親しみのある楽器でありながら千差万別。それがピアノの面白さであり、膨大な数のピアノ・ソフト音源が市販されている理由でもあるのでしょう。本企画では話題の14製品をピックアップして、作編曲家の牧戸太郎さんにレビューしていただきました。また、各製品の試聴音源では、牧戸さんにタイプの異なる3つのフレーズを制作していただいたので、好みに合うサウンドを探してみてください!
1つの鍵盤で2つのプリパレーションを行えるプリペアド・ピアノ
UVI Augmented Pianoと同じくプリペアド音色を主体とした音源。サンプリング元となったのはIRCAM所有の“C7”(恐らくYAMAHAと思われる)。IRCAMとはフランス国立音響音楽研究所のことで、本音源では45のプリパレーションが用意されている。そのアイテムはネジ、消しゴム、コイン、洗濯ばさみ、アルミホイル、ガラスなどで、マレットやバチ、弓などによる音色を収録。ノートごとに2つのプリパレーションをレイヤーできるのも面白い。
サウンドの印象
サンプリング元の名前にメーカー名がなく、単に“C7”とありますが、この名前はYAMAHAのグランド・ピアノとして有名です。そのため音色からはYAMAHAらしさを感じます。明るく、にじみ感のないすっきりさが特徴です。プリペアドに関しては、前バージョンも使ったことがあるのですが、アルペジエイターを使ったループ・サウンドや、エフェクティブなプリセットが増えた印象を受けました。
演奏性
プリペアド音色がメインなので、通常のピアノとして使う人は少ないかもしれませんが、素の音はリリース部分が短めなのでリズム・バッキングに適していると思います。
プリペアド音色のほうは、プリパレーションとして弦に挟む、あるいは弦の上に置く素材と演奏方法がセットで用意されています。例えば、弦にコインを挟んだ場合、弦をピックではじく/マレットでたたく/スティックでたたくといった各音色のバリエーションが用意されているのです。ちなみに弦の上に置くものとして紙やアルミホイルのほかにAPPLE iPhoneもあるのがユニーク。1つの鍵盤に対して2つのプリパレーションをレイヤーできる上、各鍵盤でチューニングも含めて個別設定が可能です。これらを駆使すれば、非常に複雑な演奏を行えます。
ジャンル感
プリペアド音源としてはシネマティックな音楽に適しているでしょう。
音作りの自由度
既に演奏性のところで述べた通り、非常に多彩な音作りができます。アルペジエイターも一般的なタイプと“レインアルペジエーター”の2種類が搭載されているのが特徴です。特に後者はユニークで、ノートごとにアルペジオのステップが縦に並んでいて、各ノートのスピードやステップごとのベロシティを設定可能です。これにより和音を押さえたときに複雑なリズムを生み出すことができます。エフェクトもディレイやリバーブのほか、フリケンシー・シフターやダイオード・クリッパーといった飛び道具的なものが用意されています。
まとめ
プリペアド音色はとても面白いのですが、試聴音源のフレーズは一般的なピアノを想定したものなので、あえて素の音で鳴らしました。プリペアド音色に関してはオフィシャルのYouTube動画で確認してみてください。
製品情報
- 価格:36,000円(299ドル)
- 音源方式:サンプリング
- 容量:5.91GB(FLAC圧縮、非圧縮WAVサイズ:18.98GB)
- ベース・モデル:C7
- 対応フォーマット:AAX/AU/VST/VST3/スタンドアローン
REQUIREMENTS
●Mac:macOS 10.14〜13(64ビット) ●Windows:Windows 10〜11(64ビット) ●4GB RAM(8GB以上を強く推奨)、6GB以上の空きディスク容量(7,200回転のハード・ディスク/SSD推奨)、最新版のUVI WorkstationまたはFalcon、インターネット接続環境(登録とダウンロード)、iLokアカウント
牧戸太郎
東京音楽大学作曲指揮専攻映画放送音楽コース卒業。その後、作編曲家として活動を開始し、竹内まりや、Hey!Say!Jump、King & Princeなどの編曲を手掛けるほか、映画『兄に愛されすぎて困ってます』、WOWOW『向こうの果て』、テレビ東京『先生のおとりよせ』、日本テレビ『ぴーすおぶけーき』、Hulu『社畜OLちえ丸日記』など多数のドラマ、映画の劇伴でも活躍している。