【音源連動】LEWITTマイクでピアノ弾き語り/ベース&ドラムを録音 〜革新性と実用性を両立するマイク・ブランド【第3回】

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レコーディングした音がEQ無しでも使える
作業のスピードが速くなるマイクです

 オーストリアのウィーンにて、2009年に設立されたLEWITT。気鋭のマイク・メーカーとして、ハイクオリティかつ先進的な性能を持つプロダクトをこれまでに開発してきた。特にセルフ・ノイズを極限まで抑えたクリアな音質は、クリエイター、エンジニアを問わず多くのユーザーに評価されている。この連載では、クリエイターやエンジニアにマイクをテストしてもらい、レコーディングを通して感じたLEWITTの魅力を語っていただく。

Photo:Hiroki Obara

 

 LEWITTマイクでレコーディングした音例はこちら 

 エンジニア森田秀一氏の協力の下、長尾真奈(vo、p)、山本連(b)&柵木雄斗(ds)の演奏をLEWITTマイクでレコーディングしたサウンド・サンプルをお聴きください!

 

高域が抜けて押し出し感も強いサウンド

 前回に引き続きテストを行うのは、ReBorn Woodのエンジニア、森田秀一氏。今回はピアノ弾き語り、ベース&ドラムのセッションでLEWITTマイクを試してもらった。

 

 ピアノ弾き語りは、シンガー・ソングライターでリトミック講師としても活動する長尾真奈が担当。STEINWAY B-211に、高音弦側と低音弦側を狙うLCT 140 Airを2本、その間にLCT 640 TSを立てて収音した。LCT 640 TSはデュアル・アウトプット・モードを搭載しており、カプセル前面と背面の振動板のサウンドを別々のアウトプットから出力することができる。「2本のマイクを立てる必要が無く、ステレオで録れるのが大きなメリット」と森田氏は言う。

 

 「LCT 640 TSだけでソロ・ピアノもゴージャスに録ることができると思います。もちろん、ほかの楽器でも活躍してくれるでしょう。例えばギターを重ねる曲で、あるトラックを聴こえやすくするためにプラグインで擬似的にステレオ・イメージを調整することがありますが、LCT 640 TSで後からポーラー・パターンを変えることでも対応ができますね」

 

 2本を使ってステレオ録音を行ったLCT 140 Airについてはどのような印象を抱いたのだろう?

 

 「とてもすっきりとした印象です。特にバンドの中でのピアノには合うのではないでしょうか。高域が抜けてくるようなイメージで、押し出し感も強いです」

 

 また、長尾はLCT 140 Airについて、「聴きやすく、ピアノだけでも成り立つ印象でした。今回はバラードでしたが、リズムが立つ曲にはより合うのかなと感じます」と語った。

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ピアノ用のマイク。写真中央がLCT 640 TSで、その左右にあるのがLCT 140 Airだ

レンジの広い声も奇麗に録れる

 ボーカル・マイクにはダイナミック・マイクのMTP 440 DM、コンデンサー・マイクのLCT 441 FlexとLCT 940を使用。まずはMTP 440 DMのサウンドについて森田氏に聞いた。

 

 「ノイズが少ないことは特筆すべき点でしょう。今は普段聴く音楽の解像度が上がってきたこともあり、演奏者もノイズを気にするようになったと思います。人によっては演奏にも影響がありますし、大きなメリットになりますね」

 

 LCT 441 Flexは8つの指向性パターンを選べるマイクだ。森田氏は「使って失敗が無さそうなマイクです。特徴としては、重厚感というよりもすっきりとした響きで、EQをしなくても曲の中で抜けてきそうな音になっています」

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ボーカル・マイクに使用したLCT 441 Flex(写真上)とMTP 440 DM(同下)

 前回も使用したLCT 940は、FETと真空管の特性を無段階でブレンドできるのが特徴。「すごく良いマイクだなと今回も感じました」と森田氏が話す。

 

 「真奈さんの声はレンジがすごく広いのですが、とても奇麗に録ることができていましたね。広く録れてしまう分、高域に特徴のあるボーカリストでは、上の帯域がどんどん強くなってしまう傾向があるかもしれません。しかし、FETと真空管特性のブレンドである程度対応は可能だと思います」

 

 長尾も特性を変化できる点を評価する。

 

 「LCT 940はFETと真空管を半分ずつブレンドした音が一番自然な響きで好みでした。バラードなどの訴えかけるような曲では真空管、コーラス・ラインを重ねるような曲ではFETのサウンドが合うのではないかなと思います。また、私は声を張ったときにツンと痛く響く部分があるのですが、LCT 940ではそこも聴きやすく感じましたね」

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LCT 940も歌の録音に使った。FETと真空管の特性を無段階でブレンドすることができる

ベースのきらびやかな部分が耳に入ってきやすい

 次に試したのは、山本連(b)と柵木雄斗(ds)によるセッションの録音だ。ベースはキャビネット前にLCT 440 PureとMTP 440 DMの2本をセッティング。ラインの収録は行わず、ベース・アンプの音のみで演奏とサウンド・チェックを実施した。まずは山本にサウンドの印象を語ってもらおう。

 

 「アンプ+マイクのみで録音することはあまり無いのですが、こんなにクリアに良い音で録れることに驚きました。低域もしっかりあって、聴きやすい。大編成でも埋もれずに使えそうな音です」

 

 森田氏は「LEWITTの“EQをしなくても使える音”というのがここでも生きている」と語る。

 

 「ラインの音は全帯域がしっかり入っている分、低域が出過ぎてしまうこともあります。そのためローカットなどを行うわけですが、今回の録り音はEQ無しのプレイバックでも聴きやすくなっていました。きらびやかな部分が出っ張っていて、耳に入ってきやすい。それに、欲しい低域部分もちゃんとあります。MTP 440 DMはラインの音と比べると低域は控えめですが、今回のようなセッションだとこのすっきりしたサウンドがハマると思いますね。LCT 440 Pureの方が解像度が高く、少し低域と高域が伸びている印象でした」

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山本の録音時の様子。キャビネット前にLEWITTマイクを立てている。ラインの音を使わなかったが、その音の太さとクリアさに山本は驚いたようだ

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ベース・アンプのキャビネットにはLCT 440 Pure(写真左側)とMTP 440 DM(同右側)の2本をセッティング

落ち着いたサウンドで金物を収音できる

 次はドラムのセッティングを見ていこう。キックにDTP 640 Rex、スネアにMTP 440 DM、タムにDTP 340 TTを使い、ハイハットとシンバルはオーバー・ヘッド用のLCT 140 Airで収音を行った。柵木はそのサウンド・クオリティ、そしてマイクの価格に驚いたようだ。

 

 「今は自宅録音を行う人も増えましたが、マイクをそろえるのはある程度予算が必要です。でも、LEWITTは予想を超える手に入れやすい価格帯なので驚きました。自分の演奏を録音して聴くというのは、演奏者として成長できるきっかけにもなりますし、LEWITTマイクを自宅にセッティングして、いつでも録れる状態にしておくのも良さそうです」

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柵木の録音時の様子。キックとスネア、タム、フロア・タムにはそれぞれマイクをセットし、ハイハットやシンバルはオーバー・ヘッドで収音している

 キックのDTP 640 Rexはコンデンサーとダイナミックの2つのカプセルを内部に持つマイクだ。森田氏は「マイクのセッティングがかなり楽になります」と話す。

 

 「演奏者が部屋で聴いている音とプレイバックした音にあまり差が無いのではないかなと思います。制作時のテンションにも関わってくるので、大事なことですね」

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ドラムのキックはDTP 640 Rexで収音した。「2つのカプセルのバランス調整で、自分好みの音にできる。選択肢があるのはうれしいですね」と柵木

 スネアのMTP 440 DMやタムのDTP 340 TTについてはどうだろうか?

 

 「SHURE SM57はコンプをかけたような感触の音ですが、そういった音の詰まるような感じはMTP 440 DMにはありません。ロックやメタル系のラウドなサウンドではSM57の方が合うと思いますが、もっと奇麗に響かせたいときなどはMTP 440 DMが良いでしょう。低域もしっかり入っていますし、高域も抜けてきます。DTP 340 TTも抜けが良く、聴きやすさがありました」

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タムにはDTP 340 TT(写真上側)、スネアにはMTP 440 DM(写真下側)を使った

 シンバル類はLCT 140 Airのみで録音したが、「全体で聴くとバランス良く仕上がっていた」と柵木は感じたようだ。続けて森田氏がこう評する。

 

 「全体的に落ち着いたサウンドになっています。金物のピシピシと耳に痛い部分が抑えられていました。今回はローカット・フィルターを入れなかったので、オンにするとよりすっきりとした音像になって金物が前に出てくるはずです」

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オーバー・ヘッドのLCT 140 Air。高域は控えめであるため、シンバルの耳に痛い帯域が抑えられていた

 森田氏にはさまざまなシチュエーションでLEWITTを試していただいた。このテストを通して、感じたLEWITTの魅力を最後に語っていただこう。

 

 「“録ってそのまま使えますよ”というのがLEWITTのサウンドだと思います。今回も録音して、EQ無しでの再生でも良いバランスになっていました。制作スピードがとても速くなるマイクだと感じます」

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LEWITTでのレコーディングを行った森田秀一氏。バークリー音楽大学出身で、NYのKampoスタジオでエンジニアを務めた後、現在はReBorn Woodにてスタジオ・マネージャー、エンジニア、レーベルA&Rを兼任。ジャズを中心にハウスなども手掛ける

LEWITT 製品情報

www.lewitt.jp

 

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