
インプット・ゲインのひずみもシミュレート
実機にはないMIXツマミが便利
プラグインの構成を左上から見ていきます。まずはINPUT。これは実機にマイクを入力したときのゲイン・アッテネーターと、テープを入力するときのゲイン・コントロールをシミュレートしたものです。単なるインプット調整ではなく、ゲインによるひずみや音の劣化までがシミュレートされている印象でした。また、コンプレッサーやリミッターを使用する際のスレッショルド調整にもこのINPUTツマミを使います。その下にあるDYNAMICSのMODEはコンプレッサーとリミッターのオン/オフ設定用で、アタック・タイムはいずれも1msに固定。次のHOLDでリダクションする時間を調整し、RECOVERYでリダクションから戻るスピードを最小100msから、なんと最大で5sまで設定が可能です。その下のMIXツマミは実機には存在しませんが、リダクションした音と原音をミックスできるというとても便利なもので、コンプレッションのかかり過ぎやアタックの損失を抑えます。最下部のSC-HPスイッチは、サイド・チェインのハイパス・フィルターのオン/オフ設定用です。
中央のセクションに移りましょう。最上部にはROUTINGスイッチがあり、ダイナミクスと2種類のEQを通すルーティングのパターンを3通りからセレクトできます。その下がEQセクションで、まずTREBLEは5kHzのポイントでブーストするベル・カーブと、10kHzのポイントでカットするシェルビング・カーブが用意されており、−10〜+10dBで調整可能です。次のPRESENCE(kHz)ツマミでは、EQポイントを500Hz〜10kHzから選び、その下のPRESENCE(dB)ツマミで−10dB〜+10dBのゲイン調整ができます。最後はBASSで、50HzのシェルビングEQを−10〜+10dBの範囲で調整できます。最下部にあるのはEQのバイパス・スイッチです。
実機のクロストークまで再現
60'sサウンドが簡単に手に入る
最後に右側のMasterセクションを見ていきます。最上部の左右にVUメーター、中央にはピーク・メーターを配置。その左下のCASSETTEというスイッチでDUO/STEREO/MSモードを選択し、中央の赤いツマミSPREADで左右の広がりのイメージを調整します。その右上がメーター表示の切り替えスイッチで、ゲイン・リダクション/インプット/アウトプットを選択。その下のMONITORは、左右(L/R)/ステレオ/モノ(またはMSモード時のミッド/サイド)それぞれを単独で聴くための切り替えツマミです。そして同じ列の左側にあるNOISEツマミでは、実機のようなハム・ノイズを混ぜることができます。中央にある大きなフェーダーはアウトプットのレベル調整用で、それを挟んで左右にあるCH SELECT(LR)は実機を精密にモデリングしていて、その下のDRIVEツマミで加えるひずみの量をそれぞれ調整することによって、L/Rで若干の音のバラツキを再現します。最下部にあるのは、各チャンネルの位相反転スイッチです。
ただ挿すだけでも十分に60’sのサウンドが得られるこのプラグインは、まさにコンソールそのもの。ドラム、ボーカル、ベース、ストリングスなどに使ってみましたが、どれも素晴らしい音質で筆者はノックアウトされました。コンプは癖が少々強いものの、MIXツマミの調整で単なるレトロな音にとどまらず、温かくも、エネルギッシュにも、にじませることもできます。そして精密なモデリングを象徴するように、このプラグインを挿すと左右間にクロストークが生じ、パンを完全に振っても音漏れしていたことには大変驚きました。
まるでタイム・マシンのように時代をさかのぼれるサウンド・マシン!のような本プラグイン。実機がいかに楽器のようなコンソールだったかということまで感じ取れるような製品でした。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年2月号より)