「LEWITT LCT 940」製品レビュー:FETと真空管の両サウンドをブレンドできるコンデンサー・マイク

LEWITTLCT940
2009年ウィーンにて産声を上げたマイク・メーカー、LEWITT。レコーディングからライブまでを網羅する充実したラインナップを送り出している。今回は同社のフラッグシップであるLCT940を紹介。真空管とFETの両回路が組み込まれており、両者のサウンドを自由にブレンドできるというユニークなマイクだ。

TUBE/FETは27段階でブレンド可能
詳細設定は電源ユニットで行う


外観でまず目が行くのは、やはり内部の真空管が見えるウィンドウであろう。これは電磁干渉を抑制する特殊コーティングがなされているそうで、その中に収められた真空管は電源が投入されるとほんのりとオレンジ色に輝き、独特なムードを作り上げる。それを包む8角形のボディはソリッド・ダイキャストで非常にガッチリとした作りだ。別途用意された電源ユニットも同様のメタル・ハウジングで、同梱のショックマウントも含め全体的にしっかりした作りという印象だ。電源ユニットには2つのロータリー・ノブと2つのスイッチを備える。左側にあるノブはTUBE(真空管)/FETサウンドを27ステップでブレンド可能で、1ステップ当たりほぼ4%の比率でブレンド具合が変化する。右のノブは指向性切り替え用で、無指向から双指向まで9パターンを用意する。2つのスイッチはそれぞれアッテネーションのPAD用とハイパス・フィルター用。さらに本機には、過大入力があったかどうかをノブ回りのインジケーターが光って知らせる“クリッピング・ヒストリー機能”と、過大入力に対して自動的にPADを切り替える“オートマティック・アッテネーション機能”も備わっている。 

張りと温かみが出色のTUBEと
シャキッと明るいキャラクターのFET


サウンド・チェックを行うべく、アコギにLCT940と比較用のAKG C414TLIIを立て、API 512Cにつないでみた。まずはTUBE100%状態から。ゲインはLCT940の方が3dBほど低め。真空管でありながらS/Nは非常に良く、一聴して感じるのはその温かみと張りだ。音の太さ、芯の強さを持ちつつ嫌なピークが無く伸びやかなので、とてもナチュラルに聴こえる。低域は210Hz辺りの太さが特徴的だが、決してブーミーになり過ぎずレスポンスがとても良い。中低域は400Hz辺りの“実が詰まっている感じ”が、原音の忠実な再現に貢献している。中域は1.5kHzのしっかり感が芯の強さに通じているのであろう。ここからハイエンドまで自然に伸びており、ギラツキを感じること無くクリア。音の立ち上がりも良く、洗練された現代的な真空管マイクという印象だ。今度はFET100%状態で試聴すると、全く別マイクのように音色が変わり、典型的なFETサウンドに思わずニンマリしてしまった。その音色傾向はソリッド&シャープ。TUBE時と比べると、低域が締まりつつ450Hz辺りを幅広いQで少しカットしたようにスッキリしており、中域の張りも若干おとなしめに聴こえる。そのせいか5〜7kHz辺りのシャキッとした部分が強調されて全体として明るい印象。とはいえ中域の芯の強さや伸びやかでクリアな印象はTUBE時と共通しており、これがLCT940が根底に持つサウンド・キャラクターなのだと感じた。さらに女性ボーカルでチェック。こちらもTUBE/FETのさまざまなブレンド具合で試してみたが、ギラギラ&チリチリしたところが無く子音の収まりも奇麗。声の芯とそのキャラクターをしっかりとらえながらその声&その曲に合ったブレンド具合を探れるのは興味深かった。こうした特徴から、男女ボーカルやサックス/ピアノ/ギターなど生楽器との相性は非常に良いと感じた。1本のマイクでTUBE/FETサウンドを自由にブレンドするという発想を見事に具現化したLCT940。そのアイディア、技術力、センスを持つLEWITTは今後も注目のメーカーだ。 
▲電源ユニットのフロント・パネルには、左から-6/-12/-18dBが選べるPADスイッチ、真空管回路とFET回路をブレンドするためのAMPLIFICATIONノブ、9段階の指向性ノブ、40/150/300Hzを選択可能なハイパス・フィルター・スイッチを備える。リアには出力端子(通常の3ピンXLR)とマイクからの入力端子(11ピンXLR)を用意 ▲電源ユニットのフロント・パネルには、左から-6/-12/-18dBが選べるPADスイッチ、真空管回路とFET回路をブレンドするためのAMPLIFICATIONノブ、9段階の指向性ノブ、40/150/300Hzを選択可能なハイパス・フィルター・スイッチを備える。リアには出力端子(通常の3ピンXLR)とマイクからの入力端子(11ピンXLR)を用意
  (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年6月号より)
LEWITT
LCT940
オープン・プライス (市場予想価格:162,037円前後)
▪形式:コンデンサー(真空管&FET) ▪指向性:9段階切り替え(無~単一ブロード~単一~超~双) ▪周波数特性:20Hz~20kHz ▪感度:単一指向/23mV/Pa(-33dBV)、無指向/20mV/Pa (-34dBV)、双指向/23mV/Pa(-33dBV) ▪最大SPL(THD 0.5%):真空管/140dB(PAD オフ)/158dB(-18dB PAD)、FET/143dB(P ADオフ)/161dB(-18dB PAD) ▪外形寸法:60(W)×192(H)×46(D)mm(本体)、250(W)×70(H)×150(D)mm(電源ユニット) ▪重量:662g(本体)、1.93kg(電源ユニット)