「AUDIO-TECHNICA AT4033/CL」製品レビュー:名機AT4033Aに改良を加えたトランスレスのコンデンサー・マイク

AUDIO-TECHNICAAT4033/CL
AUDIO-TECHNICAから、新たなコンデンサー・マイクが発売されました。世界で爆発的にヒットしたあの名機、AT4033Aのアップデート版です。ダイアフラムの直径は16mmで、単一指向性を採用。回路にはトランスが使われておらず素直な音がするため、レコーディングだけでなく、ステージ・パフォーマンスや放送局でも重宝される大変優秀な一本に仕上がっています。

最大SPL=145dBを実現
不要な振動を抑える内部機構


オリジナルからの改良点としては、ダイアフラムの周囲にバッフルを取り付け“145dB”という高い最大SPLをたたき出したことや、内部にフローティング機構を採用することで不要な振動や反響を軽減し、自宅から商業スタジオまで、さまざまな状況におけるよりピュアな収音にフォーカスした点が挙げられます。重量380gの本体には、80Hzのローカットや−10dBのPADのON/OFFスイッチを装備。周波数特性は30Hz〜20kHzで、SN比は77dB以上となっています。ボディ色はつや消しのブラックで、焼き付け塗装が施されています。手に取ったときの質感は良く、付属のショック・マウントにまでピュアな音を追い求める創意工夫が感じられます。開発者の熱意が表れており、あらためてオリジナルの世界的ヒットに納得しました。視覚からのインスピレーションは録音の現場でも大切です。我々レコーディング・エンジニアは録音が始まる前に、その空間で音が鳴ることをイメージしながら、外観からもマイクを選択します。現場を撮影されることがありますが、アーティストとマイクがそろって絵になるときは、ほぼ良い音が録れています。この点でもAT4033/CLの存在感は抜群と言えます。 

1本でもドラムの各打楽器を鮮明に収音
リアルかつスピード感のある音質


まずはドラムを録音。キックからシンバルまで、ドラム・セット全体を感じるイメージで演奏者の耳元に立ててみます。ん〜、やっぱりイメージ通りの音です。とても礼儀正しいというか、過度な色付けが無いため、録りたい音の焦点がキッチリと合って聴こえます。各打楽器のアタックがリアルに見えるのです。マイクを置いた場所の空気振動が、モニター・スピーカーを通して実際と同じスピードで再現される感覚です。素晴らしい!こうしたマイキングの場合、マイクから最も遠い位置で鳴るキックやフロア・タムは低域が薄くなるため、通常は別途マイクを立てて補います。ですがAT4033/CLは音の粒がそろっているため、試しにEQを使い低域をガッツリと上げてみます。するとどうでしょう。本機1本でドラム全体の鳴りが十分に表現され、低域から高域まで欲しい情報を確実にキャッチできました。ドラム録りの際にマイクの本数を絞ることができると、位相ズレによる音のにじみが減るため、生き生きとした録り音が得られます。AT4033/CLを使えば、こうした録音方法が可能になるのもイイですね。次にボーカル録音で試してみます。声はダイナミック・レンジが非常に広いため、特にマイクの力量が求められるソースと言えます。今回はAT4033/CLをボーカリストの口元に近づけて設置。ん〜、理屈抜きに良い音です。音が目に見えるようなリアルさと、スピード感があります。スピード感があるということは、音を美しく表現できることでもあり、音楽の感動をより多く伝えることが可能になります。感受性は人によってさまざまですが、多くの人を感動させる音や音楽の波形は極めて美しいものです。複雑な波形を持つ歌のようなソースをとらえ、音楽として伝える作業においても、このマイクは大変良い働きをします。また、回路の特性でしょうか。コンデンサー・マイク特有のシャープさを備えつつも、優しい音がします。実はここが私の一番のお気に入りポイントでした。耳に優しいというか、ココロに優しい。ボーカリストが音楽を通して最も伝えたいものは、メロディや言葉だったりします。多くの場合、マイクには原音に忠実であることよりも“伝えたいエネルギーを的確に伝えられる音質”が優先して求められるものです。AT4033/CLからは、聴き手の感情を揺さぶるような優しい音が得られました。そういうわけで、私はこのマイクの存在を大変喜ばしく感じています。また、私的な感覚かもしれませんが、優しい音はデジタル領域での音楽制作において特に必要な要素だと思います。 名機と呼ばれるマイクには、忘れられないほど特別な質感を持つものが多いです。しかし同じ名機でも、AT4033/CLはどんな音も生き生きととらえられるオールマイティかつタフな一本として世間に羽ばたく気がします。収納箱や付属の保護ケースからも大切にされるマイクの雰囲気が漂い、お値段以上の価値があると思いました。 (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年5月号より)
AUDIO-TECHNICA
AT4033/CL
オープン・プライス (市場予想価格/40,000円前後)
▪形式/コンデンサー型 ▪指向性/単一 ▪周波数特性/30Hz〜20kHz ▪最大SPL/145dB ▪SN比/77dB以上(1kHz@1Pa) ▪外形寸法/53.4(φ)×170(H)mm ▪重量/380g