8イン/6アウトのシンプルな構成
上品できめ細やかなOnyxプリアンプ
本機のインプットはXLRで8ch用意。うち4chはフォーン接続も可能なコンボ端子を採用しています。アウトプットはステレオ・アウト(XLR)と、4chのAUXアウト(TRSフォーン)というとてもシンプルな構成。8chミキサーが使用される環境を考えるととても分かりやすい配置です。デザインもステルスっぽい未来的な筐体で、安定感があります。そして、本機はフル・デジタルでありながらデジタル入出力やUSB端子などはありません。ノブもインプット・ゲインとヘッドフォン・ボリュームのみ。それ以外の操作はすべて、本体にドッキングしたiPadで行うという仕様です。早速、筆者のiPad(第2世代)とつなげて音を出そうと思いますが、まずApp Storeから専用のアプリ、Master Fader(無償)を入手する必要があります。容量は54MBなので、回線によってはインストールに時間がかかるでしょう。アプリも無事にインストールしたので本体に接続してみます。きっちり設計されていてiPadにピッタリなガイド・レール(もちろんiPadが保護ケースなどに入っていると挿入できません)のおかげでDock端子と接続する精度も抜群です。本体の電源を入れると簡単に認識をしてDL806とiPadがシンクします。この辺りで設定に苦労しないのがうれしい設計です。ともあれ、インプットにマイクを、アウトプットにパワード・スピーカーを接続し、音出しをしてみました。インプットのOnyxマイク・プリアンプは広めのヘッドルームを用意してひずみにくい設計とのことで、これは正解でしょう。ここだけはアナログのノブでコントロールするため、インプット・ゲインも含めたリコールはできなくなりますが、ミキサー設定の基本であるゲインが手元にあることは使いやすさの配慮と考えられます。このインプットの音はとても素直で、かつての同社アナログ・ミキサーのようなシャープな音色とは少し違い、全体に上品できめ細かい音色に良い印象を持ちました。低域もブーミーではなくスッキリした印象で、そう大きくない場所で使われることが多いことを予想すると扱いやすいでしょう。
2つのモードを持つEQ/ゲート/コンプ
GEQやリバーブ&ディレイも搭載
続いてiPad側のMaster Faderの基本操作を見ていきましょう。操作は極めて直感的。各インプット・フェーダー横にプリフェーダー・レベルが表示されるので、マイク・プリアンプのゲイン設定も、メーター・レベルをどれくらいにするかを決めておけば再現性も高まります。フェーダー下にはパート名を入れたり、マーカー部分に写真も張り付けられます(画面①)。その場でiPadで写真を撮ってメンバーの写真を入れたら楽しそう。こういった遊びゴコロは素敵です。
最大10台のiPad/iPhoneを無線接続
ミュージシャンが手元から操作可能に
さてiPadと言えばWi-Fi接続ですが、DL806もiPad/iPhoneとWi-Fiで接続可能です。DL806のイーサーネット端子に手持ちのワイアレス・ルーターを接続して検証してみました。特殊な設定をせずとも、簡単に接続可能。iPhone 5にも無償アプリ(My Fader)をダウンロードして、先ほど接続したルーターを選択するとiPhone 5からDL806を操作することができました。これらの設定も特に複雑な手順は不要で、驚くほど簡単に接続できるのがありがたいです。iPad/iPhoneは最大10台をWi-Fi接続できるので、この機能を使うとライブで各メンバーの手元にあるiPad/iPhoneを操作してモニター・スピーカーからのバランスを自ら変更することができます。特に本番中コミュニケーションが取りづらいようなシチュエーションに便利です。基本設定をエンジニアが行って、微調整はアーティストに任せるという使い方がよいでしょう。ボーカル・マイクがハウリングしたり、ハウスの2ミックスを知らぬ間に操作されたりなんて笑えないことにならないよう、事前のレクチャーは大事ですね。この機能を使えば、レコーディングのCueミックス送りとしても便利そうです。また当然ながらすべての設定は記憶&リコールできます。普段使用している各チャンネルの設定を呼び出すことができるのはとても便利です。デジタル・ミキサーの場合、事前にこうした仕込みを行うことが多いわけですが、この機能を使用すれば、例えば編成の異なるバンドの対バンや、楽器の持ち替えにもスムーズに対応できます。そしてコンソールのすべての設定は“Scene”として記憶でき、瞬時に切り替えられます。駆け足ですがDL806とそのアプリMaster Fader&My Faderの機能について紹介してきました。多くのデジタル・ミキサーがその付加価値としてiPadでの遠隔操作を“取り入れ”てきたことに比べ、DL806はiPadの大きなインターフェースを前提に開発されたものだということがよく分かりました。これまでのミキサーとは異なる発想の機種であることは確かです。既存の機材に限界を感じていた方はぜひ、このDL806を楽しい演奏をクリエイトするツールとして使いこなしていただければと思います。