「SOLID STATE LOGIC XL-Desk」製品レビュー:API 500互換スロットをチャンネルに備える24chアナログ・ミキサー

SOLID STATE LOGICXL-Desk
最近は音質を含め、アナログ・ミキサーがあらためて見直されてきていると感じます。そんな中、SSLから中規模のアナログ・ミキサーXL-Deskが発売されました。最近話題のAPI 500互換(以下VPR)モジュールを搭載できることもあって、皆さん気になっている製品でしょう。

※メイン写真はEQ Module×16 Model

16モノ+4ステレオ・フェーダー
アウト・バスはステレオ4系統

XL-Deskは自宅でも設置できるほどコンパクトで、レイアウトもシンプルで使いやすそうな印象です。インプット端子はチャンネルごとに複数あり、ch1〜8はMIC/LINE/DAW(後者2つはいずれもアナログ・ライン・レベル)が、ch9〜16は、LINE/DAWが選択ができます。ch1〜8のマイクプリには2次/3次倍音を付加するVHD回路も装備。このマイクプリにラインものを入れて、ひずみ感を調整することもできます(写真①)。

写真① VHDマイクプリを搭載したモノラル・チャンネル。上段はマイクプリで、VHD回路、Hi-Z入力、+48V(ファンタム電源)、PADの各スイッチと、VHDの倍音調整ツマミとゲイン。2段目はTRIMで、±20dBのゲイン・ノブとチャンネル・アウトのプリ/ポストフェーダー選択、DAWインプット(とLINEの切り替え)、位相反転、500モジュールのインサート、センド/リターンに接続した機器のインサート。3段目はステレオのCUEと2系統のAUXとい ったセンド・ノブ。パンの下が、MIX A〜Dへのアサインと、CUT/SOLOスイッチ 写真① VHDマイクプリを搭載したモノラル・チャンネル。上段はマイクプリで、VHD回路、Hi-Z入力、+48V(ファンタム電源)、PADの各スイッチと、VHDの倍音調整ツマミとゲイン。2段目はTRIMで、±20dBのゲイン・ノブとチャンネル・アウトのプリ/ポストフェーダー選択、DAWインプット(とLINEの切り替え)、位相反転、500モジュールのインサート、センド/リターンに接続した機器のインサート。3段目はステレオのCUEと2系統のAUXといったセンド・ノブ。パンの下が、MIX A〜Dへのアサインと、CUT/SOLOスイッチ

ch17-18〜23-24はステレオ・フェーダーです(入力はLINEのみ)。LINE/DAW入力にはトリムもあり、位相反転など基本的な機能も万全。また右端のフェーダーはMIX Aというステレオ・バスのマスター・フェーダーになります。また、エフェクト接続などに使えるステレオ・リターンも2系統装備しています。

アウトプット関係は、センドとしてCUE(ステレオ)が1系統、AUXが2系統。ステレオMIXバスもA〜Dの4系統に分かれています(写真②)。

▲写真② ステレオ・バスMIX B〜Dのアサイン・セクション。500モジュールやアウトボードのインサートの下に、MIX Aへのアサインとノブ型フェーダーがある ▲写真② ステレオ・バスMIX B〜Dのアサイン・セクション。500モジュールやアウトボードのインサートの下に、MIX Aへのアサインとノブ型フェーダーがある

このうちMIX Aは実質的なマスター・アウトなので、コントロール・ルームではそれをモニターし、MIX B〜Dを演奏者用のモニターにする、といったことも可能です。またこのMIX B〜Dは、MIX Aにも送れるので、MIX Bにドラムをまとめて、コンプをかけてからMIX Aに送ったりといった使い勝手が考えられます。

また本機の一番の注目はVPRスロットが16基あることでしょう。それぞれに自分の好みのモジュールを組み合わせてカスタマイズできます。小〜中規模のレコーディング・スタジオなどでは、この組み合わせで個性を出すことも可能でしょう。

インサートやダイレクト・アウトなど
入出力の充実ぶりも魅力

そのほか、本機で一番注目したい点は、細かい入出力の多さです。VPRモジュールを“500”ボタン一つでチャンネルにインサートして使える上、その後段にINSというインサート・ボタンがモノラル16ch分あり、例えばVPRのEQの後にアウトボードのコンプでレベルを整えるということも簡単にできます。また、VPRモジュールへの入出力端子も独立装備しているので、VPRのマイクプリを使いたい場合はこれに直接マイクを入力し“500”ボタンを押せば、XL-Deskのヘッド・アンプなどは通らないので、モジュール本来の質感を損ねることもありません。単純にVPRモジュールのフレームとしても使えます。また、ダイレクト・アウト(プリ/ポストフェーダー切替可)もあるので、アナログ領域で音作りしてDAWへ録音することも簡単です。もちろんマスター・バスにもそれぞれインサートがあります。

本機ではこれらの入出力がすべてD-Sub 25ピンとなっているので、できればパッチ・ベイを用意すると接続が簡単に変えられ、本機の使い勝手がより良くなると思います。

モニター系は、モニター・アウトがステレオ2系統で、それぞれのレベルも調整できます。また、サブウーファー用のSUBアウトも実装しています。SUBボタンを押すとモニター・アウトの80Hz以下にフィルターがかかり、SUBアウトからは80Hz以下の音が出力されます。モニター入力系では、MIX Aバスのほか、外部入力がステレオ1系統と、パネル上にある携帯プレーヤー接続用ステレオ・ミニ入力も選択可能(これらはサミングも可能)。また、あまり見慣れていないと思いますが、LISTEN INも用意されています。これは、例えばスタジオでブースの中の人と会話をする場合、この入力にマイクを接続してボタンを押すとスタジオの中の音が聴けるので便利です。また、このLISTEN INのマイク入力は独特の質感を持っているので、このヘッド・アンプを使って録音したい場合のアウトも用意されています。これはSSL伝統の技ですね。

中域のディテールに優れたミックスが可能
同一モジュールもより良い効きに

では試聴です。先入観無しに、AVID Pro Tools|HDXのHD I/O(ソフトはPro Tools HD10)からパラアウトして、XL-Deskでミックスしてみました。“ん? 何かやりやすい”……まずこれが第一印象。VPRのEQやコンプもかかりが良い感じです。従来のSSLの音とも少し違った、うまい具合にニュートラルな音の印象。あえて言うなら、XL9000Kシリーズのレンジの広さと、SL4000Gシリーズのガッツさを足して2で割ったような感じです。

そこでPro Tools|HDXの内部ミックスと、パラアウトして本機でミックスしたものを、レベルをきっちりそろえて聴き比べてみると、本機の方が立体的な音で、中域のディテールに優れ、スネアの皮の感じなどよく出ています。レベル・メーターも、Pro Tools内部ミックスの場合、本機のメーターでレベルの動きの幅が少ないのに対し、本機でミックスした音は動きの幅が大きく、聴感上同じ大きさでもダイナミクスを感じました。できればPro Tools HD11との聴き比べもしてみたかったですね。

続いて、VPRモジュールのかかり具合も検証してみました。驚いたことにXL-DeskのEQ、つまりE-Series EQ Moduleを1基外し、一般的なVPRフレームに入れて本機と聴き比べると、明らかに本機に搭載したモジュールの方が効きが良いのです。ハイエンドやローエンドを増幅した場合の伸び方が大きく異なり、正直ここまで違うとは……という印象です。両者の違いは電源回路のみ。SSLいわく、XL-Deskの電源にはかなり力を入れているようで、どのようなタイプのVPRモジュールが来ても大丈夫とのこと。これだけでも欲しくなってしまいました(笑)。

本機ではVPRモジュール無しか、16ch分のEQを収めた状態が標準なのですが、どちらもマスターのバス・コンプは付属しています。このバス・コンプもキー入力にハイパス・フィルターが付いた新たなバージョン。低域の干渉でコンプのかかり具合が変わるのを防げるので便利です。音的にもVPRモジュール同様、良い印象でした。なお、このバス・コンプはMIX Aバス専用。マスター・フェーダー上のCOMPボタンでインサートができ、フェーダー手前の最終段に入ります。

また、本機のVPRスロットの9〜16はMIX A〜Dバスでも使用することが可能です。スロット9-10がA、11-12がBという具合に割り当てられています。なので、MIX Aバスに関しては、VPRモジュール、物理的なインサート、マスター/バス・コンプの3系統が使えます。

さらに、それぞれのMIXバスの外部インサートにはSUMという機能があります。これはインサートへ送る前の音と、インサートで外部から帰って来た音とをミックスする機能です。バランスはインサートした機器側で調整することになりますが、こうした機能が付いていないコンプを使う場合などに便利でしょう。

筆者もこれまでさまざまなサミング・ミキサーなどを試してきましたが、久々に面白いと思う製品にめぐり会いました。筆者は最近はPro Tools内部ミックスが基本となっていますが、アナログに戻そうかな?と思わせる一品です。小〜中規模のレコーディング・スタジオにはぜひ導入してほしいと思います。VPRモジュールを何にするかでスタジオの個性や面白さも倍増するでしょう。もちろん個人では気軽に買える価格ではありませんが、欲しいなと思える機材でしたね。

▲リア・パネル。左上から下へMIX A B C D SEND、同RETURN、同OUT、AJ(予備)。2列目はMISC INPUT、MISC OUTS  1、同2、CJ(予備)。3列目はMONITOR OUTS、STEREO INPUT 1-4、同OUT 1-4。次の9つはch9〜16用で、500 SEN D、500 SLOT IN、同OUT、 500 RETURN、LINE IN、DAW IN、INSERT SEND、同RETURN、CHANNEL OUT。その右2列も同じものがch1〜8用にある(以上すべてD-Sub 25ピン)。その右はMONITOR L&R(XLR)とLISTEN IN(XLR) ▲リア・パネル。左上から下へMIX A B C D SEND、同RETURN、同OUT、AJ(予備)。2列目はMISC INPUT、MISC OUTS1、同2、CJ(予備)。3列目はMONITOR OUTS、STEREO INPUT 1-4、同OUT 1-4。次の9つはch9〜16用で、500 SEND、500 SLOT IN、同OUT、 500 RETURN、LINE IN、DAW IN、INSERT SEND、同RETURN、CHANNEL OUT。その右2列も同じものがch1〜8用にある(以上すべてD-Sub 25ピン)。その右はMONITOR L&R(XLR)とLISTEN IN(XLR)

サウンド&レコーディング・マガジン 2015年2月号より)

SOLID STATE LOGIC
XL-Desk
オープン・プライス (Empty Model :市場予想価格2,400,000円前後、 EQ Module×16 Model:市場予想価格3,900,000円前後)
▪周波数特性(20Hz〜40kHz):±0.2dB(ライン・イン〜チャンネル・アウト)、±0.5dB(ライン・イン〜ミックス・バス) ▪外形寸法:1,015(W)×251(H)×812(D)mm ▪重量:40.6kg