「MIKTEK C7」製品レビュー:ビンテージ機を目指したマルチパターンのFETコンデンサー・マイク

MIKTEKC7
アメリカのナッシュビルに構える新進気鋭のマイク・メーカー=MIKTEK。筆者は、本誌3月号で同社のチューブ・コンデンサー・マイクCV4をレビューしたが、それに引き続き今月はFETコンデンサー・マイクのC7をご紹介したい。CV4は正当派チューブ・マイクとしてのクオリティとコスト・パフォーマンスの高さが好印象だったので、今回のFETモデルにも期待が持てる。

アンプ部にAMIのトランスを使用
+60Vのバイアス電圧にも対応


アルミ製のアタッシュ・ケースを開けると、CV4の本体とスイベル・マウント式のマイク・ホルダーを収める木製ケース、大型のショック・マウントなどが入っている。まずはマイクの外観を見ていこう。モデル名がひっそりと記された黒い樹脂リング以外は、マット・シルバーで統一。ボディ下部の前面にはブランド・バッジを配置し、背面を見てみるとシリアル・ナンバーに加えて“ASSEM IN USA”という文字が刻印されている。“厳選したパーツをナッシュビルにて手作業で組み上げる”という同社のこだわりが表れている。CV4がビンテージ・チューブ・マイクの代表格、TELEFUNKEN Ela M 251やAKG C12に倣った仕様であるのに対し、C7はボディの色調やメッシュの形状をはじめ、指向性の切り替え/ローカット/PADといったスイッチ(後述)の配置や形状が、録音業界ド定番のFETコンデンサー・マイク、NEUMANN U87をほうふつさせる。こうした仕様だけを取っても、メーカーがこのマイクをどのような位置付けとしているのか計り知ることができる。直径1インチ/厚さ5ミクロンのマイラー(強いポリエステル)製ダイアフラムには、0.4ミクロン厚の金を蒸着。それを2枚使ったカプセルは“MK7”と名付けられ、CV4の“MK9”とは区別されている。指向性は無/単一/双の3種類を切り替え可能。ローカットのカットオフ周波数は100Hz、PADのレベルは−10dBとなっており、さまざまなソースへ柔軟に対応できる(写真①)。

▲写真① 背面には、左に100Hzのローカット・スイッチ、右に−10dBのPADスイッチが装備されている ▲写真① 背面には、左に100Hzのローカット・スイッチ、右に−10dBのPADスイッチが装備されている
内蔵プリアンプ部にはAMIのトランスT7を用い、良好なビンテージ・マイクを思わせる甘いサウンドを実現しているという。さらに、特筆すべきは内部のスイッチを切り替えることで、カプセルにかけるバイアス電圧を+48Vと+60Vの2種類から選択できる点だ。前者の方が細やかなニュアンスにも忠実に反応するということなので、チェックは+48Vをベースに行っていく。

500〜800Hzが充実したサウンド
パンチの効いた+60Vモードの音質


マイクプリとしてRUPERT NEVE DESIGNS Portico 5032を使用し、まずはアコースティック・ギターでチェック。収音した瞬間、“スムーズでカラっとしている”という印象を受けた。低域は豊かだが適度にタイト。100Hz辺りがしっかりとしており、安定感がある。超低域がむやみに強調されていないので扱いやすい。4〜5kHz周辺にやや張り出しを感じるが、音の明りょう度アップに貢献している様子で痛さや不快さは無い。そこから10kHz辺りまできらびやかさを保っており、超高域にかけての伸びはとても自然だ。そしてCV4と同様に、C7の特徴も中域にある。500〜800Hz辺りの表現が巧みで、実が詰まっていながらも押しが強過ぎず、嫌みが無い。EQをかければ、欲しい帯域が素直に上がってくる。この中域のおかげで、音像が一回り大きく聴こえるのだ。次に男性ボーカル。チューブ・マイクであるCV4のシルキーなサウンドに比べると、C7はよりソリッドでエッジが立っている。先述の通り中域の表現に優れているため、オケの中でもしっかりと居場所を確保できるのはありがたい。ここで指向性を変えてみる。こうしたマルチパターンのマイクには、無指向性に切り替えると高域が暴れ、低域が若干ロール・オフするモデルが多いのだが、C7では単一指向性との音色差をそれほど感じなかった。双指向性に設定したときの方が、高域のザラつきと低域の減衰を感じたくらいだ。最後にうわさのバイアス電圧を+60Vに切り替えてみる。+48Vに対して、+60Vはアグレッシブだ。ゲインが2〜3dB上がり、中域の張り出しがより強くなる。コンプをかけたようにパンチのある音色が得られた。男性ロック・ボーカルなど、荒々しい強さが欲しいときに役立ちそうである。 総合的に見てみると、男性ボーカルをはじめ、アコギやサックス、ドラム(特にアンビエンス)などとの相性も良さそうな本機。幸運にも、さほど時間を空けることなくMIKTEKを代表する2本のマイクを試す機会に恵まれたわけだが、チューブとFETそれぞれのすみ分けを図り、往年の名機を目指しつつも現代に通用する製品を送り出している同社に、今後も注目していきたい。  (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年5月号より)
MIKTEK
C7
105,000円
▪形式/コンデンサー ▪周波数特性/20Hz〜20kHz ▪指向性/単一、無、双(スイッチで切り替え可能) ▪感度/−29、−34、−38dBV/Pa ▪最大SPL/127dB ▪外形寸法/54(φ)×215(H)mm(実測値) ▪重量/700g(実測値)