イギリスに本社を置くプロ音響ブランドWharfedale Pro(ワーフデールプロ)から2022年にリリースされたGPLシリーズとSIGMA-Xシリーズ。設備での使用に適したこの2つのシリーズの特徴を、日本でWharfedale Proの製品を取り扱うイースペックの山口由晃氏に聞いた。
GPLシリーズ|定位感に優れた同軸ユニット・スピーカー
GPLシリーズは、Wharfedale Proのラインナップで初めて同軸ユニットを採用した設備向けのモデルだ。
「通常の2ウェイ・スピーカーと違って高域と低域が同じ位置から出てくる同軸ユニットは定位が良く、設備用のスピーカーとしても使いやすいため、日本からもWharfedale Proに『作ってほしい』という要望を伝えていましたから、われわれにとっても待望のリリースと言えます。また、採用されている同軸ユニットが評価の高いスペインのbeyma(ベイマ)製ということもあり、かなり期待して音を鳴らしてみたのですが、期待通りの良い音を聴かせてくれました」
フル・レンジ・モデルのラインナップは、5インチ・ウーファーと1.5インチ・ツィーターからなるGPL-5、8インチ・ウーファーと1.75インチ・ツィーターからなるGPL-8、それぞれのハイ・インピーダンス・モデルGPL-5T、GPL-8T。さらに、12インチ・ウーファーと2.87インチ・ツィーターからなるGPL-12、15インチ・ウーファーと2.87インチ・ツィーターからなるGPL-15、それぞれに指向角度の違いを持たせたGPL-12HQとGPL-15HQが用意されている。
「HQが付くモデルはツィーターのホーン・ドライバーの形状が違うのです。GPL-5とGPL-8は指向角度が円錐状に70°、GPL-12とGPL-15は円錐状に60°ですが、GPL-12HQとGPL-15HQは左右に80°と上下に40°、横のエリアを広げて縦を絞る形になっています。天井が低い場所や、間口が広い場所へ設置するのに適しています」
GPLシリーズのフル・レンジ・モデルには、オリジナル・デザインのウェーブ・ガイド・ホーンが備わっており、高域を直接聴者に向けることができる上、不要な反射を低減できるのも特徴だ。
サブウーファーは、8インチ・ウーファーが2基並んだGPL-28B、15インチ・ウーファーが1基のGPL-115B、18インチ・ウーファーが1基のGPL-118B、18インチ・ウーファーが2基並んだGPL-218Bの4モデルが用意されている。GPL-28Bは、ディスクリート/パラレル・モードの切り替えが可能で、システムの柔軟性を高めている。
GPLシリーズの音の特徴について山口氏は「上から下まできれいに鳴る」と語る。
「例えばGPL-8の場合、低域は53Hz。8インチでここまで出る上に、高域は25kHzとかなり伸びているので帯域が非常に広いのです。基本的にはサブウーファーがなくてもフル・レンジ帯域が鳴るようにチューニングされているなという印象です」
用途としては小さいスペースのBGMなどにも適しているという。
「あと、なるほどと思った使い方がありました。お付き合いのある音響会社さんがやっていたのですが、間口の広いステージで真ん中辺りの音が抜けてしまうところにGPLシリーズをステージ・フロント・スピーカーとして使っていたんですね。設備向けのスピーカーではありますが、そういうふうに仮設にも使えるのだなと思いました」
SIGMA-Xシリーズ|教室や会議室に適したカラム・スピーカー
一方のSIGMA-Xシリーズはカラム・スピーカーだ。3インチのフル・レンジ・ドライバー5基にコンプレッション・ドライバー1基を搭載したSIGMA-XV5と、3インチのフル・レンジ・ドライバー9基にコンプレッション・ドライバー2基を搭載したSIGMA-XV9がラインナップされている。共にmini EVO-Foldと呼ばれるウェーブ・ガイドを備え、水平面と垂直面の両方において均一なカバレージを提供してくれる。
「教室や会議室のような、天井高が低く縦に長い部屋で、上下の指向性を狭くし、音を遠くに飛ばしたいような用途に適しています。どちらも横の指向性は120°とかなり広くて、縦の指向性はSIGMA-XV5が30°、SIGMA-XV9が20°です。フル・レンジ・ドライバーに加え、コンプレッション・ドライバーを付けたことで鳴りがすごくいいですね。ウーファーが3インチなので音楽を再生するには迫力に欠けるかもしれませんが、スピーチは逆にきれいに聴こえるという印象があります」
カラム・スピーカーは使用するユニットが多くなるため価格も高くなりがちだが、SIGMA-XシリーズはSIGMA-XV9でも他社製品に比べ1~2割ほど抑えた価格設定である。その要因は自社生産体制にあるという。
「GPLシリーズはbeymaのユニットを採用していますがこれは特別なケース。多くの製品は中国の江西省吉安市にある自社工場製でSIGMA-Xシリーズのユニットもそこで作られています。Wharfedale Proは自社工場で作ってコストを抑えることを会社の理念としてやっていて、SIGMA-Xシリーズはそれがよく表れた製品だと思います。また、両シリーズとも、サブウーファーを除いてコの字ブラケットは付属品で付いています。ブラケットは別売りが多いと思うのですが、Wharfedale Proは昔から「必ず使うものだから付属品にする」ということを実践しています。この辺りもコスト・パフォーマンスの高さにつながっていると思います」
トータル・ブランドWharfedale Pro
GPLシリーズとSIGMA-Xシリーズに組み合わせるパワー・アンプとして山口氏は「Wharfedale ProのDPシリーズがお勧めです」と話してくれた。
「DPシリーズは出力に応じて5つのモデルがあり、これをベースに、シグナル・プロセッサーを内蔵したDP-Fシリーズと、シグナル・プロセッサー内蔵+Dante対応のDP-Nシリーズが用意されています」
またWharfedale Proは、スピーカーとパワー・アンプ以外にもさまざまなプロダクトを手掛けている。
「まだまだ名前を知らない方も多いと思いますが、Wharfedale Proは音の入口から出口までを手掛けているブランドです。マイク、シグナル・プロセッサー、ミキサーから、スピーカーもポータブルなものからスタジオで使うパワード・モニターや大きな会場で使うラインアレイまで幅広くラインナップしていて、トータルでプロ音響のマーケットをサポートしていることを知ってもらえたらうれしいですね」
◎本記事は『音響映像設備マニュアル 2023年改訂版』より転載しています。
1980年代より、長年にわたって全国の専門学校等で教科書としてご採用いただいている音響/映像/照明の総合解説書『音響映像設備マニュアル』。2年振りとなる本改訂版では、随所を最新情報にアップデートしました。