「YAMAHA MGP32X」製品レビュー:デジタルのうま味を取り入れた32ch仕様のPA用アナログ・ミキサー

YAMAHAMGP32X
YAMAHAのアナログ・ミキサー、MGPシリーズに新しく32chタイプのMGP32Xと24chタイプのMGP24Xが仲間入りしました。MGPシリーズは、チャンネルEQ/コンプ、ボリュームなどのコントロールはアナログですが、そこにDSPなどデジタルの要素を取り入れ、“おいしいとこ取り”と言うべき仕様を誇っています。今回はMGP32Xを実際に使い、その実力を見ていきましょう。

ステレオ・イメージャーやグライコ
そしてコンプなど多彩なDSPエフェクト


まずは基本的な仕様から見ていきます。本機はモノラル24ch+ステレオ4ch、6AUX、4グループ・バスという構成。各モノラル・チャンネルには、マイク・インとマイク/ライン・イン、インサート端子が1つずつ装備されています。マイク・インはディスクリート仕様のクラスAマイク・プリアンプ“D-Pre”を搭載。中低域にふくよかな張りとツヤを持たせつつ、開放感のある高域を実現しているそうです。48Vのファンタム電源は各チャンネルで個別にON/OFFが行えるため、“誤ってダイナミック・マイクをつないでしまった”などといったトラブルを未然に防止できるでしょう。さらに、モノラル・チャンネル9〜24にはワンノブ・コンプが備えられています。ステレオ・チャンネルは、ステレオ・ライン・インを装備。チャンネル29/30と31/32のみ“ハイブリッド・チャンネル”と呼ばれる特別な仕様となっており、内蔵DSPによる“DUCKER”“LEVELER”“STEREO IMAGE”といったエフェクトが搭載されています(写真①)。

▲写真① ハイブリッド・チャンネルに搭載されたダッキング機能“DUCKER” ▲写真① ハイブリッド・チャンネルに搭載されたダッキング機能“DUCKER”
例えば、イベントの休憩時間などにBGMを大きめの音量で流している際、急に司会者が話し始めることがあったりします。こうした場合BGMの音量を瞬時に下げるのは難しいのですが、DUCKERを用いれば司会者の声に反応してBGMの音量が自動的に下がります。LEVELERは、音量のバラつきをある程度均一にしてくれるもの。STEREO IMAGEではステレオ・ソースの左右の広がりを設定でき、入力されたそのままの左右幅で再生する“STEREO”、モノラルにミックスして出力する“MONO”、ステレオとモノラルの中間で再生する“BLEND”といった3種類が選べます。チャンネル29/30には“ANALOG/USB IN”というスイッチが装備されています。これがOFFの状態だとステレオ・ライン・インが入力端子となり、ONの状態だと“USB TO DEVICE”という液晶部の裏にあるUSB端子に切り替わります。この端子にUSBメモリーを接続すれば、その中に収められたWAVやMP3などのオーディオ・データを再生したり、ステレオ・バスやマトリクス・バスの出力をUSBメモリーに録音することができます。また、チャンネル31/32の“ANALOG/iPod IN”スイッチを押すと、もう1つのUSB端子である“USB for iPod”から音声の入力が可能になり、APPLE iPod/iPhone内のオーディオ・データを本機で再生できます。MGP32Xでは、すべてのチャンネルに3バンドの“X-pressive EQ”が採用されています。基本的には低域が125Hzのシェルビング、中域が250Hz〜5kHzの可変ピーキング、高域が8kHzのシェルビングとなっていますが、ステレオ・チャンネル25/26と27/28のみ中域が2.5kHzで固定されています。続いて、出力を見ていきましょう。背面には、ステレオ・ライン・アウトや6つのモノラルAUXアウト、4つのグループ・アウトなどを装備。ステレオ・ライン・アウトには、デジタルのグラフィックEQとコンプが搭載されています。グラフィックEQは、14バンドの周波数ポイントが固定されたモード“14BandGEQ”と、全31バンドのうち9バンドの周波数が可変の“Flex9GEQ”を選択可能(写真②)。コンプは、通常のタイプと3バンドのマルチバンド・タイプを用意しています(写真③)。
▲写真② ステレオ・ライン・アウトにかかるグラフィックEQ。画面は31バンド・タイプを選択したところ ▲写真② ステレオ・ライン・アウトにかかるグラフィックEQ。画面は31バンド・タイプを選択したところ
▲写真③ ステレオ・ライン・アウトにはスタンダードなコンプのほか、3バンドのマルチバンド・コンプも搭載 ▲写真③ ステレオ・ライン・アウトにはスタンダードなコンプのほか、3バンドのマルチバンド・コンプも搭載
 

分離の良い音質を持つマイクプリ
積極的な音作りに向くチャンネルEQ


それでは使用レポートに移ります。まずはマイクプリのD-Pre。さまざまな条件でチェックしてみたところ“高域の抜けが良くシャキッとした音質で、分離の良いタイトなサウンド”といった印象です。S/Nも良く、相当持ち上げてもノイズが気になりませんし、クセが無いので非常に使いやすいと感じました。欲を言うと少し物足りない感じも否めませんでしたが、この価格帯としては非常によくできていると思います。あと、やはりファンタム電源が各チャンネルで独立して使えるのはありがたい。全チャンネルに一括してかかるモデルに比べると、現場での心労はかなり軽減されます。続いて、チャンネルEQのX-pressive EQをチェック。往年の名機を目指したというそのサウンドは、デジタルEQなどと比べるとかなり効き具合が良い感じ。低域をブーストしてみると、楽曲のボトムのちょうど良い部分が太くなります。125Hzのシェルビングなので中域まで持ち上がってくるかと思っていましたが、そんなことはありませんでした。中域のピーキングは、Q幅がかなり広めに設定されています。特定の帯域をピンポイントで補正したいときには不向きですが、持ち上げてみても、いわゆるEQ臭い音にはなりにくく、スムーズにブーストされます。大胆に持ち上げて音作りできそうですね。高域のシェルビングも同じような感覚で、シンバルに含まれる痛い高域を狙って補正するような使い方よりも、楽曲全体における高域のバランスを調整したいときなどに向いていると思います。このX-pressive EQを総評すると、楽器それぞれに対して細かい周波数補正を行うよりも、アグレッシブな音作りに向く印象です。ステレオ・ライン・アウトにグラフィックEQが入っているため、細かい音質補正やハウリング対策はそちらで行えば良いでしょう。そのグラフィックEQについても触れておきましょう。アナログ・ミキサーにデジタルのグラフィックEQがプリセットされているのは非常にうれしいです。前述の通り14バンド固定型と、9バンドの周波数ポイントが変更可能な31バンド型を切り替えて使えます。前者を使ってみたところ各帯域のQ幅が広く、細かい補正は行えないものの、やはり重宝します。しかし、個人的には31バンド・タイプが用意されているところに魅力を感じます。PAで使用する際は、この31バンド・タイプくらいのQ幅でコントロールできることが重要ですし、そのうち9バンドの周波数ポイントが調整できれば、あらゆる場面に対応可能でしょう。また、ステレオ・ライン・アウトにマスター・コンプが装備されているのもうれしいです。スピーカー保護は、PAエンジニアにとって常に気を付けるべきポイントですので、マスター・コンプが用意されているだけで、不意の大音量からスピーカーを守ることができるわけですね。実際に使ってみると、スピーカー保護用リミッターとしての働きもさることながら、“いわゆるコンプ”として使ってみてもかなり効きが良く、デジタルながらアナログ・コンプの使用感に近いと思いました。レシオを低めに設定しながら音圧を高める、といったかけ方をしても問題無いでしょう。 

空間系などのマルチエフェクトを搭載
iOS用のコントロール・アプリも用意


EQやコンプ以外のエフェクトとしては、YAMAHAのマルチエフェクトSPXシリーズのプログラム“SPX”と、同社デジタル卓にも採用されているリバーブ“REV-X”を内蔵。各チャンネルには、それぞれのエフェクトへの送り量を調整できるツマミが装備され、両方を同時に使用することも可能です。SPXでは7種類のリバーブに加え、ディレイやフランジャー、ダブラー、ラジオ・ボイスなど計16種類のエフェクトが選択でき、REV-Xには8種類のプリセットが用意されています。小型ミキサーなどによく付いている内蔵エフェクトとは違い、ある程度細かい設定が行える上、音質も非常に好印象。さらにエフェクト・ブレンド機能が搭載されていて、SPXのディレイにREV-Xのリバーブを加えるような処理も可能です。USBを使ったオーディオ再生/録音やグラフィックEQ、マスター・コンプ、各種エフェクトなど、本機のデジタル部分のパラメーターは、パネル上の液晶画面に表示することができます。しかし画面のサイズが小さく、視認性はお世辞にも良いとは言えません。この問題を解決するために、“MGP Editor”というAPPLE iPad/iPhone/iPod Touch用のコントロール・アプリが用意されています。App Storeで無償ダウンロードできるので、使うことをお勧めします。MGP EditorをインストールしたiOS機をMGP32XとUSBケーブルで接続して使用すれば、GUIを使った直感的かつ簡単なコントロールが可能になります。 デジタル・ミキサーが全盛の今、アナログとデジタルの良い部分を統合したミキサーが発売されるのは、個人的に非常にうれしいです。やはり瞬発的な操作に関しては、デジタル・ミキサーでは限界を感じます。この機能でこの価格なら、購入して後悔するようなことはまずないと思います。 
▲リア・パネルには、左から照明用端子、トークバック用マイク・イン、モノラル・アウト、モノラルAUXアウト×6(以上XLR)、インサート・イン×2(フォーン)、ライン・アウトL/R(フォーン、XLR)、モニター・アウトL/R、グループ・アウト×4、マトリクス・アウト×2(以上フォーン)、そしてステレオ・チャンネルのライン・インL/R(フォーン、RCAピン)やモノラル・チャンネルのインサート端子、マイク/ライン・イン(以上フォーン)、マイク・イン(XLR)が装備されている ▲リア・パネルには、左から照明用端子、トークバック用マイク・イン、モノラル・アウト、モノラルAUXアウト×6(以上XLR)、インサート・イン×2(フォーン)、ライン・アウトL/R(フォーン、XLR)、モニター・アウトL/R、グループ・アウト×4、マトリクス・アウト×2(以上フォーン)、そしてステレオ・チャンネルのライン・インL/R(フォーン、RCAピン)やモノラル・チャンネルのインサート端子、マイク/ライン・イン(以上フォーン)、マイク・イン(XLR)が装備されている
  (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年8月号より)
YAMAHA
MGP32X
210,000円
▪入力/モノラル24ch+ステレオ4ch ▪出力/1ステレオ・ライン・アウト、4グループ・アウト、6モノラルAUXアウト、1モノラル・アウト、2マトリクス・アウト、1ステレオ・モニター・アウト、24モノラル・チャンネル・インサート・アウト、4ステレオ・チャンネル・インサート・アウト ▪デジタル・エフェクト/FX1:REV-X(8プログラム)、FX2:(16プログラム) ▪全高調波歪率/0.02%以下(@20Hz〜20kHz、+14dB、ステレオ・ライン・アウト) ▪周波数特性/20Hz〜20kHz(+0.5/−1dB) ▪消費電力/86W(最大) ▪外形寸法/ 1,027(W)×169(H)×565(D)mm▪重量/19kg