「IZOTOPE Ozone 6」製品レビュー:より使いやすいデザインを備えた高機能マスタリング・ソフト最新版

IZOTOPEOzone 6
IZOTOPE Ozoneは、プラグイン界で恐らくトップ3に入るくらいの高機能なマスタリング・プラグインです。私も愛用してきましたが、このたびOzone 6へと進化しました。対応プラグイン・フォーマットはAAX/RTAS/AudioSuite/VST/Audio Unitsと、ほとんどのソフトで使用可能。前バージョンとの違いや新機能、そしてこのプラグインがいかにすごいかをディープに紹介していきます。

スタンドアローン動作も可能に
より優れた音質を獲得

マスタリングはミックス済みのサウンドに対して行う調整ですが、いまや第2のミキシングと言えるほどサウンドを自在に操れます。正直、ミックスが多少ヘボくてもマスタリングでかっこ良くすることだってできるのです。特にCMや劇伴仕事ではマスタリング・スタジオに入りませんので、必ずマスター・フェーダーにOzoneなどのプラグインをインサートし、自分でマスタリングを行って納品していました。CDの仕事でさえ、Ozone 5などで自分の持っていきたい方向性に補正しながら、マスタリング・エンジニアがいじれる余地を残した状態でファイルを渡すようにしています。

さて今回登場したOzone 6は、従来のバージョンから大幅に進化しました。まずスタンドアローンのアプリケーションが追加され、DAWソフトを立ち上げなくても作業できるようになりました。またスタンドアローンではAudio Units/VSTプラグインをインポート可能。他社のプラグインも併せて作業が行えます。ユーザー・インターフェースも、もはや別もののプラグインと言ってよいくらいデザインが変更され、より使いやすくなっています。

Ozone 6には通常版と、今回レビューするAdvancedの2グレードがあります。AdvancedにはDynamic EQが搭載され、高機能なメーター・プラグインであるInsightもバンドルされています。一方、Ozone 5にあったリバーブはこのバージョンでは無くなりました。

さて、重要なポイントは音質です。我々エンジニアも慣れてくると、マスターにどのプラグインをかけたかが感じ取れます。Ozone 5はちょっとまとまる感じがあり、デジタルな質感が割と強く、仲間内では“ああ、Ozone 5使ったのね”みたいに分かってしまう感じがあったのも事実です。ところがOzone 6ではこの前バージョンにあった独特の質感が無く、EQやコンプを使っても、マスタリング・スタジオで聴かせてもらっているあの微細な変化に近い感じがします。その意味ではさらにマスタリング・スタジオのクオリティに近付いた印象です。

7種類のユニットを自由に並べ替えて使用
EQやダイナミクスのM/S処理も

あらためて大まかに機能を見ていきましょう。Ozone 6 Advencedはマスタリング作業で考えられるすべてのツールが“ユニット”として搭載されています。7種のユニットを下段のスロットに並べて使うのがOzone 6 Advancedのスタイル(画面①/通常版は6種)。

▲画面① 7種類のユニットから任意のものをクリックすると、下のスロットへ信号処理順に並べることができる ▲画面① 7種類のユニットから任意のものをクリックすると、下のスロットへ信号処理順に並べることができる

スロットは6つまで、音は左から右に流れていきます。

まずEqualizerとPost Equalizer。どちらも機能は同じで、音の入り口に1つ、出口に1つ使う感じでしょうか。バンド数は8までで、それを自分で足しながらEQカーブを1バンドごとに細かく設定できます。さらにEQの効き具合もアナログとデジタルから選択できます。さらに、マッチングEQという機能もあり、別のオーディオ・ファイルの周波数分布へ近付けるようにEQを自動設定してくれます。例えばボーカルやナレーションなどを何日かに分けて収録した場合、声質が変わってしまう場合があります。そんなときの補正に威力を発揮してくれそうです。

EQ以外のユニットも見ていきましょう。Dynamicsにはコンプ/リミッターがあり、これも4バンドまで自由に設定可能。シングル・バンド・コンプでシンプルに使うのか、マルチバンドにして細かい帯域まで追い込むのか、自由自在です。

Exciterは少し理解が必要です。エキサイターは元音をわずかにひずませて高次倍音を取り出し、元音に足すという仕組みですが、これを4バンドまでの帯域に分け、バンドごとにかかり具合を設定できます。ひずませるアルゴリズムも真空管やテープなど6種類から選ぶことができ、高域にかければシンプルなエキサイターとして、低域を多めに強調すれば音が太くなるサチュレーターとして機能します。

Imagerはステレオの広がり感を調整します。これも4バンドまで自由に選べ、例えば高域だけステレオ感を広げて、ベースやキックの帯域は逆に狭めてモノっぽくするみたいなことができます。あまり音を広げ過ぎると逆相成分が多くなり、店内放送などでモノラル再生されると打ち消し合って消えてしまいます。どのくらい逆相が多いのかは、ベクター・スコープで監視しながら調整できます(画面②)。

▲画面② 左右の広がりをコントロールできるエフェクト、Imager。Ozone 6では多くのエフェクトでマルチバンド処理が行える。ここでは10kHz以上の高域の広がりを調整しているところ ▲画面② 左右の広がりをコントロールできるエフェクト、Imager。Ozone 6では多くのエフェクトでマルチバンド処理が行える。ここでは10kHz以上の高域の広がりを調整しているところ

Maximizerはその名の通り音圧を限界まで上げてくれます。アルゴリズムがIRC IからIIIまであり、IRC IIIがよりきめ細かく音圧を上げてくれますが、CPU負荷とレイテンシーは高めです。

先述した新機能のDynamic EQは、4バンドまでの帯域で、スレッショルドを超えた音に対してEQをかけます。シンプルに考えれば、歯擦音に対してマイナス方向にゲインを動かすとディエッサーとして使えます。そのほか、リム・ショットだけやたらと大きいドラム・トラックでそのリムだけ下げるということもできるでしょう。もちろんスレッショルドを越えたらその帯域のゲインを上げることもできます。アイディア次第でかなり有効に使えるはずです。

またDynamics、Equalizer、Post Equalizer、Exciter、Dynamic EQはステレオ(L/R)モードとM/Sモードが選択できます(画面③)。

▲画面③ EqualizerなどではM/S処理が可能。画面左のモード選択でL/RからM/Sに変更することができる ▲画面③ EqualizerなどではM/S処理が可能。画面左のモード選択でL/RからM/Sに変更することができる

M/SモードはMがMid(センター成分)、SがSide(左右の広がり)を示しています。例えば左右に定位した広がっている音に対してのみEQで高域を持ち上げるといったことが可能に。同様のテクニックがコンプやエキサイターでも使えるので、変幻自在の音作りが行えるでしょう。

ディザーやモニター用機能も充実
バイパス時に聴感上の音量を保つ機能も

Ozone 5より格段に進化したのが右側のマスター・セクション。メーターでレベルを細かく監視できるのはもちろんですが、下のボタン類が素晴らしいです。まずディザー。Ozone 5ではディザーがどこにあるか分かりづらかったのですが、ちゃんとマスターに配置されました。その上にあるMONOボタンはモノラルにしてモニターできるというもので、前述のイメージャーなどでかなり音を広げたときなどで、モノラル再生のシミュレーションが行えます。

このマスター・セクションにあるBypass、左側の“Bypass”と書かれたボタンを押せば単純なバイパスです。しかし右の耳型ボタンをオンにすると、聴感上の音量はそろえつつエフェクトのオン/オフを聴き比べることができます(画面④)。

▲画面④ 画面右のメーター下にはバイパス、モノ/ステレオのモニター切り替え、ディザーのオン/オフを用意。バイパス横の耳型ボタンをあらかじめ押しておくと、バイパスのオン/オフにかかわらず聴感上の音量をそろえてくれる ▲画面④ 画面右のメーター下にはバイパス、モノ/ステレオのモニター切り替え、ディザーのオン/オフを用意。バイパス横の耳型ボタンをあらかじめ押しておくと、バイパスのオン/オフにかかわらず聴感上の音量をそろえてくれる

元音のレベルが低く、Maximizerで大きく上げてしまった場合、バイパスにすると極端に音量が小さくなり、どれだけエフェクトが効果的に作用しているのか確認が難しいのですが、この耳型ボタンによって違和感無く確認できるのです。

最後にプリセットです。Balanced/Heavy/Lightという3つのカテゴリーがあり、自分の好みに合ったプリセットで音作りを始められます。僕はBalancedのCD Master、Emphasize Bassなどをよく使います。Ozone 5ではとにかく盛大な数のプリセットがあって、使い方が分からないユーザーも片っ端からプリセットを試して気に入ったサウンドを選ぶことができたのですが、Ozone 6ではリバーブが廃止になったことも関係して少なめです。今後どんどん追加されることを希望します。

私はマスター・フェーダーだけでなく、ドラムのグループ・フェーダーにインサートするなど、さまざまな使い方をしています。マスタリングだけでなく、通常の音作りでも強力なツールとなってくれるでしょう。また、Ozone 6 通常版ではDynamic EQとInsightがありませんが、基本的なマスタリングはこちらでも十分だということは、レビューでも感じていただけたと思います。まずはトライアル版をダウンロードして試してみてはいかがでしょうか。

サウンド&レコーディング・マガジン 2015年2月号より)

IZOTOPE
Ozone 6
オープン・プライス (通常版/市場予想価格:28,000円前後、 Advanced/市場予想価格:108,000円前後)
▪Mac:OS X 10.8〜10.10 ▪Windows:Windows 7または8 ▪対応プラグイン・フォーマット:AAX(64ビット)、RTAS、AudioSuite、VST2、VST3、Audio Units ▪対応アプリケーション:AVID Pro Tools 10/ 11、APPLE Logic/GarageBand、ABLETON Live、STEINBERG Cubase/Nuendo/WaveLab、MOTU DP8、PRESONUS Studio One、 ADOBE Audition、TASCAM PROFESSIONAL SOFTWARE Sonar、COCKOS Reaper、SONY Sound Forge、IMAGE-LINE FL Studio、他