
プリアンプは双三極管ECC83を採用
グラウンド・リフト・スイッチでノイズ対策
直径53mm、長さ212mmの筐体は758gとずっしり。近年の生活環境にあふれるさまざまな電波干渉によるノイズ発生を防ぐためにオール・メタルで作られたボディは、質感の良さにも大いに貢献している印象だ。
音の入り口には金蒸着が施された1インチ径のラージ・ダイアフラムを2枚携え、ハイクオリティなコンデンサー・マイクであるための基本がしっかりと押さえられている。プリアンプ部には厳選された双三極管のECC83を採用。これにより、入力信号にわずかな偶数次倍音を付加し、つややかで温かみのあるサウンドが得られるという。
指向性は無指向から単一指向、双指向まで全9パターンを切り替えられる。加えて空調や床振動ノイズをカットするハイパス・フィルター(80Hz)を装備するほか、−20dBのPADスイッチも用意されているので、さまざまな音源収録へフレキシブルに対応可能だ。さらに、ハム・ノイズ対策のためのグラウンド・リフト・スイッチを装備する。なお、これらの切り替えはすべて付属の電源ユニット上で行う。
高域は自然でナチュラルな音質
中域のピークも柔らかく受け止める
では、音色チェックに移ろう。まずはアコースティック・ギターに立てて、強弱を付けて弾いてもらったアルペジオやストロークを収録した。音源の第一印象は“柔らかく滑らか”。低域の響きはふくよかで、125〜150Hz辺りがうまくコントロールされており、もたつくような感じは無い。中域もよく整理されていて、450〜550Hz辺りのローミッドは抑え目な印象ながら、アコースティック・ギターの肝となる800〜900Hzがしっかりしていて、音像がぼやけたりしないのが好印象。そしてハイエンドに向かう4〜5kHz辺りのギラつき、7〜8kHz辺りのチリチリなど、嫌なピークは見せずにスーッと伸びの良い音が入ってきた。
高域の音質が自然なため、トータルとしては若干おとなしく聴こえるかもしれないが、“色付けが少なくナチュラル”と表現するのがふさわしいだろう。ダイナミクスに対するレスポンスも上々。強めのピークに対して柔らかく反応してくれるところに真空管らしさが現れており、ピーク成分の多いアコースティック・ギターとの相性の良さを感じた。
次に女性ボーカルでもチェック。声を張ったときに発生する中域のピークも柔らかく受け止め、子音もキツくなく非常に聴きやすかった。日を改めてトランペットも収録したが、トランペットは音域によって音圧が高く出るため、許容量の小さなマイクだとひずんでしまう恐れがある。その点、本機の最大音圧レベルは135dBと比較的高めで安心だ。しかもPADを入れれば155dBまでのマージンを持つが、今回はPAD無しでもひずむことなくマイクとしてのポテンシャルの高さを確認できた。
これらの音源でチェックした印象から、本機は男女ボーカルやアコースティック・ギター、ピアノ、木管&金管楽器などの収音に適していると言えるだろう。指向性を切り替えられるので、各種ルーム・マイクとしての使用も可能だ。そしてパワフルかつさまざまに工夫された仕様や、滑らかで上品な音色から考えても、この価格帯ではかなりコスト・パフォーマンスが高いマイクである。


(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年2月号より)