AUDIOSOURCERE Demix Pro 〜Rock oN Monthly Recommend vol.42

AUDIOSOURCERE Demix Pro 〜Rock oN Monthly Recommend vol.42

 注目の製品をピックアップし、Rock oNのショップ・スタッフとその製品を扱うメーカーや輸入代理店に話を聞くRock oN Monthly Recommend。今回紹介するのはAUDIOSOURCERE Demix Proだ。音声分離ソフトであるDemix Proは、2ミックスなどから楽器ごとにトラックを分けることが可能。同社の高度なアルゴリズムにより、音質の劣化を最小限にとどめながら、クリアに各楽器を分けることができる。代理店であるクリプトン・フューチャー・メディア SONICWIREチームの林有希寛氏、メディア・インテグレーションの伊部友博氏に話を聞いた。

AUDIOSOURCERE Demix Pro

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Demix Pro|62,700円(価格は為替相場によって変動)

 2ミックスなど複数の楽器やボーカルが混ざった音源から、それぞれのトラックを分離することができるソフトウェア。WAVやAIFF、FLAC、MP3ファイルの読み込みに対応しており、解析や分離処理はクラウド上で行われる。分離できるトラックはボーカル、ドラム、ベース、ギター、それら以外の5種類だ。

 

●AUDIOSOURCEREについて教えてください。

 Dr.デリー・フィッツジェラルド氏が、18年以上に及ぶ音声分離技術についての研究を元に作ったメーカーです。2018年に設立され、まだスタッフの人数も多い会社ではありませんが、彼らが持つ高度な音声分離技術は他社の製品の追従を許さないレベルになっています。新しいメーカーですので製品ラインナップはまだ少なく、今回紹介するDemix ProとDemix Essentials、Repanという3製品のみです。ですがDemix Proは既にバージョン3へと進化しており、開発が積極的に行われていることが伺えます。

 

●Demix Proは2ミックスからマルチトラックへの分離を可能としたソフトウェアです。どういったシーンで使われることが多いのでしょうか?

 トラック・メイカーのサンプリングで使われることが多いと思います。ほかにも、昔の曲のステム・データが残っておらず、リミックスできないという場合にも活用できるでしょう。最近ではDolby Atmosの音楽も増えてきましたし、そういったものに対応するミックスを作る際などに2ミックスからトラックを抜き出したいという場面でも便利だと思います。音楽における音声分離に特化しているというのも大きな特徴と言えます。個別の楽器のフレーズがよく聴き取れるので、耳コピをする方にも便利に使っていただけるはずです。

伊部 カセット・テープに入っている昔作ったデモなどから歌だけを取り出したいというような需要にもマッチしていると思います。実際、僕もそういったことをしているんですけど、昔の素材をよみがえらせられるというのが楽しいですね。ほかにも、20年くらい前に買ったループ素材集をパートごとに分離することもできます。そのころから音楽制作をされていた方はループ素材集に結構投資されていたと思いますし、それを今再利用できるというのは僕としてお勧めできるポイントです。

 

●現在はバージョン3となっていますが、性能の向上は感じられますか?

伊部 Demix Proはバージョン1から試してきましたが、現在のバージョン3でさらに分離性能が高くなっていますね。

 はい、大幅にアップグレードしています。ボーカルの分離では、リバーブ成分も一緒に抜き出してくれるんです。“この曲の歌にはこういったリバーブを使っているんだな”と分かるくらいの分離感になっています。また、音声分離をすると位相による影響が出たりしますが、Demix Proではそれが少なくてクオリティの高さを感じられます。

伊部 他社の音声分離ソフトとボーカルの抜き出しで比較したこともありますが、Demix Proでは音の質の良さを感じました。特にバージョン2で気になっていた子音部分のクリアさがバージョン3ではかなり上がっていましたね。ベースの分離機能はバージョン2で備わりましたが、バージョン3になってからローエンド部分とアタック成分がしっかりと出るようになっています。恐らくアルゴリズムがより高度になったのでしょう。ドラムの分離についても、キックの胴鳴りのふくよかさがちゃんと出ている印象です。

 さらにすごいのは、リード・ボーカルとバック・ボーカルを分けて抽出できることです。ここまでできる音声分離ソフトはほかに無いのではないかと思います。ただ、YAMAHA Vocaloidなどバーチャル・シンガーの歌だと抜き出しは少し難しいです。人の声よりもシンセに近い音なので当たり前なのですが、そういう状態でも抜き出せる場所はありました。日本に比べて海外ではバーチャル・シンガーの楽曲はそこまで研究されていないと思うのですが、それでもある程度抜き出せるクオリティまで技術が進歩しているのが感じられます。

 

●バージョン2まではボーカル、ベース、ドラム、それ以外というように楽器の分離ができましたが、バージョン3ではギターが追加されています。

 ギターという楽器は、特にディストーション系になるとかなり幅広い帯域にわたって音の成分が散りばめられる感じになります。そのため分離が難しい楽器なのですが、バージョン3のアルゴリズムでは違和感無く抜き出すことができており、とても画期的な進化を遂げました。

 

●Demix Proの基本的な操作はどのような流れですか?

 WAVやAIFF、FLAC、MP3形式の楽曲データを読み込んで、画面上部にあるVocals、Drums、Instruments、Four stemsのボタンを押すと楽曲データがサーバーへ送られて分離処理が実行されます。Vocalsではオプション画面でAll VocalsとLead Vocalを選択でき、前者はコーラスを含めて、後者はリード・ボーカルのみを抜き出すことが可能です。Instrumentsでは抜き出すトラックをBass、Electric Guitar、4th stemから選択できます。4th stemはボーカルとドラム、ベースを除いたトラックです。Four stemsではVocals、Drums、Bass、Otherの4trへ自動的に分離されます。先に述べたバック・コーラスについては、VocalsでAll Vocalsを選んでボーカルとそれ以外のトラックへ分離した後、さらにVocalsでLead Vocalを選ぶことでリード・ボーカルとバック・コーラスに分けることが可能です。

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Instrumentsで分離するときのオプション画面。Bass、Electric Guitar、4th stemを選択できる。Electric Guitarは現在のバージョン3から搭載された機能で、ディストーション・ギターなどの倍音が多く含まれたサウンドも解析して、クリアに分離させることが可能だ。4th ste mはボーカル、ドラム、ベース以外のトラックを表している

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ミキサーを表示できるMixer View。マルチトラックのセッションが無い場合でも、2ミックスから各トラックのバランスを取り直すということも可能。ボーカルをミュートすればカラオケ・トラックも作成できる

●詳細な調整ができるSpectral Viewという画面も備えていますね。

 周波数帯域を見ながら、さまざまな選択ツールや消しゴム・ツールを使って不要な成分のカットなどが可能です。以前のバージョンからSpectral Viewでの細かい調整は行えましたが、バージョン3ではその必要も無いくらいの精度になりましたね。基本的にはFour stemsで一度に分離しても十分なクオリティで抜き出すことができます。実際、バージョン2ではSpectral Viewのほかにボーカルのメロディ・ラインを指定できるMelody Viewがあったのですが、バージョン3の分離性能の向上に合わせて排除されました。

伊部 プロフェッショナルな人にとっては“この部分だけを選択したい”ということはあると思いますし、そういう場合にはSpectral Viewは有用です。周波数成分から目的の音を選択するとき、基音だけでなく倍音まで選ばないとうまく聴こえないことが多いですが、倍音まで含めて選択できるツールもしっかりと用意されているのが素晴らしいです。マニアックに詰めていくことができるのも面白くて、本来の目的とは外れてしまいますが、変なサウンドを作るためのエフェクト的にも使えてしまうんじゃないかと思いました。

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Spectral Viewではスペクトログラム表示でのエディットが可能。特定の周波数帯域の音だけ選択して消去するなど、細かな調整が行える。画面左側にあるのは編集ツールのパネルだ。倍音やトランジェントを選択できるツールも用意されている。非破壊編集なので、履歴をたどって元に戻すことも可能だ

●バージョン3での進化を見ると、今後の発展もかなり期待できます。

伊部 Demix Proはクラウドでの処理を行うソフトなので、バージョン・アップによってインターフェースや機能面だけでなく、アルゴリズム自体がどんどんと良くなっていくというのが現代的ですね。処理時間も短縮されてきた気がします。設立当初は、フィッツジェラルド氏のそれまでの研究が落とし込まれたわけですが、そこから数年たっていますし、これからさらに技術も上がっていくでしょう。そうすれば、バーチャル・シンガーの声の分析もアルゴリズムの改良によってできるようになるかもしれないですね。シンセも、プラック系やパッド系とかまで分けられるときが来るんじゃないかと楽しみです。

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クリプトン・フューチャー・メディア SONICWIREチームの林有希寛氏(写真左)、メディア・インテグレーションの伊部友博氏(同右)

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