ単にループするだけでは面白くないですからね。またオーディオに書き出してカット・アップすることによって、ローファイ・ヒップホップ特有の“サンプリング感”が強く出せますし、リバースした上モノと組み合わせることによってドラムの抜けも良くなり、面白いグルーブを作り出すことができます

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MIDIの打ち込み
IMAGE-LINE FL StudioにおけるChannel Rackのピアノロールに打ち込まれたドラム・パターン。上からKick 2/LoFi Snare/Snare 2/Sub Kick/Tmbとなっている。Sub Kickが細かいゴースト・ノートを刻んでいるところに注目してほしい(黄枠)

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オーディオのカット・アップ
banvoxは、Channel Rackで作成したキックとスネアを一度オーディオに書き出し、それをPlaylist(FL Studioのタイムライン画面)上でカット・アップしてビートを再構築。こうすることで、グルーブやサンプリング感を強く出すことができるという

ビート主軸の楽曲ではグルーブが命
“自分が乗れるビート”を作るのが先決

 banvoxはグルーブの秘けつとして、キックをトリガーにしたサイド・チェイン・コンプを上モノにかけているという。

 「最近は、サイド・チェインに特化したプラグインのXFER RECORDS LFOToolやNICKY ROMERO Kickstartを使っていますが、このときはFL Studioに付属のリミッター・プラグインFruity Limiterをサイド・チェインに用いています  。そのほかではタンバリンや、リム・ショットとハイハットのループもグルーブ感を出すために重ねていますね」

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サイド・チェイン・コンプ
FL Studio付属のリミッター・プラグインFruity Limiter。サイド・チェイン・コンプとして用いるには、画面最下段左側に見える“COMP”ボタン(黄枠)を押してコンプレッサー・モードに切り替えたら、“SIDECHAIN”でチャンネルを指定すればOKだ

 さらにbanvoxは、「Utrecht」の制作において以下のようなところにこだわったと説明する。

 「ビートを主軸とした楽曲では、グルーブが命。なので、自分が乗れるドラムを作ることが先決です。ドラムの打ち込みに関しては、特にキックのゴースト・ノートが重要で、僕はグリッドからかなりずらしています。またサイド・チェイン・コンプをかけた上モノをボリューム・オートメーションでフェード・アウトさせたり  、ボーカル・サンプルをスライド機能で加工したりしていますね。曲が一瞬終わったと見せて、また始まる展開も好きな部分です」

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MIDIの打ち込み
サイド・チェインのトリガーとなるキック(上段)と、上モノのボリューム・オートメーション(下段)。上モノは、キックをトリガーとしたサイド・チェイン・コンプによってリダクションされながら、同時にボリューム・オートメーションでフェード・アウトする

 続けて各パートのエフェクト処理についても教えてくれた。

 「EQには、プラグインのFABFILTER Pro-Qをほとんどのパートに使っています。特にハイハットでは高域を削ってローファイ感を演出したり  、上モノではベース・ラインを強調するために100Hz付近をブーストし、264Hzと1.6kHz付近をややカットしていますね。あとはスネアに空気感を付加するために、FL Studio付属のリバーブ・プラグインFruity Reeverbを用いたくらい。もともとあるグルーブ感や音色を大切にしたかったので、全体的なミックス処理は最低限にしたんです」

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EQプラグイン
FABFILTER Pro-Qでは、ハイハットの3kHzと10kHz付近をカットしてローファイ感を演出している

 曲の大部分が完成した時点でbanvoxは、普段から制作しているEDMとは音楽性が違うため、どこで“banvoxらしさ”を出すか思案したという。

 「いろいろ考えた結果、自分のダブステップ系の曲などともマッチするように全体的にビートや低域を強調した音作りを試みました。当時はマスタリングに特化したプラグインIZOTOPE Ozone 5のMaximizerで音圧を調整していました。あのころはコンプレクストロがはやっていたので、キックやスネアのアタック感も強調していますね。こういったところでほかの楽曲との統一感を出し、“banvoxらしさ”を表現できればよいなと思ったのです」

 

 banvoxはマスタリングにおけるステレオ・イメージングについて、こう続ける。

 「Ozone 5のStereo Imagingで300Hz以下を若干タイトに、800Hz〜3kHzをワイドに、3kHzから上をさらにワイドにしている感じです。300〜800Hz間は全く触れていませんが、割とこれが“banvoxらしさ”を出す秘けつでもあったりします。具体的にどの程度の割合になっているのかは秘密です(笑)」

 

どんなふうに“ぶっ壊して”くれるのか
とても期待しています

 普段はbanvox自身がリミックスを手掛けることもあるが、彼はどんなことを意識してリミックスを制作しているのだろうか。

 「やはり“banvoxがリミックスした”ということが分かる内容にするべきだと思います。分かりやすいのが“ネーム・タグ”です。『DIFFERENCE』の収録曲の冒頭にも入れていますが、リミックスでも必ず入れるようにしています。ネーム・タグはヒップホップのビート・メイカーたちが当たり前にやっている文化ですが、自分はそれをリスペクトしているのです

 

 banvoxはリミックスする際、自分の音楽性を強く押し出すことも意識しているそうだ。

 「banvoxに頼んだら“こんなリミックスになるんだろうな”と相手の期待を推測することが大事なんです。僕の場合は派手なドロップを作ったり、よく使うシンセのサウンドをあえて入れたりします。するとリミックスを依頼してくれた方も喜んでくれますし、リスナーも“あ、banvoxだ!”と気付いてくれるんです。フューチャー・ベースやトラップ系のリミックスでは割と個性が出しにくかったりするのですが、その中でもどうやったら“banvoxのリミックスだと分かってもらえるか”を意識していますね。たまに、それを裏切るときもありますが(笑)。記憶にあるのは、m-flo loves melody.&山本領平「miss you (banvox Remix)」。このときはあえてドロップを入れずに、超メロウなリミックスを作りました。これは良い意味で期待を裏切るのが狙いでした。また、この曲ではbanvoxの意外な一面を見せることができたと思います」

 

 今回は、3人の敏腕ビート・メイカーたちがリミックスするが、banvoxはどのような気持ちなのだろうか。

 「めちゃくちゃ楽しみです。原曲はローファイ・ヒップホップ系のトラックなので、普段のbanvoxらしくないとも言えます。そんな楽曲を、3名の方々がどう料理するのか、自分でも想像できないです。どんなふうに“ぶっ壊して”くれるのか、とても期待しています(笑)」

 

 さらに、読者コンテストについてはこう語ってくれた。

 「個性を出してほしいです。自分がそういうところを意識しているのもありますが、聴いていて“このアーティストっぽい”となるのは面白くないなと。もちろん自分の得意な音楽ジャンルで勝負するのはいいと思いますが、それだけじゃなく、それをさらに面白くする“何か”があればもっと良いなと思いますね!」

 

 以上の通り、「Utrecht」の制作の裏側から、自身のこれまでの経験を踏まえたリミックスについての考えを教えてくれたbanvox。読者コンテストでは、どのようにして“自分の個性を出していくか”が鍵となるのかもしれない。

 

banvoxのお薦めリミックス“BEST3”

Every Little Thing (Remix) [feat. Cam'ron, Irfane & Tekilatex] [Canblaster Remix]

Every Little Thing (Remix) [feat. Cam'ron, Irfane & Tekilatex] [Canblaster Remix]

  • Para One
  • エレクトロニック
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

 フランス出身のDJ、キャンブラスター。原曲をR&Bにしつつ、トラップやガレージなどへ次々と展開していくのが最高です。彼のリミックスの中でもずば抜けて格好良い曲!

 

 リドの個性を全面に押し出したリミックスです。ボーカルをカット・アップしてメロディを付けたりするところや、ビート、音色、展開、どれを取っても彼のサウンド。

 

Raise Your Weapon (Madeon Extended Remix)

Raise Your Weapon (Madeon Extended Remix)

  • デッドマウス
  • ダンス
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 FL Studio使いのマデオン。ドロップでは、ボーカルのカット・アップやシンセの音色などにFL Studioっぽさがよく表れているように思います。

 

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