「ADAM F5」製品レビュー:タイトな低域を再生する2ウェイ・パワード・モニターのエントリー機

ADAMF5
ADAMの2ウェイ・パワード・モニターに待望のエントリー・モデル、Fシリーズが登場しました。これまで同社製品に手が届かなかった人にはうれしい知らせではないでしょうか。7インチ・モデルと5インチ・モデルがあり、今回レビューするのは5インチ・モデルのF5です。

カーボン&ペーパー製のウーファー
内蔵アンプの出力は合計50W


箱から出したときに、まず印象的だったのはその重量感。1台あたり6.8kgという重さは、価格のリーズナブルさを全く感じさせない高級感に満ちています。高域ユニットにはADAMのスピーカーでおなじみの“X-ART”ツィーターに改良を加え、コンパクトにした“ART”ツィーターを装備。このリボン・ツィーターは、何と50kHzまで再生可能なんだとか。低域ユニットには口径5インチ=127mmのウーファーを搭載。カーボン繊維の質感に加えて、どこかペーパー製のような雰囲気も感じたので、調べてみたところカーボン&ペーパーの二重構造となっています! カーボンの耐久性に加えて、ペーパー・ウーファーならではの繊細さも兼ね備えているわけですね。ウーファー内部には直径25mmのボイス・コイルが搭載されており、余裕がありつつも引き締まった低域を特徴としています。ボイス・コイルは再生能力の根幹にかかわる部分なので、手を抜いていないのがうれしいですね。両ユニットには、それぞれ専用のクラスABアンプを用意。各アンプの出力は25Wとなっています。背面にはハイ/ローシェルビング用のEQツマミが装備され、前者では5kHz以上を、後者では300Hz以下を±6dBの範囲で調整可能。さらには80Hz以下をカットできるローカット・スイッチも用意されています。そのほか、入力がしばらく無い場合に自動で電源をOFFにしてくれる“入力信号検知回路”が搭載されています。普段、個人的に使っているスピーカーも同様の機能を備えていますが、これはすごく重宝しますよ! 何せ、使う度にスピーカーの背面へ手を回す手間が省けますからね。

レスポンスが良くタイトな低域
小音量でも解像度を維持


それでは、肝心のサウンド面を見ていきましょう。一聴して最初に感じたのは、低域のレスポンスの絶妙さです。背面のEQ類を調整せずとも、気持ちの良い低域とウーファーのタイトな反応が感じられます。先述のボイス・コイルとカーボン&ペーパーの二重構造による部分が大きいのでしょう。“ART”ツィーターは、やはり超高域までキチンと再生します。ライドのアタックからボーカルの歯擦音まで、しっかりと感じ取ることができます。この価格帯でこの出音は驚きですね。強いて言えば中〜中高域の明りょうさ/押し出し感がもう少し欲しいところですが、普段使用しているスピーカーも低域と高域が持ち上がった傾向にあるので、好みの範ちゅうと言えます。また、定位の良さや全体の解像度は十分なものです。小音量から大音量の再生まで、音質が極端に変化することはありません。価格から察するに、本機は宅録環境で使われることが多いでしょう。自宅が集合住宅の一室だったり、夜間に作業することもあると思いますが、だからこそ小音量時の再生能力や解像度といったものは重要だと感じています。その点においても、本機は多くの宅録ユーザーの味方になると思います。さて、僕の制作場はスピーカーの背面に壁があるため、中低域を増幅しやすい環境となっています。そこで、出音をさらにスッキリとさせようと背面のローシェルビングEQを使ってみたところ、嫌なモワモワ感がカットされました。300Hz以下を調整できるというのが、かゆいところに手が届く感じで好印象ですね。試しにハイシェルビングEQを上げてみると中高域が明りょうになり、先述の物足りなさが随分改善されたように思います。良いですね、どの機能も絶妙かつ効きが良い。初めてモニター・スピーカーを手にする人は、こうした試行錯誤も楽しみの1つになるのではないでしょうか。もちろん2台目、3台目として本機を購入するのも良いと思いますが、僕はあえて“初めてのモニター・スピーカー”を探している人にお薦めしたいです。店頭で他社のエントリー・モデルと聴き比べてみてはいかがでしょうか? 
▲背面にはXLR/TRSフォーン・コンボとRCAピンのライン・インが1つずつ装備されており、それらの下にハイシェルビングEQ(5kHz/±6dB)や入力レベル、ローシェルビングEQ(300Hz/±6dB)を調整できるツマミ、そして80Hzのローカット・スイッチが用意されている ▲背面にはXLR/TRSフォーン・コンボとRCAピンのライン・インが1つずつ装備されており、それらの下にハイシェルビングEQ(5kHz/±6dB)や入力レベル、ローシェルビングEQ(300Hz/±6dB)を調整できるツマミ、そして80Hzのローカット・スイッチが用意されている
  (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年5月号より)
ADAM
F5
19,800円(1本)
▪スピーカー構成/高域:リボン・ツィーター、低域:口径5インチ・カーボン&ペーパー・ウーファー ▪アンプ出力/50W(低域25W+高域25W) ▪周波数特性/52Hz〜50kHz ▪最大音圧レベル/110dB SPL ▪外形寸法/185(W)×290(H)×230(D)mm ▪重量/6.8kg(1本)