注目の製品をピックアップし、Rock oNのショップ・スタッフとその製品を扱うメーカーや輸入代理店に話を聞くRock oN Monthly Recommend。今回はラージ・ダイアフラム搭載のコンデンサー・マイク、NEUMANN TLM 102 / TLM 103 / TLM 107を紹介する。ゼンハイザージャパンの真野寛太氏と、メディア・インテグレーションの清水修平氏に話を聞いた。
Photo:Takashi Yashima(except*)
TLM 102
ラージ・ダイアフラムを搭載するトランスレス回路のコンデンサー・マイク。6kHz以上がわずかにブーストされており、ミックスの中でボーカルが自然と際立つ特性になっているため、スピーチのようなシチュエーションでも有用だ。最大音圧レベルは144dBで、ボーカルだけでなくドラムやギター・アンプなど、幅広いソースの収音が可能。指向性はカーディオイドのみとなっている。外形寸法は52(φ)×116(H)mm、重量は210gというコンパクトなサイズ感も特徴の一つ。グリル内側にはポップ・フィルターを内蔵し、本体のカラー・バリエーションはブラック(写真左)とニッケル(同右)が用意されている。スイベル・マウントが付属。
TLM 103
U 87を元にしたカプセルを内蔵する、トランスレス回路のコンデンサー・マイク。5kHzまでフラットで、それ以上はわずかにブーストされた特性を持つ。最大音圧レベルは138dBで、指向性はカーディオイドのみとなっている。外形寸法は60(φ)×132(H)mmとTLM 102よりも一回り大きく、重量は約450gだ。本体のカラー・バリエーションはマット・ブラック(写真左)とサテン・ニッケル(同右)から選ぶことができる。スイベル・マウントと木製の専用マイク・ボックスが付属。
TLM 107
ラージ・ダイアフラムを搭載するトランスレス回路のコンデンサー・マイク。8kHzまでフラットで、それ以上はわずかにブーストされた特性を持つため、ボーカルからスピーチまで明りょうなサウンドを実現する。また、グリル部分はポップ・ノイズに低感度となるようにデザインされている。最大音圧レベルは138dBで、高音圧の入力にも耐えうる設計。本体背面にはナビゲーション・スイッチを搭載し、PADやローカット・フィルター、指向性の切り替えが行える。外形寸法は、164(φ)×145(H)mmとTLM 103よりも一回り大きく、重量は445gだ。本体のカラー・バリエーションはブラック(写真左)とニッケル(同右)の2色。
●あらためて、NEUMANNとはどのようなブランドであるのかを教えていただけますか?
真野 NEUMANNは1928年にゲオルグ・ノイマンによってベルリンで設立された音響機器ブランドです。これまでにコンデンサー・マイクを商品化したり、ファンタム電源システムを考案したり、指向性の切り替えスイッチを開発したりと、マイク製品を中心に展開しています。レコーディング・スタジオや放送局など、世界中のプロフェッショナルな現場で用いられるマイクを製造し続けており、90年以上経つ今では“マイク・メーカーの老舗”というイメージを持つ方も多いかもしれません。
清水 レコーディング・スタジオではNEUMANN U 87 AIがスタンダードなマイクとして認識されている印象です。
●TLMシリーズとは、どのようなものなのでしょうか?
真野 まず、先ほどお話ししたU 87 AIは約400,000円前後という価格設定で、どちらかというとプロ向けのモデルとなっているのですが、これからお伝えするTLMシリーズの3モデルは、NEUMANNの中では比較的安価な製品となっており、割とライトなユーザー層に向けたマイクだと言えます。またTLMシリーズの“TLM”は、トランスフォーマーレス・マイクロフォンを略したもの。その言葉通りトランスを内蔵していないためフラットな音質になる傾向があり、なおかつリーズナブルな価格に設定しやすいというメリットがあるんです。
清水 大きく分けるとNEUMANN U 67やU 87 AIには真空管やトランスといったパーツが入っていて、TLMシリーズに関してはそういったものが無いということですね?
真野 そうです。そのため、TLMシリーズのサウンド・キャラクターは癖の無い傾向だと思っていただければ大丈夫です。
●TLM 102 / TLM 103 / TLM 107の違いについて教えていただけますか?
真野 TLM 102とTLM 103は兄弟のようなイメージです。両者共に指向性はカーディオイドのみなので、主に自宅環境で録るのに優れています。
清水 TLM 102は、TLM 103より一回り小さいですよね。こぶし1つ分くらいのサイズ感で、わずか210gという軽さ。これなら持ち運びにも便利そうです。
真野 TLM 102の特徴は、最大音圧レベルが144dBというところ。ボーカルだけでなく、ドラムやギター・アンプなど大音量の収録でも音がひずみにくく、初心者にとっても扱いやすいマイクだと言えるでしょう。一方、TLM 103の特徴はセルフ・ノイズが低く、最大音圧レベルが138dBだということ。TLM 102と比べるとその値は若干低いのですが、それでも大音量に耐え得る性能を備えています。またNEUMANN U 87を土台とするカプセルを装備しているので、バランスの取れたサウンドを提供してくれるでしょう。
清水 なんと言っても、TLM 103はビリー・アイリッシュ兄妹が自宅スタジオで使っていましたからね。ビリー・アイリッシュのようなボーカルを録りたければTLM 103ですよ!
真野 なお、3つのマイクの中で一番大きいTLM 107は2014年に販売開始された製品で、オムニ、ワイド・カーディオイド、カーディオイド、ハイパー・カーディオイド、フィギュア8という5種類の指向性パターンを切り替えられるのが特徴です。また0/−6/−12dBで選択できるPADスイッチや、リニア/40/100Hzで選べるローカット・フィルターを搭載しているのもポイントですね。
●これらのマイクを実際に使用してみていかがでしたか?
清水 まず、TLM 102は低域が控えめで、高域が持ち上がっているような印象です。録り終えた段階で情報量がある程度整理されているため、ビギナーでもその後のミックス処理がしやすいと思います。
真野 TLM 102は、ボーカルの存在感を際立たせるために6kHz以上をわずかにブーストしているんです。
清水 先ほどの話にも出たように、TLM 102は最大入力音圧レベルが144dBもあるので、用途を選ばずに使用できて便利でした。指向性がカーディオイドなので、ボーカルや楽器をグッとフォーカスして録ることができます。さらにグリル部分の内側にはポップ・フィルターを内蔵しているため、ポップ・ガード無しでも十分良いボーカルが録れるのもポイントです。
真野 ボーカル・マイクでは、TLM 103も人気です。
清水 TLM 103は、高域と低域が緩やかに緩やかにロールオフしている感じです。その後のミックスでは、TLM 103の方が処理のやり甲斐がありそうですね。最初にTLM 102を購入して経験値を貯めてから、ステップ・アップとしてTLM 103を手に入れるユーザーさんが多いのも納得です。
真野 逆にTLM 107でローカット・フィルターをリニアにすれば、そのままの低域を録ることも可能です。
清水 ローカット・ポイントを40/100Hzで選べるのも良いですよね。TLM 107は14〜15kHzが若干ブーストされているようで、音の粒立ちやブレスをくっきりと録ることができます。しかし、TLM 107の強みはやはり5種類の指向性切り替えができるところでしょう。
真野 あるバンドのボーカリストはライブでもTLM 107を使用しているらしく、その理由は“レコーディング水準の音質でライブをやりたいから”ということでした。
清水 指向性がカーディオイドだとカブリが心配ですが、TLM 107ならハイパー・カーディオイドがあるから安心ですね! あとエンジニア的な視点で言えば、5種類の指向性切り替えは音色調整として使用することもできます。実際に試してみたところ、カーディオイドはすっきりしたサウンドで、ワイド・カーディオイドにするとさらにすっきりする印象。ハイパー・カーディオイドはTLM 103の音に似ている……という具合に、TLM 107が1台あれば収録時の選択肢が増えることでしょう。ちなみにワイド・カーディオイドでは部屋鳴りが録れるので、アコギなどにいいかもしれません。
●最後に、TLM 102/TLM 103/TLM 107はどのようなユーザーへお薦めしたいですか?
真野 TLM 102はビギナー向け、TLM 103とTLM 107はビギナーからセミプロ向け、という印象です。いずれもNEUMANNらしいサウンド・キャラクターを持っているので、NEUMANNの上位機種に憧れている方はこれらのモデルから入門するのもよいかもしれません。
清水 良いマイクと悪いマイクの違いは、はっきり言うと“音の密度の濃さ”にあります。本当にそれを分かっている人ならNEUMANNのマイク、一択だと思います!
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