「RME Fireface 802」製品レビュー:最大30イン/30アウトまで対応するオーディオI/Oの最新機種

RMEFireface 802
RMEからFireface 800の後継機に当たるFireface 802が発売されました。個人的にもRMEの製品はDigi96/8 PSTからMultiface、現在はMADIfaceを使っており、ドライバーの安定度、コスト・パフォーマンスの高さとトータルとしての製品クオリティの高さの面でとても信頼しているメーカーです。現在はネイティブ環境全盛ですが、STEINBERGのASIOやVSTが登場した初期から製品を発売しており、そのころから既にドライバーの完成度も高くオーディオ・インターフェースのメーカーとして歴史も長いですね。Fireface 800の発売は2004年ということですので、10年も現役で使えるインターフェースというのもここ最近のデジタル機器では珍しく、それだけ開発力が高いということでしょう。後継のFireface 802はさらにこの先10年使えるインターフェースとして、とても期待できます。早速さまざまな角度から見てみましょう。

アナログ12インのうち4chには
マイク・プリアンプを搭載


接続はFireWire400またはUSB2.0に対応。筆者の環境(APPLE MacBook Pro+USB)でテストしてみたところ、レイテンシーなど何も問題は感じられませんでした。スペックとしてはアナログ12イン(うち4chはマイクプリ搭載)/12アウト、AES/EBUイン/アウト×1、ADAT×2、ワード・クロック・イン/アウト×2、MIDI IN/OUT、ソフトウェア・ミキサーRME TotalMix FX付属と盛りだくさんな内容になっています。ADATに別途ADI-8 QSなどのAD/DAコンバーターを接続すれば、最大30イン/30アウトまで拡張可能ですので、より大きなプロジェクトにも対応できますね。まずはフロント・パネルのマイク/インスト入力に搭載されている4基のマイクプリの音質をチェックしてみましょう。AKG C451EBを接続してアコースティック・ギターを録音してみました。レンジも広くナチュラルで質の高いマイク・プリアンプといった印象です。次にアンプで鳴らしたエレキギターをダイナミック・マイクのTELEFUNKEN M82で録音してみましたが、すっきりとした後処理のしやすいクリアな音で録れました。録音レベルもフロント・パネルにゲイン・ツマミが搭載されているので、その場で調整できて便利です。一般的にオーディオ・インターフェースに搭載されるプリアンプは、さまざまな環境に対応できるよう原音に近くて癖の無いものが望ましく、本機もレコーディングからライブまで十分に対応する音質だと思います。フロント・パネルのゲイン・ツマミは、レンジが54dB、レベルは+6dB〜+60dBの幅で調整できます。これだけのゲインがあればコンデンサー・マイクからダイナミック/リボン・マイクまで幅広く対応できますね。RMEはOctaMicシリーズなどのマイク・プリアンプ単体機も作っており、その性能にも定評がありますので、本機にもそこで培った技術が搭載されているのでしょう。また入力はXLR/TRSフォーンのコンボ端子になっていて、Hi-Z入力にも対応しており、ギターやベースなどを本機に直接接続すればDIも必要ありません。最近はアンプ・シミュレーターのクオリティも上がり、筆者も制作時はライン録音しておき、シミュレーターで音作りしてそのまま完パケまで、ということも少なくありませんし、ラインで録音しておけば後でリアンプなどもできて便利です。 

専用ソフトウェアを用意
さまざまなルーティングを構築可能


本機にはDSPが2基搭載されており、Fireface 800でも使われていたソフトウェア・ミキサー、TotalMix FXでコントロールできるようになっています(画面①)。
▲画面① TotalMix FXのミキサー画面。Fireface 802本体のDSP上で処理されており、30chすべての入力および再生チャンネルを無制限にルーティング可能となっている。画面は、上からHARD WARE INPUTS、SOFTWARE PLAYB ACK、HARDWARE OUTPUTSのほか、右側にFX、右下にCONTROL ROOM(ヘッドフォンなどのモニター出力用)が表示されている。各チャンネルで、3バンド・パラメトリックEQ、ローカット、オート・レベル、コンプレッサー、エキスパンダー、MS処理、位相反転などの効果を設定可能。エフェクトはサンプル・レート192kHz時にも対応している。TotalMix FXのほとんどの機能は、Mackie Control互換のフィジカル・コントローラーなどにより、MIDIまたはOSCにてリモート操作できる ▲画面① TotalMix FXのミキサー画面。Fireface 802本体のDSP上で処理されており、30chすべての入力および再生チャンネルを無制限にルーティング可能となっている。画面は、上からHARDWARE INPUTS、SOFTWARE PLAYBACK、HARDWARE OUTPUTSのほか、右側にFX、右下にCONTROL ROOM(ヘッドフォンなどのモニター出力用)が表示されている。各チャンネルで、3バンド・パラメトリックEQ、ローカット、オート・レベル、コンプレッサー、エキスパンダー、MS処理、位相反転などの効果を設定可能。エフェクトはサンプル・レート192kHz時にも対応している。TotalMix FXのほとんどの機能は、Mackie Control互換のフィジカル・コントローラーなどにより、MIDIまたはOSCにてリモート操作できる
 2基のDSPのうち1基は内蔵エフェクトの処理専用なので、質の高いエフェクトをぜいたくに使用可能。録りにEQやコンプレッサーをかけられますし、モニタリング専用でリバーブも使えますので、録音時にレイテンシーも無くストレス・フリーでの作業を実現します。TotalMix FXではさまざまなルーティングが可能です。演奏者それぞれ別々のサブミックスを作って送ることも簡単。その設定もプリセットしておけますので、レコーディング本番であたふたするようなことも無くスムーズに作業ができます。画面レイアウトも非常に分かりやすく、たくさん並ぶフェーダーは、上段がHARDWARE INPUTSで、本機に接続されたインプットを表示。中段のSOFTWARE PLAYBACKはDAWからのインプット、そして下段のHARDWARE OUTPUTSと大きく3つのブロックに分かれています。本機インプットからの信号をそのまま本機アウトへ送ることも、DAWからのインプットを任意のアウトプット・チャンネルへ送ることも、このソフトを使えば視覚的にも分かりやすく設定可能です。フロント・パネルに2系統あるヘッドフォン端子へのミックス・バランスもそれぞれ個別に変更可能で、TotalMix FXのControl RoomセクションにあるPhones 1/2それぞれのフェーダー・バランスを設定するだけで、別々のモニター・バランスをあっという間に作れてしまいます。またフェーダー横のスパナのようなアイコンをクリックして開けば、マイク・インプットの場合48Vのファンタム電源や位相の反転、インスト・インプットの切り替えなどができる設定画面が現れます。ライン・インの場合には、Lo Gainと+4dBuが切り替えできるので、業務用機器やアウトボード、民生機器まで幅広く対応可能。センド・エフェクトへの送りレベルもここで設定します。 

トークバックやDimなどを搭載した
モニター・コントローラー機能


TotalMix FXの各チャンネルに搭載されたコンプ(画面上はDynamicsと表記)とEQを詳しく見ていきましょう。フェーダー横のEQとDの文字をクリックするとそれぞれの設定画面が現れます。コンプはオート・ゲイン付きでとても効きが良く、エキスパンダーも搭載。オート・ゲインはピークに達すると自然にゲインが下がる便利な機能ですので、ライブ録音などに威力を発揮しますね。EQはシンプルな3バンドEQでグラフィカルに表示されるので視覚的にも分かりやすく、とても使いやすいです。またローカット機能も付いており、20Hzから500Hzまで1Hz単位で設定可能。EQとコンプのセクションはそれぞれプリセットできるほか、あらかじめ用意されたファクトリー・プリセットもありますし、ユーザーでメモリーして呼び出すことも可能です。次にセンド・エフェクトを見てみましょう。リバーブのタイプはRoomが4種類のほか、EnvelopeやGateといった特殊なものや、アナログ・リバーブのような温かみのあるサウンドのClassicを搭載。ディレイ(Echo)も3種類あり、ピンポン・ディレイまで用意されています。センド・エフェクトはリバーブ系とディレイ系の同時使用が可能です。ギター・ソロを録音する際などは、モニターにディレイやリバーブがあった方が断然演奏しやすく、実際録音テストでも使ってみましたが、レイテンシーも無く広がりあるサウンドで演奏しやすかったです。このセクションにもプリセット機能がありますのでソースによって自分なりにプリセットを保存しておくと便利でしょう。またミキサー全体のスナップショットも8つまで保存することができます。GroupsセクションではMuteやSolo、Faderのグループをそれぞれ4つまで登録することができ、オン/オフもボタン一つで行えます。TotalMix FXはモニター・コントローラーとしての機能も充実しており、レコーディング時に便利なDim(一時的に音量を下げる機能)やトークバック、リッスンバックなどのさまざまな機能が搭載されています。CDプレーヤーなどの機器を接続しておけばセレクターにもなりますし、スピーカーも2系統切り替えが可能ですので、まさに本機一台あれば何も要らないでしょう。オプションのAdvanced Remote Controlという専用コントローラーを使えばさらに便利ですし、MIDIによるコントロールも可能なので拡張性も高いですね。 

ワード・クロック=SteadyClockを装備
iPadからもコントロール可能


RMEは内蔵ワード・クロックの性能にも定評があり、本機にもRMEのSteadyClockが搭載されています。筆者も以前いろいろな機器と比較をしたことがありますが、とても精度の高い高品質なクロックであり、専用機にも負けないクオリティがあります。基本的には内蔵クロックで十分ですが、外部クロック入力もありますので必要に応じて外部機器を接続することも可能です。サンプリング周波数は最大192kHzまで対応しており、内蔵エフェクトもDSPパワーの許す限り使うことができます。また、クラス・コンプライアント・モードにも対応しており、APPLE iPadに直接接続して使用可能です。一部のマルチアウトに対応しているiOS用DAWを使えば、ライブのときの同期音源なども本機があれば使用可能になります。 ざっと機能の紹介をしてきましたが、とても盛りだくさんの内容でまさにRMEの最新技術がギュッと詰まった魅力的な製品です。RMEはドライバーの更新頻度も細かく、Fireface 800も10年もサポートが続いていることを考えると将来的にも安心でしょう。これだけの機能とクオリティを考えると、とてもバランスのとれたコスト・パフォーマンスの高い製品だと思います。 
 
▲リア・パネルの端子類。左から電源、MIDI OUT/IN、FireWire(9ピン/6ピン)、Remote Control、ワード・クロック入出力(BNC)、USB2.0、ADAT入出力(オプティカル)×2系統、AES/EBU入出力(XLR)、ライン出力×8、ライン入力×8(以上TRSフォーン) ▲リア・パネルの端子類。左から電源、MIDI OUT/IN、FireWire(9ピン/6ピン)、Remote Control、ワード・クロック入出力(BNC)、USB2.0、ADAT入出力(オプティカル)×2系統、AES/EBU入出力(XLR)、ライン出力×8、ライン入力×8(以上TRSフォーン)
  (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年8月号より)撮影/川村容一 
RME
Fireface 802
オープン・プライス (市場予想価格:228,000円前後)
▪接続タイプ:FireWire 400またはUSB2.0 ▪オーディオ入出力:最大30イン/30アウト ▪最高ビット&レート:24ビット/192kHz ▪周波数特性:5Hz〜20.8kHz(44.1kHz時)、5Hz〜45.8kHz(96kHz時)、5Hz〜92kHz(192kHz時) ▪ゲイン・レンジ:54dB ▪チャンネル・セパレーション:110 dB以上 ▪外形寸法:483(W)×44(H)×242(D)mm ▪重量:3kg 【REQUIREMENTS】 ▪Mac:Mac OS X 10.6以降 ▪Windows:Windows Vista/7/8以降