Chester Beatty × AUSTRIAN AUDIO OC818 〜ウィーンから新風をもたらすマイク・ブランド【Vol.19】

 AUSTRIAN AUDIO OC818は、フロントとリアにカプセルを持ち、計2回線を有するコンデンサー・マイク。録音後にはMac/Windows向けの専用プラグインを使い、指向性や近接効果を調整することができる。その専用プラグインの一つがStereoCreator。ペアの録り音に用いれば、“トゥルー処理”によりX/YやM/S、Blumleinといった各種ステレオ・マイキングの音を作り出すことができ、それらを切り替えて使用することが可能だ。今回のレビュワーはエンジニアのChester Beatty氏。ライブ収録で駆使したOC818とStereoCreatorについて、その所感を語っていただいた。

撮影:小原啓樹

立体音響で課題となる位相ズレが克服でき、空間の広さや“どの辺りの客席で聴く音か”も調整できます

Chester Beatty × AUSTRIAN AUDIO OC818 〜ウィーンから新風をもたらすマイク・ブランド【Vol.19】

Chester Beatty
【Biography】イマーシブ・オーディオ専門の山麓丸スタジオ所属のエンジニア。日本レコーディングエンジニア協会理事。テクノ・プロデューサーとしても著名で、TRESORやTurbo Recordingsなどから自作を発表している。

観客の耳の高さで左右の空間を捉えられる

 2月に有明ガーデンシアターでライブの収録があり、そのオーディエンス・マイクとしてステレオ・ペアで使用しました。収録したものは360 Reality AudioとDolby Atmosの両方に対応する予定で、客席での音の聴こえ方を再現すべく、FOH卓の前にマイキング。2台を縦に連ね、M/S方式で立てました。会場の雰囲気をイマーシブで再現するためのレコーディングにおいて、古いマイクをステレオで使うと個体差があり、耳の高さの左右の空間を捉えるのが難しいのですが、OC818はステレオで立てた際の2本の個体差がほとんどなく、解像度が高いので狙った通りの音を得られました。イマーシブ・オーディオは新しい音楽の楽しみ方なので、その収音まで想定されているマイクとして、最新の機種を積極的に使いたいと考えています。

ライブ収録が行われた有明ガーデンシアターで実際にOC818を設置した際の様子
山麓丸スタジオにてOC818を設置した際の様子
写真左は、ライブ収録が行われた有明ガーデンシアターで実際にOC818を設置した際の様子。同右は、今回山麓丸スタジオにて撮影を行った。OC818は、マイク・ホルダーやショック・マウントを同梱したOC818 Studio Set(オープン・プライス:市場予想価格187,000円前後)と、ステレオ・ペアのOC818 Dual Set Plus(オープン・プライス:市場予想価格396,000円前後)として発売されている

プラグインを経由し物理的制御でM/Sを作る

 一般的なマイクをM/S方式で立てるだけでも収音そのものは行えますが、OC818にはStereoCreatorがあるので、録音後に各マイクの指向性を幾らでも調整できるのが魅力。万が一ほかの音が録れていなかった場合にも、これさえ生きていれば大丈夫だろうという安心感があります。しかも仮想的な調整ではなく、物理的な制御です。これにより立体音響で課題となる位相ズレを克服できますし、空間の広さはもちろん、“どの辺りの客席で聴く音か”という位置感も自由に調整できます。イマーシブ・オーディオの収録では、会場の天井付近にあるキャット・ウォーク(足場)にもマイクを設置していて、その下にある座席をリスニング・ポイントとして設定することが多いのですが、その場所は会場ごとに異なります。OC818を使えばその帳尻を合わせることも可能です。

Mac/Windows対応のOC818専用プラグインStereoCreator(無償)

Mac/Windows対応のOC818専用プラグインStereoCreator(無償)では、2本のOC818を使ってM/S録音しておくと、その信号からX/Y、Blumlein方式のステレオ・マイキングの音を作ることが可能。なお、ミッドの指向性は画面右上のmid patternノブで自由に設定できる

 イマーシブでライブ会場の空気を再現するためには低域が重要で、最終的なミックスの8割くらいは低音作りです。今回は、オーディエンス・マイクとしてOC818のほかに低域が伸び切ったマイクも使用したのですが、OC818は低域が良いあんばいにロールオフしていて、下が伸び切ったマイクと併用する際にうまくクロスオーバーするので、低音過多になりません。加えて、現場で複数本のマイクをセットする場合を考えると、1本187,000円前後で購入できるOC818は、コスト・パフォーマンスも優秀です。通常のステレオ・レコーディングでも扱いやすいので、今後も使っていきたいです。

製品情報

関連記事