UNIVERSAL AUDIOのレコーディング・システムLunaの拡張用プロセッサー(Luna Extension)API Vision Console Emulation Bundle。APIのコンソールVisionをエミュレートしたもので、LunaのプラットフォームLuna Applicationに立ち上げて使用できる。プリアンプの振る舞いまで再現するUNISONテクノロジーに対応し、サミング回路や出力部まで再現したというこのバンドル。いち早く導入した屋敷豪太氏のスタジオに伺い、エンジニア谷川充博氏とともに行われたドラム録りからひも解く。
Photo:井上嘉和 Movie:yucca
【動画】屋敷豪太 × 谷川充博がAPI Vision Console Emulation Bundleでドラム録音!
大別して4種類のプロセッサーを同梱
API Vision Console Emulation Bundleは、LunaをAPIのアナログ・コンソールVisionのエミュレーションとして使うためのLuna Extension。マイクプリの212L、フィルターの215L、ゲートの235L、コンプの225L、パラメトリックEQの550L、グラフィックEQの560Lという6つのモジュールから成るAPI Vision Channel Strip Collection(以下、API Vision)、単体の212LエミュレーションAPI Preamp、OPアンプ2520とカスタム出力トランスを再現したAPI Summing、バス・コンプ2500のエミュレーションAPI 2500 Bus Compressorを同梱している。
API Vision Channel Strip Collection
API Preamp
API Summing
API Visionを使用する際は、Luna Applicationミキサー画面のCONSOLEスロットにロード。オーディオ・トラックの場合、UNISONスロットにプリアンプが読み込まれていなければ、212LエミュレーションのAPI Preampが自動的に立ち上がる。ApolloのDSPを用いた低レイテンシー・モニター機能ARM(Accelerated Realtime Monitoring)をオンにして録音を始めると、API VisionはApolloのDSPで動作。API Preampの効果はかけ録りされるが、CONSOLEスロットのAPI Visionはモニターだけに作用する。
CONSOLEスロットの下のINSERTSスロットを見てみると、API Visionのアイコンがある。このアイコンはAPI VisionをCONSOLEスロットへ読み込んだのと同時に出現するもので、ARMをオフにしプレイバック/ミキシングの際にドラッグ&ドロップすれば、ほかのインサート・エフェクトとのルーティングを変更することが可能。またそのとき、API VisionはMacのCPUで動作する。
UAD-2プラグイン版も付属
次にバス/マスター用のプロセッサーを見ていこう。まずはAPI Summing。INPUTスロットにロードできて、音にAPIコンソールのサミング回路さながらのパンチを与えられるという。CONSOLEおよびINSERTSスロットでは、API 2500 Bus Compressorを使用可能。このバス・コンプは、ARMがオンのときにはDSP、オフの場合にはCPUで動作する。
入力〜サミング〜出力をAPIコンソール・モジュールのエミュレーションで固められるAPI Vision Console Emulation Bundle。もちろん、サミングだけをNeve Summing(別売りのLuna Extension)で行うようなコンビネーションも可能だ。また、API Vision Channel Strip CollectionとAPI Preamp、API 2500 Bus CompressorについてはUAD-2プラグイン版が同梱されており、Apollo/Arrow+手持ちのDAWソフトの環境でも使用できる。
速報 Luna バージョン1.2がリリース!
主な機能と更新点
- MCU対応のDAWコントローラーを使い、ミックスやオートメーションの設定が可能に
- 互換性のあるプラグインやLuna Extensionsへのサイド・チェイン入力が行えるように
- Luna Application/Instruments/ExtensionsがAPPLE Silicon Rosettaに対応
- クリップやMIDIノートのタイミングを素早く調整できる“ナッジ編集”を搭載
- バージョン1.1から20以上の機能を追加/強化
REQUIREMENTS(Luna)
Macのみ対応、Thunderbolt接続のApolloが必要、UNIVERSAL AUDIOのWebサイトから無償ダウンロード可能
※詳細はフックアップのWebサイトにて
ミックスされたときの音がほかより素直
APPLE MacBook ProにつながったApollo x8Pからもう1台のApollo x8P、Apollo 8、Apollo Twin MKIIという順にカスケード接続し、計18コアのLunaレコーディング・システムを構築している屋敷氏のスタジオ。今回はドラムに立てた16本のマイクをApolloへ入力し、Luna Applicationの各トラックにAPI PreampとAPI Visionをアサイン。24ビット/96kHzで録音を行った。セッションの後、Lunaについて屋敷氏に尋ねてみると「谷川さんと一緒にAPPLE Logic Proの音と比較したことがあって」と語り始める。
「そうしたらもう全然、Lunaの方がアナログ卓の前に座っているような感覚に浸れた。レコーディング・スタジオさながらの解像度だったり、奥行きの深さなどを感じたので、真剣に乗り換えてみようと思ったんです。大きな違いは“混ぜたときの音像”。Logic ProはLogic Proで非常に個性的なんですが、Lunaはもっと素直で。アナログ・ラバーの心をくすぐる音、って感じがしますね」
谷川氏も「卓でまとめる、という往年の手法をソフトの中で再現できるのが魅力。もちろん、その再現のクオリティが本当に高いんです」と絶賛する。他方、API Vision Console Emulation Bundleに関してはいかがだろう? 「APIコンソールを使っていたことがあるので、ドラムを録ってみたらすぐに分かったんですよ……“あの音がよく再現されている”って」と屋敷氏が言う。
「API特有のパンチがある音ですよね。96kHzとかで録音すると、実機で録るのと変わらないんじゃないかと思うほど。ドラムってレンジの広い楽器だから、音の再現性の高さをすぐに判断できるんです。あと、気に入ったセッティングを保存しておけるから、“あのときのバスドラの音が良かったな”などと思ったら、すぐに呼び出せるのも良い。実機だと電圧やパーツの具合によって音が変わってくるし、それがマジックにつながることもあるんだけど、僕は音質マニアじゃないから“あの音”ってひらめいたら、すぐに使いたいんです。音楽自体に集中できるのは、ありがたいことですね」
実機の振る舞いまで再現されている
「APIの卓で録って、その卓でミックスまでするというプロセスが画面上でスムーズに行えるよう設計されているんです」とは谷川氏の弁だ。
「そして、やっぱり音が抜群。アナログ機材が持つ飽和感だけでなく、“プリアンプに音量を突っ込んだらこうなる”とか“オーバーにEQするとこう”といった振る舞いを含め再現されていると思うんです。オリジナルの音の印象的な部分だけでなく、音量の大小によって音色が変化していく一連の流れと言うのでしょうか。そこが再現されているからこそ、実機を触っているような気持ちになるのかもしれません。僕は京都精華大学で技官を務めていて、学内のAPIコンソール1608を使うことがあるので、その感覚を想起しますね。あと、現行品のAPI 512C(マイクプリ)とビンテージの560B(グラフィックEQ)でバス・ドラムを録ったときに“API Visionでやるのとほぼ同じ音になるな”と思ったこともあります。もちろん単体の音だけでなく、混ざったときの印象も実際の卓に肉薄していますよね。“そうそう、この感じ!”っていう具合に仕上がるんです」
「API Summingの代わりにNeve Summingを使えたりするのも面白いですね」と屋敷氏。
「ビンテージのAPIコンソールだと、当然APIのモジュールを使うしかないわけですが、Lunaであれば別ブランドのものを混ぜて使うこともできる。昔には無かったような新しい音像作りにつながるでしょうし、そういう環境をコンパクトな形で手に入れられるのがうれしいですね」
API Vision Console Emulation Bundleという強力な拡張プロセッサーを得たLuna。今後のアップデートを屋敷氏や谷川氏のようなプロフェッショナルがどう使いこなしていくか、楽しみでならない。