「PRESONUS RC500」製品レビュー:新開発のソリッド・ステート・マイクプリを備えるチャンネル・ストリップ

PRESONUSRC500
これまでADL600やADL700など真空管アウトボードに力を入れてきたPRESONUSが、従来のノウハウと最新のデザインを融合してクラシックかつハイエンドなサウンドを再現したというチャンネル・ストリップ、RC500を発表しました。先述したチャンネル・ストリップADL700用に開発されたカスタム・デザインのFETコンプレッサーとセミパラメトリックEQを、新しくデザインしたソリッド・ステート・クラスAプリアンプと組み合わせた一台です。早速チェックしましょう。

マイクプリのゲインは最大+70dB
EQのミッドとハイは重複帯域も選べる


まずは入出力から見ていきます。入力はマイク/ラインそれぞれにXLRと、ギターなどを直接挿せるHi-Z対応フォーンを用意。出力はXLRとフォーンが用意され、外部機器へのセンド/リターン端子(マイクプリ部のゲイン後にインサートされます)もフォーンでスタンバイしています。ディスクリート・トランジスターを備えたクラスAマイクプリのゲイン・レンジは+20dB〜+70dBとローゲインのマイクにも十分対応。さらにフェイズ、ファンタム電源、80Hzローカット(12dB/oct)、−20dB PADスイッチなどの基本装備も十分です。マイクプリ部の次に信号はコンプ部へと向かいます。ADL700から移植され、真空管サウンドをエミュレートしたFETコンプレッサー部は、アタック/リリース/スレッショルド・ツマミおよびバイパス・スイッチを搭載。レシオは3:1固定です。真空管サウンドを再現しながらも反応の速いFETコントロールにより、現代的なサウンドにも対応できるよう仕上がっています。続いてEQ部です。本機には3バンド・セミパラメトリックEQが搭載されており、既に高評価を得ているADL700の4バンド・セミパラメトリックEQと同じ回路を採用。3バンドにゲイン(±16dB)、バリアブルの周波数、固定Q(0.5)が用意され、ミッドとハイは帯域の重複(オーバーラップ)ができ、シェルビングとピークの切り替えも可能です。なお、このEQ部にもバイパス・スイッチが付いています。 

中域の情報量が多いマイクプリ
真空管的な効きのコンプ・サウンド


実際にRC500を試してみましょう。まずボーカル・マイクをつないでチェック。ゲインを上げていくと中域に“実”の詰まった音像が立ち上がってきます。一般的な真空管プリアンプ以上にガッツがある感じで好印象。S/Nも良い……と感じた瞬間、“あ、これ真空管じゃないんだ”と思い出したくらいです。次にちょっと音を明るくしたいと思いEQ部へ。2kHzのちょっと上をブーストしていくと、イメージ通りに自然に上がってきてくれます。このEQも、いじっているとどこかしら僕が歌録りのときに多用する真空管EQをほうふつさせるところがありました。コンプ後の補正などちょっとした用途に最適なシンプルなEQといった印象で、ハイとミッドでオーバーラップさせた帯域を攻めていくと奥の深い音作りができそうだと思いました。次にコンプレッサーをかけていきます。レシオは3:1の固定なので、“録りのときに1〜2dBピークをさっと取り除く想定で作られているのかなぁ”と思いながらスレッショルドを下げていくと反応がとても速い……と感じた瞬間、“あ、これ真空管じゃないんだ”と思い出したくらい。真空管サウンドのエミュレートはかなり成功していると思います。アタックを12時の位置、リリース最速というセッティングにしてみると、やはり反応が速い。歌の細かなダイナミクスにもかなりの速さでゲイン・リダクションの針が追従して、奇麗にピークを取り除くこともできるし、アタック遅め&リリース遅めでフワッとピークをカットするような使い方もできます。この辺りは真空管的なサウンドと現代的なスピード感を考えて設計したのだろうと思いました。またもう少し掘り下げた使い方として、外部のコンプをインサートして、緩めに外部でコンプレッションしてから内部コンプとの2段がけなどを行うと、より幅広いソースに対応できそうです。また入力はラインにも対応しているので、録音だけでなくミックス時のアウトボードとしても力を発揮するでしょう。特に、あまりうまく録れなかったボーカルやアコギをもう一度RC500を通してコンプを当て直し、EQで補正という使い方はバッチリだと思います。実際に手掛けているプロジェクトのミックスにも何曲かボーカルのインサートで使わせてもらいました。特に良かったのはEQ部。真空管系のEQだとナチュラルでゲインを上げていってもサラサラとしていますが、RC500のEQは飴細工を延ばしていくみたいな感覚で中身はしっかりしながら、きっちりと上がっていくイメージです。僕がアシスタントを始めたとき、某メーカーの真空管マイクプリとチャンネル・ストリップを1台持っていろんなところに声を録りにいきました。当時はあまりよく分からないながら、マイキングとチャンネル・ストリップというシンプルな選択肢の中で非常に多くのことを学びました。そのときの音は今聴いても、派手さこそないものの、中域がしっかりしていて普遍的に良い音だなと感じます。RC500はそのときと同じ気持ちを思い起こさせてくれました。特に、オーディオI/O付属のマイクプリしか使ったことの無い人のネクスト・ステップとして興味深い一台と言えるでしょう。
 
▲リア・パネル。中央から右に向かってライン・アウト(XLR、フォーン)、インサート・リターン&センド(フォーン)、ライン・イン(XLR)、マイク・イン(XLR)を備える ▲リア・パネル。中央から右に向かってライン・アウト(XLR、フォーン)、インサート・リターン&センド(フォーン)、ライン・イン(XLR)、マイク・イン(XLR)を備える
  (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年6月号より)
PRESONUS
RC500
オープン・プライス (市場予想価格:90,000円前後)
▪周波数特性:10Hz~25kHz(±1dB) ▪入力インピーダンス:1.5kΩ(マイク)/1kΩ(ライン)/1MΩ(インストゥルメント) ▪ゲイン幅(マイク、PADオフ):+20dB~+70dB ▪最大出力レベル:+24dBu ▪出力インピーダンス:50Ω ▪外形寸法:482.6 (W)×43.7(H)×195.3(D)mm ▪重量:3.26kg