
安定の自社規格REACに加え
Dante/MADI/SoundGridにも対応
本機は、入出力バスが合計で128chという構成で、ユーザーが入力/出力の構成をも自由にアサインできるというのがユニーク。Configurable Architectureというのがまさにここだ。極端な例で言えば8イン/120アウトも可能なセッティングとなる。そしてHigh Resolutionと謳っているように、96kHz対応。Openは、後述する拡張性のことを示しているのだろう。
サイズは934(W)×346(H)×725(D)mm。中型のサイズで重量は36kgと、大きさの割にすこぶる軽量だ。上側中央に配置された12インチのタッチ・パネルLCD部が大きく、視認性も良いと感じる。
背面にはXLRアナログ入力/出力それぞれ16chずつ。加えてAES/EBU入出力がそれぞれ2系統、そしてCAT5eケーブルを使用したROLAND独自のデジタル・オーディオ伝送システム、REAC端子を3系統(A、B、SPLIT/BACKUP)備える。さらにもう2系統のREACをはじめ今後発売予定のDante、MADIの各モジュールが増設できる拡張スロットを2基装備している。これらを組み合わせ、96kHz時に入力が最大300ポート、出力が最大296ポートとなり、自由にアサイン可能だ。またWAVES SoundGridモジュールもアナウンスされ、専用サーバーと接続することで、豊富なWAVESプラグイン・エフェクトの使用が可能になる。
また外部機器などから本機をコントロールするための端子も豊富。現場のさまざまなシチュエーションでの操作に対応できそうだ。
電源部は消費電力180W/100VのACインレットと、別売りのバックアップ用外部電源ユニットS-240Pを接続するDC INがあり、電源の2重化に対応。なお本機は内部で電源部をアナログ、デジタルで分離して処理しており、音質面へもこだわりを感じる。
手前側パネルには、8本のフェーダー×3バンクに加え、右側には自由に設定可能なアサイナブル・フェーダーを4本配置している。フェーダー・バンクではインプット・チャンネル、DCA、バス、ユーザー1〜3という5つのレイヤーを切り替え可能。さらに各フェーダー・バンクは、それぞれ他のフェーダー・バンクと連動/独立して、レイヤー切り替えやスクロール操作を可能にするアイソレート機能を搭載する(写真①)。

それらが各バンクの右側にあるボタンにて切り替えられる。フェーダー上部にはLEDレベル・メーター、MUTE/SOLO/SELスイッチとフルカラー発光の有機ELを採用したチャンネル・ディスプレイがあり、各チャンネルの情報などが表示される。
上側のLCDタッチ・パネル・スクリーン下に配置された16個のエンコーダーは、アサインされた機能を操作するほか、スクリーン上で選択されたパラメーターをセレクテッド・ノブで操作する“タッチ&ターン”も可能。初見でも分かりやすい構成だ。右側にはモニター・セクション、シーンのコントロールのほか、ユーザー・アサイナブル・セクションに4基のエンコーダーと8基のスイッチを実装。それらのバンクも3つ設定可能だ。
各インプット・チャンネルに3系統の入力
ROLAND/BOSSのエフェクトも再現
何と言ってもM-5000の特徴は入出力バスを自由にアサインできる点。バスの構成や制限でやむを得ず倉庫から持って行く機会が減っている卓もある中で、マルチに活躍できそうだ。アサイン自体も、MAIN(LR+C、LCR、5.1サラウンドに対応)、GROUP(Mono/Stereo)、AUX(Mono/Stereo)、MATRIX(Monoのみ)の各バスも、簡単に割り振れた。またモニター・バスも独立でステレオ2系統備えるほか、ミックス・マイナスのバスも設定可能となっている。入出力の128バスとは別に、24系統のDCAと8系統のMUTE GROUPも設定できる。
各インプット・チャンネルには、INPUT、ALTERNATE、TRの3入力をセットアップ(パッチ)可能。例えばメインのINPUTに対し、ALTERNATEにバックアップ回線、TRには外部レコーダーをパッチしておくと、バーチャル・サウンド・チェックなどに便利だ。チャンネル単位の切り替えだけでなく、INPUT/ALTERNATE/TRを一括で切り替える機能も装備し、チャンネル・バスを消費することなく用途に応じてパッチを切り替えられる。
各インプット・チャンネルをはじめ、AUX、マトリクス、グループ、メイン出力は、HPF/LPF、独立した2基のダイナミクス(エキスパンダー/ゲート/ダッキング/コンプレッサー/リミッター)と、4バンド・フルパラメトリックEQ、ディレイを搭載。ダイナミクスとEQはその順序を入れ替えることも可能で、後述の内蔵エフェクトやグラフィックEQ、あるいは外部機器も2系統インサートできる。このグラフィックEQは、チャンネルEQとは別に32基用意されているもので、31バンド・グラフィックから8バンド・パラメトリックへ切り替えが可能。各EQはグループを組み、一括で操作することもできる。
そして、ステレオ入出力のマルチエフェクトは計8系統。デジタル・リバーブ、デジタル・ディレイ、マルチバンド・コンプ、ダイナミックEQなどのほか、ROLANDの代表的なエフェクターであるSRV-2000、SDE-3000、SDD-320、RE-201、CE-1、SPH-323、SBF-325のモデリング・エフェクトを搭載。さらに、BOSSコンパクト・エフェクターをモデリングしたディストーション、ディレイ(デジタル/アナログ)を搭載している。テスト時は発売前バージョンで、機種特有のグラフィックは無く数値表示のみだったがROLAND&BOSSブランドの歴代&定番エフェクトたちが内蔵されているのはうれしいところだ。
サミング・バスは72ビット
M-48とセットでモニター系に便利
操作性は、まずフェーダー・バンクについて。アイソレートすれば8本単位で切り替え、しなければ横スクロールできることなど、今までのデジタル卓の中では自由度はピカイチだと思った。チャンネル・フェーダーのレイアウトを決められるのはもちろんだが、右にあるアサイナブル・フェーダーにはマスターやエフェクト・リターンのほか、例えばモニター卓としての使用時にはモニター・フェーダーやメイン・ボーカルのAUXマスター、イベント時にはSE/BGMやMCなどの運営系を置く、といった使い方ができそう(写真②)。チャンネル・レイヤーに関係なく設定できるのが魅力だ。

12インチという大画面タッチ・パネルは、視認性が良いことはもちろんだが、画面に合わせてエンコーダーの周囲が同じ色に変化し、操作をアシストしてくれるのはかなり親切に感じた。
音質については、限定的なテストとなった。まずマイクをつなぎワンツーしてみると、色付けが無く、クリアな印象。ライン入力で音楽をプレイバックしてみても同じ印象を受けた。加えて、筆者が本機に期待しているのはマスター・バス。72ビット(!)もあるので、チャンネル数が多くなっていたときに飽和することもないだろう。多くのチャンネルを扱う現場で試してみたい。
もともと独自のデジタル伝送規格REACで好評を得ていたにもかかわらず、これまでV-Mixerが導入されていた現場はコンサートよりも設備が多い印象があったが、本機は程良い操作性と音質が相まって、コンサート導入候補の比較対象の一つとなり得るのではないか。特にキュー・システムとしての同社のパーソナル・ミキサーM-48を使用していたツアーなどでは、REACインターフェースとコンソールが一体になっている本機はメリットも多い。またDante、MADIなどの汎用規格への対応、SoundGridでの拡張が楽しみであるとともに、96kHz対応/自由な入出力設計など、基本性能をしっかり押さえた本機はROLANDの意欲作と言える。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年4月号より)