「LYNX Aurora 16 TB」製品レビュー:ThunderboltオーディオI/O機能搭載のAD/DAコンバーター

LYNXAurora 16 TB
LYNXはオーディオ・インターフェースを作り続けて15年、プロ・クオリティのコンバーターを良心的な価格で提供し、本国アメリカではプロジェクト・スタジオやプライベート・スタジオを中心に絶大な人気を誇るブランドだ。今回レビューするのは、同社のAurora 16をThunderboltオーディオ・インターフェース化させるLSlot拡張カード“LT-TB”を搭載してアップグレードしたもの。ちなみに、拡張カードはほかにもAVID Pro Tools|HDシステムのI/Oとして使用できる“LT-HD”、ADAT接続を可能にする“LT-ADAT”、4台のAurora をカスケードして64chのMADI AD/DAコンバーター・システムを構築できる“LT-MADI”、16chのUSB2.0オーディオ・インターフェースにする“LT-USB”がラインナップされている。それでは実力の程を見ていこう。

最高24ビット/192kHzの
AD/DAコンバーターを搭載


本機は上記の通り、既発製品であるAD/DAコンバーターAurora 16にThunderboltの拡張カード、LT-TBを搭載する形で、オーディオ・インターフェースとしても機能するように拡張された製品だ。まずはAD/DAコンバーターとしての基本性能から確認していこう。最高24ビット/192kHzのAD/DAコンバーターを搭載し、アナログ入出力は16ch。TASCAMピン配列準拠(DA-88互換)の25ピンD-Subコネクターで接続でき、+4dBuと−10dBVのバランス/アンバランス仕様のライン・レベルが受けられる。デジタルの入出力はAES/EBU規格の16chで、こちらはYAMAHA配列(DM・2000互換)デジタルD-Subコネクターで接続。ダブルスピード・モードAES/EBUに対応しているため、シングル・ワイアーで192kHzの転送が可能となっており、高いサンプル・レートで使用する際にもチャンネル数が半減してしまうようなことは無い。そのほか、リア・パネルにはワード・クロック端子(BNC)とファームウェアの書き換えやリモート・コントロールに使うためのMIDI端子が装備されている。フロント・パネルはサンプル・レートやシンク・ソース、アナログ/デジタル・アウトの切り替えなどのみを配置したシンプルなレイアウトで、複雑なルーティングは、LT-TBのために新たに用意されたLynx Mixerソフト(無償提供)の画面で行う形となっている(画面①)。

▲画面① LT-TBのために新たに用意されたコントロール・ソフト、Lynx Mixerのメイン画面。各メーター、レベル・セッティング、ミュート、パンニングを設定できる。それぞれの出力チャンネルを選択すると、そこへ送られる入力信号と再生ストリームの選択が行える。またそれらのレベル、パンニングを個別に調整、ミックスして出力させることが可能だ(録音チャンネルのニアゼロ・レイテンシー・モニタリングのアサインも行うことができる) ▲画面① LT-TBのために新たに用意されたコントロール・ソフト、Lynx Mixerのメイン画面。各メーター、レベル・セッティング、ミュート、パンニングを設定できる。それぞれの出力チャンネルを選択すると、そこへ送られる入力信号と再生ストリームの選択が行える。またそれらのレベル、パンニングを個別に調整、ミックスして出力させることが可能だ(録音チャンネルのニアゼロ・レイテンシー・モニタリングのアサインも行うことができる)
 Lynx Mixerでは、各メーター、レベル、ミュート、パンニングなどの細かい設定を画面上で行うことが可能。もちろん、ニアゼロ・レイテンシーでのモニタリングにも対応している。 

冷却ファンを排除した静音設計
最大32イン/32アウトを実現


入出力をD-Subでまとめて1Uラック・サイズ、5.5kgという軽量省スペースを実現しており、また冷却ファンを排除した静音設計も特徴の一つである。電源回路にはトロイダルコアのトランスフォーマーをぜいたくに採用しているが、こちらは出荷国ごとに100V、115V、230Vの3つの違う電圧のモデルがあり、日本国内向けには100Vのものが出荷されている。Thunderboltが搭載されているコンピューターであれば、Windows/Mac共に使用が可能で、WindowsはVista以降のWDM/DirectSound/ASIO 2に対応する。またMacはOS X 10.8以降のCore Audioに対応している。単体のAD/DAコンバーターとして使用する場合は16chのモデルだが、Thunderboltオプション・カード搭載時には、デジタル/アナログすべての入出力をコンピューターへルーティングすることが可能となっているので、1台で32ch入出力を扱うことができる。Thunderboltは1つのポートから6台までデイジー・チェインが行えるので、本機を6台接続すると、アナログ96ch、デジタル96chの合計192chまで拡張することができる。6つのThunderbolt端子を持つ現行のMac Proでは、なんと1,152chの同時使用が可能である(現実的に、ここまでのチャンネル数を必要とするケースは無いだろうが)。もちろん、Thunderbolt端子にはディスプレイやハード・ディスクなど、Aurora 16以外のデバイスを接続することもできる。後ろにつなぐ機材がバス・パワーを必要とする場合には、別売りのACアダプターを接続することで対応する。 

音色は重心が低く中低域寄り
スムーズでまろやかな音質という印象


それではオーディオ・インターフェースとしての実力をチェックしてみよう。実は筆者は、LT-HDカードをインストールしたAuroraシリーズを何度かAVID 192 I/Oの代わりに使用した経験があり、音色にはなじみがあった。192 I/Oに代わるセカンド・チョイスのI/Oとして導入するスタジオが多いことを見ても、その実力を推し量ることができるだろう。このクラスのオーディオ・インターフェースをケーブル1本で使えるのは驚きだ。まずはDAコンバーターの出音をチェックしてみよう。コンシューマー機から本機の数倍の価格のハイエンド機まで、複数のDA機器を用意し比較試聴してみた。10〜20万の価格帯のモデルは、必要とする周波数帯は出ていても、高域が頭打ちになって天井が低いような印象を受けるのだが、さすがに本機クラスになると高域のすそ野が広く、不自然さが感じられない。音色は重心が低く中低域寄りで、スムーズで聴き疲れのしない、まろやかな音質という印象だ。デジタル回路自体はほとんど変わらないはずだが、やはり電気回路にトロイダル・トランスを採用するなど、アナログ部分にコストを割いただけの足回りの差が出てくるのだろう。音色が硬いと悩んでいるユーザーは、本機にアップグレードすることで、アナログ的な質感を手に入れることができると思う。ハイエンド機と比べるともちろん違いはあったが、質の差というよりはキャラクターの差という感じであった。次にADコンバーター部をチェックしてみよう。APPLE MacBook Air 13インチとPro Tools 11の組み合わせで、NEUMANN U87→NEVE 1290→UREI 1176LNという接続順で、ボーカルとアコースティック・ギターを録音してみた。まず驚いたのが静かさ! Pro Tools HDのI/Oや、8ch以上の入力があるハイエンドAD/DAは、ファンが付いているものがほとんどで、ブースなどでセパレーションが取れている環境ではないとノイズがかぶってきてしまう。その点、ファンレス設計の本機は完全に無音で、同じ部屋に置いて録音しても全く問題はなかった。ただし、そのため結構な発熱があるので、出先で本機の上にノート・パソコンを置いて使うのはやめておいた方が無難だろう。Lynx Mixerアプリケーションでは、ミキサーのほかにサンプル・レートやシンク・ソースなどの切り替え、状況確認が一つの画面で確認でき、迅速に作業が進んだ。ビット・デプスの切り替えが無いのを不思議に思ったが、本機は常に24ビットで動作する仕様になっているようだ。肝心の録り音はD/Aの印象と近く、中域に芯のある太い音でアナログ的な旨味を感じさせる。柔らかくナチュラルな音にまとまってくるので、アコースティックな録音には特に適しているだろう。アコースティック・ギターの録音では、マイクの距離で奥行きがしっかり見えるため、スピーカーにぺたっと張り付いたような音にならず、繊細なニュアンスまで逃さず表現できた。とにかく痛さが出てこないので、最近のマイクとのマッチングも良いと思う。 本機は特にローコストで自宅スタジオのアップグレードをしたい方、ライブやリハーサル・スタジオなどでラップトップを持ち込み、スタジオ並みの音質で録音したい方にオススメしたい。Thunderbolt接続でドラムのパラ録りなど多チャンネルを扱う際に、レイテンシー無しのモニターを返そうと思うと、安価なオーディオ・インターフェースかProTools|HDXを拡張シャーシで使うか、外部ミキサーを使うかしか選択肢が無いような状況で、その間をつなぐかゆいところに手が届いた製品だと思う。別売りの拡張カードを装着すれば、Pro Tools|HDシステムのオーディオ・インターフェースとしても使えるので、Pro Toolsを既に導入している方は、I/Oの拡張と持ち出しシステムを同時に手に入れることができる。非常にコスト・パフォーマンスが高い選択だと言えるのではないだろうか。ノート・パソコンとセットなら、プロ・クオリティのMTRが1人で持ち運べるサイズになるというのは、何しろ驚きだ! 
▲リア・パネルの端子類。左上にMIDI IN/OUT、その下にアナログ・イン/アウト1-8/9-16(D-Sub25ピン)、デジタル・イン/アウト(D-Sub25ピン)が並ぶ。右にはThunderbolt×2、DC IN、ワード・クロック入出力(BNC)、電源インレット ▲リア・パネルの端子類。左上にMIDI IN/OUT、その下にアナログ・イン/アウト1-8/9-16(D-Sub25ピン)、デジタル・イン/アウト(D-Sub25ピン)が並ぶ。右にはThunderbolt×2、DC IN、ワード・クロック入出力(BNC)、電源インレット
 (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年8月号より)撮影/川村容一 
LYNX
Aurora 16 TB
350,000円
▪接続タイプ:Thunderbolt ▪オーディオ入出力:16イン/16アウト(アナログI/O)、16イン/16アウト(AES/EBU) ▪AD/DAコンバーター:24ビット、192kHz ▪周波数特性:20Hz〜20kHz、+0/−0.1dB ▪入力インピーダンス:24kΩ(バランス時)、12kΩ(アンバランス時) ▪出力インピーダンス:100Ω(バランス時)、50Ω(アンバランス時) ▪ダイナミック・レンジ:117dB(A-weighted) ▪チャンネル・クロストーク:最大−120dB@1kHz/− 1dBFS ▪入力THD+N:−108dB@−1dBFS、−104dB@−6dBFS(@1kHz/22H〜22kHzバンド範囲) ▪出力THD+N:−107dB@−1dBFS、−106dB@−6dBFS(@1kHz/22Hz〜22kHzバンド範囲) ▪外形寸法:480(W)×44(H)×228(D)mm ▪重量:5.5kg 【REQUIREMENTS】 ▪Mac:Mac OS X 10.8以降 ▪Windows:Windows Vista/7/8以降