
オリジナル機の機能をフル装備しながら
86%サイズに縮小
復刻されたARP Odysseyは小さなARPロゴがついたセミハード・ケースに収納されて我が家に到着しました(写真①)。

ケースを開けると、パネル・デザインはそのままで86%縮小した本体が現れます。格好いいですよ〜! 筆者はこのサイズ、一発で気に入りました。スライダーの解像度を保持するためにも、このくらいがちょうど良いのではないでしょうか。これ以上小さくすると鍵盤も弾きにくくなりますしね。
さあ音出しです。もう最初に宣言してしまいますが、素晴らしいの一言。中身がオリジナルとほぼ同じアナログ回路で組まれているので当たり前とはいえ、クリアでワイド・レンジ、少し鼻にかかったようなOdyssey固有の質感がバッチリよみがえっています。ARP Odysseyはなにしろ多彩なサウンドがウリです。まず外せないのがベース系。オシレーターを重ねたシンセ・ベースは言わずもがな、オシレーター1基でも十分量感豊かなサウンドが飛び出します。さらに、基本となるオシレーターやローパス・フィルターに加えて、ハイパス・フィルターやリング・モジュレーター、そしてサンプル&ホールド(S&H)などのモジュールが搭載されていることも多彩なサウンドを創造する鍵。金属系もARP Odysseyのお家芸で、FMを多用したゴ〜ンとかチ〜ンという鐘類からリング・モジュレーターを使ったガキュ〜ンという硬い擬音、シャーンというシンバルなど、作っていて楽しくなってきます。S&Hでノイズとオシレーターをミックスしたソースによるユニークなシーケンス・フレーズは今でも新たな発見がありますし、極めつけのドぎついオシレーター・シンク・サウンドも“これだよ!これ”という感じです。
重要なのは、スライダーとスイッチ類の選択だけで、これらさまざまなモジュール同士の組み合わせが実現できることです。これこそがオリジナルOdysseyが今日まで支持されてきた理由であり、40年も前の設計であるにもかかわらず今回削除されたパラメーターが皆無だったという事実からも、どれだけオリジナルの完成度が高かったかをうかがい知ることができます。もちろんOdysseyの特徴であるデュオフォニックと呼ばれる最高2音出せる機能(2ポリフォニックという意味ではないのでお間違いなく)に加え、VCO-1と2がそれぞれ低音、高音優先発音になってますし、後期型(後述)に採用されていたPPC(プロポーショナル・ピッチ・コントロール:ピッチ・ベンドやモジュレーションを、指でパッドを押した際の強さでコントロールする機能)に至っては、材質まで含めてそっくりそのままです。
Rev. 1〜3のフィルターとポルタメントを
スイッチ切り替えですべて再現
お楽しみはまだまだ続きます。復刻にあたり、素晴らしいことに幾つかの追加機能を盛り込んでくれました。その内容はと言うと……
●歴代のフィルターをすべて搭載
●ポルタメント回路も2種類搭載
●DRIVEスイッチとヘッドフォン端子
●MIDIとUSB(MIDI)に対応
……というところです。
オリジナルのOdysseyは、販売されていたおよそ10年の間に大きく2回アップグレードが行われました。外見で判別することが可能で、最初は白パネ、続いて黒パネ、最後が黒&オレンジ・パネとなってます。日本ではRev. 1〜3とか、前/中/後期などと呼ばれることもありますね。復刻ARP Odysseyは黒&オレンジになりますが、白/黒パネも限定生産されるのでお見逃しなく!(写真②③)。


で、オリジナルの3モデルはそれぞれ内部の回路も少しずつ違っています。今回の復刻でも設計者は頭を悩ますことになったはず。結局“大きな違いはローパス・フィルター部とポルタメント部なので、それぞれの回路を搭載し、スイッチで切り替えよう”という結論に達したわけです。
ARP Odysseyの3つのローパス・フィルター(VCF)はいずれもかなり固有の特徴を持ちます。まずTYPE Iは白パネに搭載されていたもので−12dB/Octのカーブ。回路構成的にはOBERHEIM SEMのローパス・フィルター回路と同類に属しますが(ちなみに先に作られたのはARP Odyssey)、特性的にはかなり違い、ARPはしっかり発振もするのがキモ。で、その音が圧巻。とにかく良い意味で野蛮なもので、極太なサウンドを響かせてくれます。フィルター発振させたサイン波で作ったベース・サウンドは、危険なまでに重低音を響かせてくれるので、この音はクラブで大流行するのではないでしょうか。TYPE IIは−24dB/Octで、MOOGのトランジスター・ラダー回路に近いこともあり、同じ傾向の音がします。3タイプ中、最もオールマイティな使い方が可能なフィルターという感じで、筆者のお気に入りでもあります。TYPE IIIも−24dB/Octですが、特にレゾナンスの効きに特徴があります。なのでレゾナンスを利用したクセのある硬質なベースや、ROLAND TB-303みたいなミョンミョン言わせる音が得意だったりします。このようにどのタイプも捨てがたい魅力があるわけで、1台で3つを試せるというのはとてもぜいたくな話。というわけで、既にオリジナルOdysseyを持っている人たちもこの誘惑には勝てないでしょう(笑)。
さてオリジナルの白パネは、鍵盤を押しながらトランスポーズ・スイッチを使うとポルタメントをかけることができるという面白い機能がありました。しかし普通のシンセのように使いたい人もいるだろう、ということで、この機能がオン/オフできるようにしてくれました。切り替えはポルタメント・スライダー横の小さな穴に細いペンなどを挿してスイッチのオン・オフを行います。こうすることでオリジナル・デザインが崩れ無いようにしたKORGさんの気配りではないかと密かに思ったりしてます。
ひずみを加えるDRIVEスイッチや
MIDI/USB端子も新規搭載
ここからはオリジナルに無かった機能です。まずDRIVEスイッチはVCAをひずませることで音にパワーを加えるもの。昔からOdysseyは音が奇麗過ぎてMOOGのような脂ぎった音が出ないと言われたものですが、今回このスイッチが追加されたことで心地良いひずみが付加できるようになりました。特に前述したフィルターのTYPE IIやIIIに使うと粘っこいMOOGサウンドっぽさが増強できたりします。それからヘッドフォン端子も背面に追加されました。この端子はヘッドフォン用のみならず、同じく背面に用意された外部オーディオ入力端子と接続することでセルフ・フィードバックをかけることができ、前述のDRIVEスイッチとは違うアーシーなサウンドを得ることができるという二度おいしい仕掛けになってます。そしてMIDIとUSBは現代の制作シーンでは必須であることは言うまでもないでしょう。
そうそう、背面にはCV/GATE/TRIGという入出力端子もありますから、規格が合えば他のアナログ・シンセやシーケンサーとCV/Gate経由でのやりとりが可能です。また、ナイスなことに、MIDI入力された信号は内部で電圧変換出力して背面のCV/GATE/TRIGから出力可能なので、ARP OdysseyをCVコンバーターとして使えます。しかもパネルのポルタメント・スライダーの設定値や前述したポルタメント・スイッチにも対応してくれる念入りさなので、他のアナログ機を拡張音源として加えることもできますね。
長くARP Odysseyを愛用してきた人なら、誰もが“新品のARP Odysseyってどんな音だったのだろう?”と一度は夢想したことがあると思います。今回それがかなったわけですが、正直これほどまでに良くなるとは想像していませんでした。ソフト・シンセの進化ぶりには本当に圧倒される日々ですが、それはそれとして、あらためて“まだまだアナログは残るなあ”と痛感させられました。

撮影/川村容一
(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年4月号より)