音職人の「道具」〜Arte RefactのAMPHION Two18+BaseOne25

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一流のプロが制作手法や愛用機材を語る本コーナー。今回登場していただくのは、プロデューサーの桑原聖氏(写真右)が率いるクリエイター集団、Arte Refactだ。一昨年、さまざまなこだわりの機材を取りそろえて自社スタジオを稼働させた彼ら。2つのルームのうち、大きなat. Classicのメイン・モニターとして、AMPHIONのTwo18(2ウェイ・パッシブ型)にサブウーファーBaseOne25(ステレオ・パッシブ型)を加えた構成を採用している。所属エンジニア菊池司(同左)と桑原の両氏に、彼らの制作環境に強いこだわりを持つ理由も含め、詳しく話を聞いた。

Photo:Hiroki Obara

 

解像度と低域再生能力を兼ね備えた
Two18+BaseOne25


 桑原聖氏率いるArte Refactは、『あんさんぶるスターズ』シリーズをはじめ、さまざまなゲーム/アニメの音楽を手掛けるクリエイター集団。昨年、新宿に2ルームの自社スタジオStudio Arteを構えた。部屋のサイズこそ異なるものの、そのat. Classicとat. Modernはどちらも独立したブースを備え、クリエイターのトラック制作からダビング、ミックスまでを賄うことができる。桑原氏はこう語る。

 「スタジオを造るにあたり、僕はどちらかというと、AD/DAやケーブル、キュー・ボックスにこだわろうとしていました。同じオーディオI/Oを使ったスタジオでも、場所によってサウンドの印象が随分違っていると感じていましたから。一方、Arte Refactのエンジニアや作家陣は、モニター・スピーカーこそ重要だと力説していて、さまざまなブランドの製品を試してみることにしたんです」

 

 特にat. ClassicへのAMPHIONの導入に積極的だったという所属エンジニアの菊池司氏は、こう付け加える。

 「桑原がAD/DAにこだわるのは音の入口が重要だという認識だと思いました。一方で、それをジャッジするための出口も重要だと僕は感じていて。個人的に、AMPHIONを借りてみたときに、すごく印象が良かったのですが、そのときはいろいろな事情で導入には至らなかった。だからこそこのタイミングで桑原に提案してみたんです」

 

 しかし、桑原氏にとって、当初AMPHION Two18は、期待していたほどは良いと感じられなかったという。

 「One/Twoシリーズはニアフィールド用途としては良いんですが、今、自分たちが作る音楽からしたら、低音が足りないと感じたんです。だったらウーファーを足せばどうなるかが気になり始めました。実際にTwo18+BaseOne25で試聴をしてみたら、そこで考えが変わりましたね。全体像を見る上で、BaseOne25を入れるだけで世界が変わる。正直に言えば、現在の各ブランドのスピーカーはどれも良いし、こだわって造ったスタジオだからどれも良い音で鳴ってくれました。でも、AMPHIONの解像度の高さは魅力で、せっかくそのほかもこだわってスタジオを造ったのだから良いスピーカーを入れておこうと思い、導入を決断しました

 

 当初からAMPHION導入に前向きだった菊池氏にとっては、我が意を得たりだったようだ。

 「現代の音楽は低域の量が多いので、低域再生能力が重要です。低音が出ていても分からなかったり、実体感が無いというスピーカーも多いと思います。BaseOne25はその低域解像度が高く、今までのニアフィールド・モニターやラージ・モニターの感覚とは少し変わってくる。この低域の感覚になじんでいくのが現代の制作にとって重要だと思います

 

純正アンプの癖の無いキャラクターと
それを描き出すパッシブ・モニターの実力

 

 さまざまな選択肢がある中で、彼らはなぜAMPHIONを選んだのか? まず菊池氏はこう説明する。

 「AMPHIONがパッシブであることが大きかった。アクティブ・モニターはカラーが出やすいと感じているんです。AMPHIONもカラーはありますが、最も素直で解像度が高い。いろいろな方が来るレコーディング・スタジオにとって、公平なスピーカーだと思っています」

 

 以前、Two18のアンプとしては同社ステレオ・モデルのAmp500が推奨されていたが(現在は生産完了で後継のAmp700が登場)、at. Classicに導入されたのはAmp500
Mono。片側につき1台ずつ使用する、バイアンプ仕様のモデルとのことだ。桑原氏は「BaseOne25をオフにしたTwo18のみの状態でも、解像度はより高く感じます」とその効果を絶賛。菊池氏も「ステレオのセパレーションが圧倒的に奇麗」と付け加える。また、両氏はあえてほかのパワー・アンプでTwo18をドライブするテストもしたそう。桑原氏はそのときの印象をこう語る。

 「AmpシリーズはクラスDで、癖や個体差が無いんです。一般的なパワー・アンプでTwo18を鳴らしても、アンプの癖が音に出てしまう。パッシブとはいえ、専用アンプとの相性が良さを含めて、成り立っているんだなと思いました」

 

 菊池氏もその意見に同意しているようだ。

 「AMPHIONのアンプが基準としてあることが大きいですね。もちろん好みでアンプを替えるのはいいと思いますが、AMPHIONスピーカー自体の素直さ、解像度の高さは、何をつないでもはっきり出てくると思います」

 

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デスク下に置かれたAMPHION製パワー・アンプ。上の2つがAmp500 Monoで、ステレオ・モデルが2つのchをL/Rに振り分けるのに対し、クロスオーバーを介して片方のチャンネルのLF/HFに分配している。下はBaseOne 25用のBaseAmp 500。桑原氏によると、L/Rでアンプを個別に用意するというアイディアは、ある著名アーティストが“L/Rでパワー・アンプを分けると、YAMAHA NS-10Mが異次元の音になる”という趣旨の発言していたことが印象に残っており、それを実践してみたかったとのこと

 

マイク+プリアンプの微細な差を追求
できることはすべてやり尽くすためのベストな選択

 

 Arte Refactでは、日々の制作と並行して、このスタジオでさまざまな機材の組み合わせをテストし、サウンドの研究を続けているという。桑原氏は代表として、その意義を語る。

 「良いものを知ってから違いが分かるようになろうという発想なので、微細な違いを研究して、この曲に、この人に何が合うのかを突き詰めていきたい。その勉強代としての機材購入は高くない……実際は高いですけど(笑)、見返りはすごくある。なんとなく格好良い音じゃなくて、確信を持って格好良い音を生み出せることが重要だと思います」

 

 そんな中、最近導入に至ったのが、VERTIGO SOUNDの2chマイクプリ、VSP-2だという。桑原氏が印象を語る。

 「音像ははっきりしていて、嫌なピーク感が無い。なおかつ、Fineを上げると、明るくしたいとか、そんなにローが要らないなというときに便利に使えます」

 

 菊池氏がさらに説明を加えてくれた。

 「中域がカラフルなんです。ここの常設プリとしてGORDON Model 4とELECTRODYNE 2501がありますが、その2つの中間的であり、少し柔らかいので、歌にマッチします。手持ちのプリやお借りしたデモ機全部と比較して、残った一台ですね」

 

 微細な差だが、確実に差があること……研究を繰り返してそんなノウハウを貯め続ける彼らにとって、AMPHIONのモニター・システムはその“差”を描き出すツールであるとも言えるだろう。菊池氏はこう続ける。

 「イヤホンで分からない違いは気にしない、というのも一つの考え方です。でも最終的な責任として、できることはすべてやり尽くしたいというのが僕らの姿勢ですね。そのためにベストな選択がAMPHIONのこのシステムでした

 

 桑原氏は、最後にこう付け加えてくれた。

 「作家の中にもミックスにかかわる部分はエンジニアに任せたいタイプと、自分で相当音を作り込んだ上でファイナル・タッチだけエンジニアに依頼したい人がいると感じています。Arte Refactの作家は後者に近いのかなと思いますが、そういう考えの人にはAMPHIONのモニターは向いているように思いますね」

 

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上段が、インタビュー中で語られている新規導入した2chマイクプリのVERTIGO SOUND VSP-2。ゲインは6dBステップで、微調整としてFineが用意されているが、このFineでキャラクター・コントロールができるという。その下は、以前から常設していたELECTRODYNE 5501とGORDON Model 4×2基。そのほかStudio ArteにはビンテージのTELEFUNKEN V76/80なども用意されている

 音職人の「道具」 AMPHION Two18+BaseOne25

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フィンランドのメーカーによる2ウェイ・パッシブ・モニター・スピーカーTwo18。2基のミッドレンジ/ウーファーは、いずれもアルミニウム製で6.5インチ径、ツィーターはチタニウム製であり1インチ径となっている。周波数や位相のレスポンスの良さを特徴とする。手前下には低域を拡張するBaseOne25をセット。10インチ・アルミニウム・ドライバーを上下に1基、さらにその反対側に同口径のパッシブ・ラジエーターを2基装備する。なお、手前のデスクにはAPI 550Bをはじめとするモジュールやアウトボードなどが埋め込まれている

 

取材協力:ミックスウェーブ

 

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