
PA会場で必要とされる機能を凝縮
コンピューターやタブレットで操作可能
本機は最大でステレオ3系統のアナログ出力が可能。ADコンバーターはDBX独自の“Type IV”方式が採用されており、ダイナミック・レンジの改善が図られている。ほかにディスプレイの表示に従って設定を進めていくことで最適なセットアップを完了できる“ウィザード機能”や25のプリセット、リアルタイム・アナライザー+自動イコライジング機能を搭載し、PAシステムのセッティングを短時間で完了させられるという。
フロント・パネルには測定用のRTAマイク(別売)入力端子とディスプレイ、SELECTホイール、レベル・メーター、INSTANT ACCESSボタンなどがシンプルに配置され、目的とする操作項目にすぐたどり着ける。ディスプレイの視認性は良く、スレッショルドLEDもかかり具合で色分けされており、とても分かりやすい。各出力はミュート・ボタンを装備しており、すべての出力をミュートした状態で本機を起動することも可能だ。
リア・パネルはアナログ入力(XLR)×2、アナログ出力(XLR)×6に加え、イーサーネット端子、USB端子、入力レベル切り替えスイッチ(+4dBu/−10dBv)、グラウンド・リフト・スイッチを装備。イーサーネット端子にDHCPサーバー機能を持つ有線/無線ルーターを接続すれば“PA2 Control App”というアプリケーションを介して本機をコンピューター(Mac/Windows)やiOS/Android端末からコントロールできるようになる。会場のあらゆる場所から、指一本でEQなどをリモート設定できる操作感はとても魅力的で、筆者も普段から大いに活用している。
ウィザード機能により
EQやスピーカー・ゲインを自動設定
今回のテストは、スタンディング・キャパシティ200名弱の弊社ライブ・ハウスにて行った。ミキサーはROLAND M-300、メイン・スピーカーはMEYER SOUND UPJ-1Pで、サブローは同社の650-Pを使用。卓とスピーカーの間には本機のみを接続するシンプルなセッティングだ。
まずは入力直後に配置されているグラフィックEQから効果を確認してみた。先述の通り各機能へのアクセスは直感的で、説明書が無くともすぐに操作でき、デリケートな調整でもしっかりと効いている印象だ。しかし詳細な設定は本機のディスプレイ/ボタンでの操作では時間がかかるので、PA2 Control Appを使いタブレットやコンピューターから操作するのがいいだろう。
本機最大の特徴となる“ウィザード機能”は3つのモードを用意。まずスピーカーやパワー・アンプのモデル名などを選択していくだけでクロスオーバー/パラメトリックEQ/極性/リミッター/出力ディレイを最適な値に自動設定してくれる“システム設定ウィザード”が便利だ。選択できるモデルには主要メーカーのさまざまな製品が含まれており、USB端子を介して最新のリストに更新も可能。事前にシステム設定ウィザードを実行して結果を本体に保存しておけば、会場での効率的なセットアップが可能になるだろう。
次の“オートEQ/レベルアシスト・ウィザード”はRTAマイクを使用してリアルタイム・アナライザーで音場を測定し、パラメトリックEQで周波数特性を自動補正してくれる。さらにスピーカー・レベルやL/Rのバランスも解析し、最適なパワー・アンプのゲイン設定がディスプレイに表示されるという仕組みだ。ディスプレイの表示通りにマイクをL/Rスピーカーの真ん中、左寄せ、右後方などに動かしていくだけでEQの自動補正とスピーカーのレベル設定が行われるさまはとても興味深く、何度も試してしまった。補正の結果仕上がる会場の音場も自然な響きで、低域から高域までまとまりがある印象だ。
最後の“AFSウィザード”では、ハウリングを意図的に発生させることでそのポイントに固定のノッチ・フィルターが自動的に挿入される。こちらも瞬時にポイントを検出してくれるので、“これまでハウリング・ポイントを一つ一つ探っていた時間は何だったのか……”と思ってしまうほどだ。これらを調整した結果はユーザー設定として本体に75個も保存でき、PA2 Control Appと連携してタブレットやコンピューターにバックアップを作成できる。
多彩な機能を装備した本機は、特に初めてオペレートする会場では心強い存在。急なセッティングの変更にも手早く対応でき、作業の時間短縮につながる。弊社でも導入したい一台だ。

撮影:川村容一
(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年4月号より)