「AKG K712 Pro」製品レビュー:広範な周波数特性を誇るオープン・エア型ヘッドフォン最上位機種

AKGK712 Pro
AKG、通称“アカゲ”はオーストリアのウィーンで1947年に創設された世界的音響機器メーカー。“音楽の都”の空気で育まれ、自然でいて圧倒的なクオリティを誇る歴代のマイクロフォンやヘッドフォンは、我々プロのエンジニアにとって欠かすことのできないアイテムの一つとなっている。現に筆者も同社のK240Mを長年愛用し続けているが、臨場感など空間再現能力にとても長けていて、著名作曲家を数多く輩出した伝統のある町ならではの空気感や豊かな音楽性がそこに存在している。さて、そんな音楽の都から生み出された新製品、AKG K712 Proはどのようなパフォーマンスを示すのか、その魅力に迫っていこう。

高級感漂うハウジングで
上質で肌触りの良い装着感


本製品は同社のK700シリーズの最上位機種に位置づけられており、2005年に発売され高い評価と人気を得てきたK701(生産完了)の後継機種に当たる。このKシリーズ独特の大型円形ハウジングは初代のK701からすべて共通で、何世代も形を変えずにリリースし続けているということから、いかにこのシリーズがユーザーに認められているかが分かる。初めて手にした印象は、ハウジングが思ったより大きかったことと、それに反して見た目ほどの重さは感じられなかったことだ。ブラックを基調にオレンジのラインが印象的で高級感も漂う。柔軟性もまずまずで、低反発のベロア素材でできたイア・パッドが上質な肌触りとともにすき間なくフィットしてくれる。側圧も程良く、耳を少しも押さえずすっぽり覆うように装着できるため、長時間の作業でも耳が痛くなることはない。また、セルフ・アジャストのヘッド・バンドが絶妙に本体を支えてくれるので、おおよそどんな人でもストレスのない装着感を得ることができるだろう。構造はオープン・エア型で再生周波数帯域は10Hz〜39.8kHzととても広い。オープン・エア型はハウジング部分を網などで処理し、鳴っている音を外へ解放するのだが、そのため歌のダビングなどのマイク録音には向かないが、臨場感に優れ高級機種に多いのが特徴である。インピーダンスは62Ω。端子はステレオ・ミニなので、コンピューターのオーディオ出力などに直接つないでのモニタリングも可能だ。ケーブルは着脱式で、3mのストレート・ケーブルと5mのカール・コードが付属。本体質量は298gと若干重めの数値だが、装着している感じではそこまでの重みは感じられない。またキャリング・ポーチが付属されているのは、我々のように持ち運んで使用する人にはとてもうれしいことだ。 

定位はクッキリと分かれており
バランスの良いフラットな印象


では音の方をレポートしていこう。まずは定番のスティーリー・ダン『ガウチョ』を聴いていく。とてもスッキリした音で、何より臨場感が素晴らしい! 定位もクッキリ分かれていてプレイヤーが“そこで演奏している感じ”が再現されている。色付けはほとんどなくフラットな印象で、最初はもう少し低音が欲しいかな?とも思ったが、聴き慣れていくうちに膨らみ過ぎない100Hz〜200Hzと、程良く存在している重低音に好感を持てるようになった。むしろ誇張されていない分、レンジ全体をバランスよく見渡すことができる。高域の伸びは本当にキレイで、“清涼感のあるサウンド”にふさわしい音を奏でてくれる。交響曲などクラシック音源の再生能力もとても高く、繊細なアーティキュレーションもさも得意げに再現。ピアニッシモからフォルテッシモへ一気に向かう迫力も満点だ。弦楽器のエッジ、金管のバリっとしたところなど、10kHzを超える高域も自然で、混沌としがちな木管やビオラ、チェロなどが膨らんでくる中低域も聴きやすく、心地良い。コンサート・ホールにいるかのような気分にさせてくれ、チェックと言いながらつい16分間もマーラーに聴き入ってしまった。激しいロック音源には向かないかというと決してそうではなく、コンプのかかり具合やキックとベースの混じり合いなどすごくよく見え、清涼でありながら力強い音を奏でてくれる。ミックス・ダウンでも使用してみたが、いつも使っているヘッドフォンより細部がよく見え音作りがとてもしやすかった。また空間や定位がよく分かるので、スピーカーで大きな音を出せない環境の人や、密閉型ヘッドフォンに慣れてしまった方々にもぜひこの音を体感していただきたい。 スニング・ユースからプロフェッショナルの音作りに至るまで最高のパフォーマスが期待できるこのAKG K712 Pro。“サウンドのあるがままを再現する”……そこが本機の最大の魅力である。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年12月号より)
AKG
K712 Pro
オープン・プライス (市場予想価格:43,000円前後)
▪形式:オープン・エア型 ▪周波数特性:10Hz〜39.8kHz ▪インピーダンス:62Ω ▪音圧レベル:200dB ▪端子:ステレオ・ミニ(フォーン変換アダプター付属) ▪ケーブル:3mストレート・ケーブル、5mカール・コード、脱着式、片出し ▪重量:298g