古賀健一Dolby Atmosセミナー〜 Dolby Japan&Neumannとのコラボで開催

古賀健一 × Dolby Japan × NeumannコラボによるDolby Atmosセミナー ヘッダー

 去る9月5日、6日、東京・南青山のBlueMountain Studiosにて、エンジニア古賀健一氏と Dolby Japan、そしてNeumannのコラボレーションによるセミナーが開催された。NeumannのスタジオモニターKHシリーズの紹介、Dolby Atmos Rendererを中心とした最新の制作環境のフォロー、そして古賀氏による実践的なセミナーという盛りだくさんの内容。12名限定×2回開催であったこの催しの概要をお届けする。

色づけの少ないNeumann KHモニター

真野寛太氏(ゼンハイザージャパン)

真野寛太氏(ゼンハイザージャパン)

 まず登壇したのはゼンハイザージャパンの真野寛太氏。Neumannのマイクが「“音“は芸術的表現の一部」を掲げるのに対し、スピーカーについては「“音”は電気信号の客観的な測定値」とし、プレイバックは原音と同一でなければならないというNeumannモニターのフィロソフィを語る。

 

 フラットな特性に加え、ウェーブガイドによるスムーズな分散によって軸外特性の制御し、室内環境の影響を受けにくいのもKHシリーズの特徴。さらに個体差も少なく、例えばKH 120では1,364台の平均を取ってもほとんど誤差の無い周波数特性が得られるそう。DSP内蔵モデルでは誤差はより少なくなるという。

1.364台のKH 120の周波数特性を重ね合わせたグラフ。ほぼ個体差がない

1.364台のKH 120の周波数特性を重ね合わせたグラフ。ほぼ個体差がない

 今回の会場となったBlueMountain StudiosのNo.2 Control Roomでは、シリーズ最小モデルのKH 80 DSPとサブウーファーKH 810での7.1.4ch環境が常設されているが、その導入理由も色づけの少ないサウンドにあったという。また、NeumannのオートモニターアラインメントシステムMA 1は現在のところ2.2chまでの対応だが、イマーシブ環境へのアップデートも見越しているとの解説もあった。

Dolby Atmos Rendererのアップデート

藤浪崇史氏(Dolby Japan)

藤浪崇史氏(Dolby Japan)

 続いて、Dolby Japanの藤浪崇史氏が登場。オブジェクトオーディオの解説とともに、最新のDolby Atmos Renderer 5が持つ機能の解説が進められた。

 Dolby Atmos Rendererには、最大128の入力=7.1.2chのBedと最大118のオブジェクトがあることは知られているが、例えばBeds×3セット+98オブジェクトという形でも使用できることに言及。ダウンミックスなどに便利なRe-Render設定の解説に加え、Speaker EQ/Delayの実装、ヘッドトラッキング対応などのアップデートポイントが紹介された。

7.1.2chのBedsを2つ作成した例。映画ではダイアログ、SE、音楽で3つのBedsを作成する例も少なくない

7.1.2chのBedsを2つ作成した例。映画ではダイアログ、SE、音楽で3つのBedsを作成する例も少なくない

Dolby Atmos Renderer 5ではスピーカーEQも搭載された

Dolby Atmos Renderer 5ではスピーカーEQも搭載された

Neumannのヘッドホン、NDH 20にヘッドトラッキングデバイスを取り付けた例

Neumannのヘッドホン、NDH 20にヘッドトラッキングデバイスを取り付けた例

古賀セミナー

古賀健一氏

古賀健一氏

 最後に登場した古賀氏は、録音からイマーシブでのリリースを想定したKenta Dedachi「Jasmine」を題材に、Dolby Atmosミックスのポイントを解説していった。

 「Jasmine」は映画『20歳のソウル』主題歌ということで、まず5.1chミックスから着手し、ミックスしながらDolby Atmosでのサウンドをイメージ。そこからDolby Atmos、ステレオ、360 Reality Audioといった複数のミックスを制作していったという。生楽器を中心とした楽曲だが、Dolby Atmos制作を意識してストリングスは4/4/4/4という、特殊な編成を古賀氏が提案。結果ビオラやチェロは個々の奏者の演奏も生き生きと再現できるミックスに仕上がったそうだ。また、先に藤浪氏が触れた複数のBedsを作成できる点を受け、「Jasmine」ではインスト、ボーカル、エフェクトでそれぞれBedsを作り、後工程でマスタリングしやすいようにしたと語った。

Ambisonicsをさまざまなサラウンドフォーマットに展開できるプラグイン、HARPEX HARPEX-Xを使って、AMBEO VR MICの音を展開する例

Ambisonicsをさまざまなイマーシブフォーマットに展開できるプラグイン、HARPEX HARPEX-Xを使って、AMBEO VR MICの音を展開する例

 セミナーでポイントとなったのは、ハイトチャンネルの扱いについて。特にBedsのハイト2chをそのまま使うと、イメージ通りの定位や動きが表現できなくなってしまうことがある。「Jasmine」ではドラムのルームマイクとして使用したSENNHEISER AMBEO VR MICの1次Ambisonics信号を、プラグインを使い7.0.4chなどに展開。それぞれのスピーカーに対応するオブジェクトへ送るバスを作るという方法を紹介していた。この方法であれば、展開後の受けるバスは同じであってもよいので、リバーブなどのセンド先としても先に作成したオブジェクトを使用できるというメリットもあるという。

 

 今回の再生環境であるNeumann KH 80 DSPについては「冷静に音を判断できるフラットさが魅力ですし、比較的低価格でシステムが組める。大きなシステム導入を検討するよりも、まずはかつて録音を始めたころのようなワクワクした気持ちを思い出して、Dolby Atmosに取り組む方が大事」と古賀氏は語る。

 

 また、終盤ではフロントL/C/RのみKH 150にサイズアップしての試聴も行ったが「KHシリーズはシステムレベルが統一されているので、同設定であればサイズを上げても音量感が変わらないのもポイントです。音楽ミックスだとL/C/Rのサイズが大きい方がいい場合が多い。LFEに低音を頼ってしまうと、バイノーラル再生時にその低域が再現されないことが多いので」とも解説していた。

フロントのL/C/Rのみスタジオ常設のKH 80に加えてKH 150も用意し、切り替えて試聴を行った

フロントのL/C/Rのみスタジオ常設のKH 80に加えてKH 150も用意し、切り替えて試聴を行った

 セミナー参加者は、音楽、映画、ゲーム、放送など、さまざまな分野で音にかかわる方々。最後にはそれぞれの立場からの質問が飛び交い、精力的な意見交換がなされていた。

ロビーには発売が待望されているNeumannのUSBオーディオインターフェースMT 48のプロトタイプも設置。アナログ4イン/4アウトに加え、ADATやAES 67にも対応。将来的にはKHスタジオモニターと組み合わせてイマーシブ環境のモニタリングコントロールにも期待できそうだ

 

 

NEUMANN

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