早乙女正雄がLEWITTでバンドを録る!

低域が豊かで“プロの道具”として好感が持てます


大橋トリオなどの作品におけるクリスピーな録り音に定評のある早乙女正雄氏。今回編集部は、プライベートな環境での録音を含め豊富な経験を誇る氏に、LEWITTのマイクを使ったバンド・レコーディングを依頼。機材に対する独自の審美眼を持つ早乙女氏に、同社のマイクはどのように映ったのだろう?Photo:Hiroki Obara Suport:東京スクールオブミュージック専門学校

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全帯域において密度が高いLCT940


録音場所はSSL Duality SEを備えた東京スクールオブミュージック専門学校のスタジオ。一通り録音を終えた早乙女氏は、今回のレコーディングのコンセプトについて次のように説明する。
「マイクプリはすべてDuality SEのもの。今回は企画的にマイクの音を聴いてほしかったので、マイキングを工夫し、極力EQはかけないようにしました。またコンプも、バンドが演奏しやすいよう軽く当てた程度。いわば最小限のトリートメントでAVID Pro Tools HD 11に録りました」
LEWITTのマイクを使ってみた印象については「どの機種もほかのメーカーより低域が豊かに出ます。僕はそうしたマイクをずっと探していましたし、好きなキャラクターでした」と語る。
「最近のマイクはどれも高域に偏った音質設計で、実際に使う場合はEQで低域を持ち上げなければなりませんでした。その点、LEWITTは絞れば良いだけなので、基本的な音作りとして無理がない。かと言って高域が無いわけではなく、必要な周波数帯域はちゃんとあります」
ボーカルには真空管/FET回路の音を電源部のノブでブレンドできるLCT940を使用した。
「いろいろと混ぜ具合を試してみましたが、FETに振り切ったときが低域にタイトな押し出し感があり、今回の楽曲には合っているように感じました。ブレンドを真空管側に振ると低域が柔らかくなるので、バラードはこちらの方が合うでしょう。ビンテージのコンデンサー・マイクの中にもタイトな低域のものは何種類かあるのですが、逆にハイエンドが足りないことが多い。その点LCT940は高域もちゃんと拾えており、バランスが良いです。全周波数帯域において密度が高いので、EQの引っ掛かりもいい。ボーカリストが声を張っても音がひずむこともなく、スタジオで使いやすいと思います。あとグリルやサスペンションの作りがしっかりしているところも、エンジニアとして好感が持てましたね」14_Lewitt-LCT940-01_blackenedLCT940
オープン・プライス(市場予想価格:162,037円前後)
LCTシリーズのフラッグシップ機。真空管とFETの両回路が組み込まれており、両者のサウンドを自由にブレンドできる
■形式:コンデンサー(真空管&FET)
■指向性:9段階切り替え(無〜単一ブロード〜単一〜超〜双)
■周波数特性:20Hz〜20kHz
■最大SPL(THD 0.5%):真空管/140dB(PADオフ)/158dB(−18dB PAD)、FET/143dB(PADオフ)/161dB(−18dB PAD)
■外形寸法:60(W)×192(H)×46(D)mm
■重量:662g
17_MG_1091 ▲LCT940を使ったJaeleeのボーカル・レコーディングの模様。早乙女氏は“サスペンションやグリルの作りが頑丈で、プロの道具として好感が持てる”と語る
18_MG_1079 ▲LCT940の電源部。左のAMPLIFICATIONノブでは真空管回路(TUBE)とFET回路を通った音を27ステップでブレンドできるが、今回はスピード感のある曲調だったため、早乙女氏はFET側に振り切って使用
アコースティック・ギターはLCT550で収音したが、「初めは通常のコンデンサー・マイクと同じ感覚で立ててみたのですが、低域が太く出過ぎる印象でした」と語る。
「そこで少々距離を離してみたところバランスが良くなり、倍音の感じがすごく奇麗に出てピッキング・ノイズも気にならなくなりました。レンジが広く低域もよく拾い、S/Nも優秀なので、楽器との距離感に気をつけてマイキングするとよいと思います。LCT940同様作りも頑丈なので、プライベート・スタジオでのボーカル録りにも適しているでしょう」15_LEWITT_LCT_550_Front_brightenedLCT550
オープン・プライス(市場予想価格:76,852円前後)
エレクトロニクス部でのセルフ・ノイズ 0dB-Aという驚異的な数値を達成したコンデンサー・マイクのニュー・モデル
■形式:コンデンサー
■指向性:単一
■周波数特性:20Hz〜20kHz
■最大SPL(THD 0.5%):143dB(PADオフ)、149dB(−6dB PAD)、155dB(−12
dB PAD)
■外形寸法:52(W)×158(H)×36(D)mm
■重量:425g
19_MG_0954 ▲LCT550を使ったアコースティック・ギターの録音。サウンド・ホールを狙っているが、LCT550の感度が高いため、普段よりもやや離してマイキングしたという
 

DTP Beat Kit Pro 7は幅広い音楽に対応


ドラムにはDTP Beat Kit Pro 7を使用。まずバスドラムに立てたDTP640REXについては、「デュアル構造は便利だし音も良いです。ダイナミック部だけでも十分に使える音色」と語る。
「ただマイキングはLCT550と同様、僕の普段のやり方とは若干違います。いつもはバス・ドラムのホール付近にマイクをセットするのですが、そうすると低域が出過ぎたので、今回はやや奥めに突っ込むアタック重視のセッティングにして、バランスを取りました。メインの音作りはダイナミック部で行い、アタックや距離感をコンデンサー部で演出するイメージです。Duality SEのフェーダーで言うと、コンデンサー部がダイナミック部の半分くらいのボリューム。もっと柔らかいジャズ・ドラムなどの場合は、コンデンサー部をメインにしても面白いかもしれません」16_Lewitt-DTP-Beat-Kit-Pro-7DTP Beat Kit Pro 7
オープン・プライス(市場予想価格:134,259円前後)
DTP640REXにDTP340TT×3、LCT340×2、MTP440DM×1を加えたドラム/パーカッション用マイクのセット
22_MG_0998 ▲DTP640REXはローエンドまで拾うため、バスドラムの中に突っ込み気味にしたアタック重視のマイキングで収音
タムとスネアに立てたDTP340TTも「音の印象はすごく良かったです」と続ける。
「このマイクも低域が豊かで、バスドラムにも合うでしょう。工夫すれば、DTP340TTだけでドラムが録れると思います。MTP440DMも良かったのですが、押し出し感という意味でやや物足りなかったので、スネアの補強に回しました。あとオーバーヘッドに立てたコンデンサーLCT340もすごく良かったです。このマイクも低域をよく拾うので、ストリングスを録ると面白いのではないでしょうか。レンジが広く、録り音に奥行き感があります。シンバルの音も耳に痛くなく素直。これは中低域をきちんと拾えている証拠です。このあたりの帯域が薄いマイクの場合、シンバルを強くたたいた瞬間にドラム全体の音像が崩れてしまうことがありますが、LCT340は倍音もよく出ており感心しました。この性能とキャラクターであれば、ピアノのオフマイクにも良いかもしれませんね」
20_MG_0981 ▲ドラムの収音にはDTP Beat Kit Pro 7を使用。バスドラムにはDTP640REX、スネアの表、ハイタム、フロアタムにDTP340TT、スネアの裏にMTP440DM、オーバーヘッドにLCT340×2をセット
早乙女氏は「LEWITTのマイクには、ほかに無い“野太い”ブランド・カラーがあります。ジャズやストリングス絡みのセッションが多い人には、特に合うのではないでしょうか」と語る。
「DTP Beat Kit Pro 7はどんなジャンルの音楽にも合うと思います。コスト・パフォーマンスはすごく高い。DTP640REXはダイナミック部とコンデンサー部のブレンド具合を本体で調整し、混ざった状態で出力できる仕様のものがあれば、PAの現場でも使いやすいと感じました。あと今回は試せませんでしたが、LCT940を無指向性にしてアンビエンス・マイクとして使ってみたいです。無指向性で音が太いラージ・ダイアフラムの縦型マイクは、なかなか無いので」
また早乙女氏は外観に関しても「変にポップなカラー展開をしておらず、かと言って、ほかのメーカーのマイクと似ているわけでもない。プロのエンジニアが使う道具らしい、良い仕上げだと思います。何より頑丈ですしね」と語る。
「LEWITTは新興ブランドとして一歩抜きん出ているように感じます。1機種だけ良いマイクを出しているメーカーはほかにもありますが、LEWITTほどバリエーションがそろっているところは珍しい。基本の音色キャラクターが好きなら、複数本買っても損は無いでしょう」 

録音したファイル(24ビット/48kHz WAV)のダウンロード


ボーカル(LCT940:FET)
アコースティック・ギター(LCT550)
キック(DTP640REX)
スネア(DTP340TT+MTP440DM)
オーバーヘッド(LCT340×2) 早乙女正雄
【Profile】フリーランスで活躍するエンジニア。大橋トリオ、Fried Pride、RADIQなど個性的なアーティストの録音/ミックスに加え、エレクトロニクスと生音が融合する映画音楽などで手腕を発揮しているJaelee Bro
【Profile】ボーカルのJaeleeを中心に、藤岡悠志(g)、Shuhei(ac.g)、Masato(b)、Hiro(ds)の5人で2014年に結成。ライブ・ハウスをメインに活動中 https://www.facebook.com/YourJaelee 

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