AUSTRIAN AUDIO OC818は、フロントとリアにカプセルを持ち、計2回線を有するコンデンサー・マイク。録音後にはMac/Windows向けの専用プラグインを使い、指向性や近接効果を調整することができる。その専用プラグインの一つがStereoCreator。ペアの録り音に用いれば、“トゥルー処理”によりX/YやM/S、Blumleinといった各種ステレオ・マイキングの音を作り出すことができ、それらを切り替えて使用することが可能だ。今回のレビュワーはエンジニアのChester Beatty氏。ライブ収録で駆使したOC818とStereoCreatorについて、その所感を語っていただいた。
撮影:小原啓樹
立体音響で課題となる位相ズレが克服でき、空間の広さや“どの辺りの客席で聴く音か”も調整できます
観客の耳の高さで左右の空間を捉えられる
2月に有明ガーデンシアターでライブの収録があり、そのオーディエンス・マイクとしてステレオ・ペアで使用しました。収録したものは360 Reality AudioとDolby Atmosの両方に対応する予定で、客席での音の聴こえ方を再現すべく、FOH卓の前にマイキング。2台を縦に連ね、M/S方式で立てました。会場の雰囲気をイマーシブで再現するためのレコーディングにおいて、古いマイクをステレオで使うと個体差があり、耳の高さの左右の空間を捉えるのが難しいのですが、OC818はステレオで立てた際の2本の個体差がほとんどなく、解像度が高いので狙った通りの音を得られました。イマーシブ・オーディオは新しい音楽の楽しみ方なので、その収音まで想定されているマイクとして、最新の機種を積極的に使いたいと考えています。
プラグインを経由し物理的制御でM/Sを作る
一般的なマイクをM/S方式で立てるだけでも収音そのものは行えますが、OC818にはStereoCreatorがあるので、録音後に各マイクの指向性を幾らでも調整できるのが魅力。万が一ほかの音が録れていなかった場合にも、これさえ生きていれば大丈夫だろうという安心感があります。しかも仮想的な調整ではなく、物理的な制御です。これにより立体音響で課題となる位相ズレを克服できますし、空間の広さはもちろん、“どの辺りの客席で聴く音か”という位置感も自由に調整できます。イマーシブ・オーディオの収録では、会場の天井付近にあるキャット・ウォーク(足場)にもマイクを設置していて、その下にある座席をリスニング・ポイントとして設定することが多いのですが、その場所は会場ごとに異なります。OC818を使えばその帳尻を合わせることも可能です。
イマーシブでライブ会場の空気を再現するためには低域が重要で、最終的なミックスの8割くらいは低音作りです。今回は、オーディエンス・マイクとしてOC818のほかに低域が伸び切ったマイクも使用したのですが、OC818は低域が良いあんばいにロールオフしていて、下が伸び切ったマイクと併用する際にうまくクロスオーバーするので、低音過多になりません。加えて、現場で複数本のマイクをセットする場合を考えると、1本187,000円前後で購入できるOC818は、コスト・パフォーマンスも優秀です。通常のステレオ・レコーディングでも扱いやすいので、今後も使っていきたいです。