
1インチのラージ・ダイアフラム採用
ローカット・フィルターやPADを装備
LCT 540 Subzeroは単一指向のみのシンプル設計で、レコーディングの定番であるNEUMANN U87やAKG C414-XLIIと同じ、サイド・アドレス型のコンデンサー・マイク。サイズ感はC414-XLIIよりやや厚みがあり、3µmの極薄ゴールド蒸着マイラーの1インチ・ラージ・ダイアフラムを採用しています。指向性は単一指向のみで、ダイナミック・レンジは132dBという仕様です。
フロント・パネルの中央にはステータス・インジケーターがあり、LEWITTのロゴ・マークが白色に点灯しているときは標準時、赤色に点滅したらクリッピングというふうに分かりやすく表示されます。その下にはキー・ロック・ボタンが搭載され、2秒以上の長押しでキー・ロック・モードを設定/解除ができる仕組みです。
フロント・パネルの左側には、ローカット・インジケーターとローカット・フィルター・ボタンが配置され、3段階(オフ/80/160Hz)で切り替えることができます。
同様にフロント・パネルの右側には、プリアッテネーション・インジケーターとアッテネーション・ボタンが配置され、3段階(0/−6/−12dB)でのPAD切り替えが可能です。
付属品は専用ショック・マウントやウィンド・スクリーンなどたくさんあり、何と頑丈なケースまで付いてきます。

出力が大きく繊細でクリアなサウンド
オケでも存在感を発揮する音抜けの良さ
製品の名前の一部にもなっている“Subzero=0以下”とはいったいどういう意味なのでしょうか? 何とLCT 540 Subzeroのノイズ・フロアが、人の耳がとらえられるレベル以下ということだったのです! セルフ・ノイズの驚異的な小ささを表現していたのですね。それでは実際に、そのパフォーマンスをチェックしてみましょう。
まずはスタジオでU87と聴き比べ。出力に関してはLCT 540 Subzeroの方が14dBほど大きく、圧倒的に差があります。最近のマイクの中でも高出力なスペックですね。音は、今まで普通に使っていたU87の薄皮を一枚剥いだような、とても繊細でクリアな印象。最近はやりの4Kテレビを初めて見たときの“感動”に近いものを思い出しました。出力が大きくクリアな音なので、必然的にマイクプリなどほかの機器のセルフ・ノイズも最小限に抑えることができます。これはLCT 540 Subzeroのパフォーマンスが優れているためにできることだと言えるでしょう。
次はLCT 540 SubzeroとU87を並べて、さまざまな楽器を録音/比較してみました。ここではLCT 540 SubzeroにPADを入れてU87と出力を合わせ、SSL SL6000Gのヘッド・アンプを使ってチェック。マイクのセッティング位置(特にオンマイク時)で音は微妙に変わってきますが、全体的な音の傾向を聴き比べます。
すべてに共通する印象としては、LCT 540 Subzeroの方が若干U87に比べて明りょう度が高く、音像も近く、音のカブり具合も少なく感じました。より狙ったポイントの音をとらえるのも、LCT 540 Subzeroの方が向いているようです。また、音の抜け感はLCT 540 Subzeroの方がより高次倍音をとらえている印象でした。
ピアノの録音においては、中高域のいわゆる“音が硬く感じたりする帯域”はLCT 540 Subzeroの方が色付けが無く、低域は、ややすっきりとした印象で、音のスピード感もより感じられました。
木管楽器の録音では、中低域はU87の方が気持ち豊かな印象に。トランペットにおいては、LCT 540 Subzeroの方が音抜けが良く、よりスムーズな倍音の響きを感じられました。
オフマイクでの録音では、オンマイクほどの差はあまりなかったものの、レンジの広さや音のスピード感ではLCT 540 Subzeroの方が若干あったように思います。また、一般的にオフマイクで感じる“音のくすみ感”はやや少なく、新鮮な発見でした。
男女の声をそれぞれオンマイクで聴き比べたところ、U87よりもLCT 540 Subzeroの方が近接効果は少なく、過剰なプレゼンスもさほど感じられません。音の温かみや中低域の表現力は心持ちU87の方が上回っていましたが、LCT 540 Subzeroの方が声の芯や太さは十分に感じられ、音抜けも良いので現代向きかもしれません。
ウッド・ベースの録音では、普段使っているNEUMANN U47と比較。低域はU47の方が若干豊かに感じましたが、アタック感を含めた音の抜けはLCT 540 Subzeroの方が良く、オケに混ぜても存在感を発揮していました。
LCT 540 Subzeroは、特に小さな声や繊細な音の楽器にその効果を十分に発揮してくれるでしょう。マイクの出力は高く、ノイズ・フロアもほとんど感じられないのでマイク・プリアンプの感度を上げ過ぎずに使うことができます。当然ながら、SN比のさほど良くないビンテージもののヘッド・アンプとの組み合わせにおいても、ヘッド・アンプのノイズ・フロアを抑えられるので、相乗効果が期待できますね。コスト・パフォーマンスも良いですし、楽器の種類を選ばない万能型のマイクと言えるでしょう。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年4月号より)