「ZYNAPTIQ Pitchmap 1.5」製品レビュー:サウンドのピッチをリアルタイムで処理できるオーディオ編集ソフト

ZYNAPTIQPitchmap 1.5
ドイツを拠点とするZYNAPTIQからUnveil、Unfilter、Unchirp、そしてPitchmapがリリース。どれも聞き慣れない名前でありながら極めて革新的な技術を搭載し、これまでになかった処理を実現するソフトウェアばかりです。その中でもPitchmapは2ミックスのオーディオから個々の音を抽出し、音程はおろかハーモニーまでリアルタイムに操作できるという前代未聞のプラグインです。早速チェックしていきましょう。

2ミックスの音声を分離/コントロール
リアルタイム処理で動作


PitchmapにはMAP(ミックスシグナル・オーディオ・プロセッシング)と呼ばれる、人工知能用途にも採用されている知覚モデリングとパターン認知技術が搭載されています。ごく簡単に言ってしまえば、モノラル、ステレオ、和音、バンド、打ち込み、ドラム、ギター、ボーカルなど音声要素の種類を問わず、入力されたオーディオを解析、分類するという技術です。これにより2ミックスのオーディオの中にひとまとまりにされているあらゆる音声を分離し、コントロールができるようになるわけです。その中でも音程に特化したプラグインという位置づけになります。冒頭から小難しい言葉をたくさん並べましたので、これまでに無いかなり高度な技術を駆使できるプラグインであることは分かっていただけたと思います。しかしこれに反して使い方はとても簡単で、DAW上のオーディオに対し通常のプラグイン・エフェクトと同じようにインサートし再生するだけ。加えてリアルタイム処理なので、これまでこういったピッチ触り系のプラグインでお約束の“読み込み”(対象オーディオ解析)時間は必要ありません。スゴい!プラグイン画面の上部にピアノロールと波形表示領域があります。横軸は入力されたオーディオの音程を示し、右側にピアノロールが表示されています。オーディオを再生すると、各音程として認識されたオーディオ成分が下から上に流れるように表示されます。縦軸なのが新鮮ですね。ここで波形として表示されるのはあくまで音程として分類されたオーディオ成分であって、通常のDAWで見るようなキックやスネアなどのPCM波形とは異なります。縦軸に配置されたピアノ・ロールは、各音程の元の音をどの程度ピッチ変更して出力するかを表しています。仕分けされた12段階の音程(=音声要素)を、どのように出力するかを設定(=マッピング)できるのです。例えばC音をE音に矯正して出力することも可能で、任意の音程をミュートすることもできます。勘の良い方はお分かりと思いますが、ここでリディアン、ペンタトニックなどのスケールを指定することも可能で、それらはプリセットとしても用意されています。 

5つの操作子で音声を自由に加工
MIDIキーボードから自在に変更可能


プラグイン画面の下部にはZYNAPTIQ特有の操作素子が5つ並びます。項目はTHRESHOLD(感度)、FEEL(矯正の強度)、PURIFY(ノイズ成分の量)、GLIDE(ポルタメント)、ELECTRIFY(エレクトリックな色付け)があり、入力された音声の種類、性質によって微妙に変化させるべき項目が適切に配されています。聞き慣れない言葉もありますが、初期設定値からしばらく触っていれば大体効果を把握できるようになっています。例えばPURIFYのつまみを右に回すと段々原音の質感が失われ、代わりに原音のトランジェントがシンセのオシレーターっぽい音になります。ELECTRIFYでは、ボコーダーで処理したようなケロケロ感を付加し、シンセサイザーで作ったような音にできます。また設定項目にLIVE MIDIがあり、MIDIキーボードで、リアルタイムに“演奏”することでコントロールが可能です。試しに市販されているEDM制作用のWAVファイル集からシンセ・バッキングを選び、その一部を自分の好きなコード進行で演奏してみると、バッキングのリズム的な要素を保ったまま、レイテンシーもほとんどなく、ハーモニーを自在に変更できました。これだけでもかなり斬新です。次に最近手掛けたリミックスの中から、ボーカル入りの生演奏を中心とした楽曲の2ミックス素材で試してみました。搭載された知覚モデリング技術は特に2ミックス内のボーカルに対して極めて効果的なようで、まずソースとなるメロディ・ラインをピッチマップ(選択)し、ハーモニーを加えてみたら、ボーカルの繊細な質感やニュアンスを損なうことなく、あくまで本人が歌っている印象をキープしたまま音程を変えることができました。今回は2つのケースを検証しましたが、いずれも入力音に対し知覚分類を行った上での処理なので原音とは異なるものの、音声を音楽として認識するための音楽的要素を限りなくキープした上での処理を実現できていると感じました。新たに音色を足して再構築するようなリミックス作業などには十分耐えうる音質ですし、サンプリング・ベースの音楽制作やレコーディング済みのコーラス・パートのハーモニーを変更する場合などに威力を発揮するでしょう。これまでに無い技術ゆえにその効果も良い意味で予想外ですので、おのおので実際に試すことでさまざまな用途や発見があると思います。ひいてはここから新しい音楽や表現手法が生まれてもおかしくないなぁと思える面白い製品です。 
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 (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年12月号より)
ZYNAPTIQ
Pitchmap 1.5
オープン・プライス (市場予想価格:39,800円前後)
▪Mac:Mac OS X 10.6以降、INTEL製デュアル・コアCPU以上、Audio Units/VST2.4/RTAS/AAX対応のホスト・アプリケーション ▪Windows:Windows XP SP3/Vista/7/8、デュアル・コアCPU以上、VST2.4/RTAS/AAX対応のホスト・アプリケーション ▪共通項目:1GB以上のRAM、60MB以上のハード・ディスク空き容量、インターネット環境