ARTURIASpark LE

ビンテージ・アナログ・シンセの中でもとりわけ個性と存在感が強い機種をチョイスし、独自のサウンド・エンジン“TAE”によって、それらが持つ不安定な部分さえも再現し、非常に完成度の高いソフト・シンセとして世に送り出しているARTURIA。ボク自身もMinimoog V(現Mini V)やArp2600Vなどをリリース当初からずっと愛用し続けています。一昨年、同社はソフト音源とハードウェア・コントローラーをセットにしたハイブリッド・リズム・マシンSparkを発売。バーチャル・アナログ、フィジカル・モデリング、そしてサンプル・プレイバックという3つのエンジンを内包し、コントローラーで演奏/プログラムできる製品ということで人気を博しました。そして今回、その小型版となるSpark LEが登場しました!
ノート・パソコンに合うコントローラー
ソフト部は上位機Sparkと同等
冒頭でも書いたように、本機はスタンドアローン/VST/RTAS対応のソフト(メイン画面)とUSB接続のコントローラー(写真①)から成るリズム・マシンです。


eim SEM Vに搭載されているフィルターなど、計8種類の中から選択できます。フィルター・タイプはFilterボタンを数回押すことで切り替えます。スライサーではリピートやパンなどのさまざまなスライスを生成し、Rollerボタンを押しながらパッドを押せば、そのパッド音がロール再生されます。さらにメインのロータリー・エンコーダーの下にあるLoopセクションでは、2つのノブを使って、プレイ中のパターンのループ・ポイントと長さをコントロールし、リアルタイムにフィルやブレイクを作り出すことができるので、これらを駆使して通常のリズム・マシンには不可能なインパクトの強いダイナミックなライブ・パフォーマンスをすることが可能です。一番大きなロータリー・エンコーダーは、各パッドの楽器音、それらをセットにしたキット、キットとシーケンスなどをまとめたプロジェクトの選択に使用されます。
リアルで太く厚く存在感のある音
ソフト側で細かなエフェクト処理も可能
さて、ここからはLush-101の話。Audio Units/VST対応のプラグイン・タイプのソフト・シンセで、音の特徴とデザインに関してはSH-101から影響を受けているが、中身はSH-101複数台分どころか、同社の持てるノウハウをすべて投入したかのような大規模なものだ。SH-101を元に機能を拡張したオシレーターとフィルターに加え、LFOとエンベロープは各2基に増えている。さらにコーラスやディストーションなどのインサート・エフェクトとアルペジエイターを加えたものを1レイヤーとし、これを8つまで重ねることができる。各レイヤーはマスター・ミキサー(後述)でまとめるが、それぞれのレイヤーにはEQとコンプレッサーが付いており、さらに3つのセンド用エフェクトまで用意されている。それらは同社のプラグイン・エフェクトであるSilverLineシリーズのアルゴリズムが搭載されているようだ。さらに詳しく各モジュールを見ていこう。まずオシレーターは、SH-101と同じく波形をミックスしていく方式だ。矩形波、ノコギリ波、サブオシレーター、ノイズをそれぞれ加算するのはSH-101と同様だが、ノコギリ波はROLAND JP-8000と同じSuper Saw機能が追加されており、ノコギリ波を幾つも重ねた分厚いサウンドが得られる。このSuper Sawサウンドがトランス系のテクノで使われるようになって、JP-8000やラック型のJP-8080が再評価された。Super Saw的なオシレーターは他機種でも目にするようになっているが、オリジナルの分厚さというか、重なり具合はLush-101が一番よく再現されていると思った。次にフィルター。SH-101はローパス・フィルターのみだったが、Lush-101ではバンドパスとハイパスも選べるようになっている。また“SH-101”と“NORMAL”という2つのフィルター・モードをスイッチできる。余談だが“SH-101”というモード・スイッチはフィルターだけでなく、OPTION画面でエンベロープのトリガーについてもSH-101をシミュレートするかどうか選択できるようになっており、実機を忠実にシミュレートしようとする姿勢が感じられる。このフィルター・モードの違いについては実際に聴き比べて試してみたが、“SH-101”モードではレゾナンスの効きがより強くなるようだ。TB-303のようにビキビキ言わせたいときは“SH-101”の方が良いかもしれない。このモード切り替えはローパスだけでなく、バンドパス/ハイパス・フィルターでも有効となる。そしてもう1つ、フィルター・セクションの右側に独立したハイパス・フィルターも装備されている。カットオフ周波数のみをいじるだけのシンプルなものだが、このパネル・デザインはROLA
ND Jupiterシリーズを連想させる。エンベロープも充実している。LFOによるトリガーのリセットのほか、実機には無いポラリティ(極性)の変更も可能だ。またLush-101は至るところに“TRIG”と“GATE”という切り替えスイッチが付いているが、これらはモノフォニック設定時にレガートで弾いた(前の鍵盤を離す前に次の鍵盤を弾く)場合、そのモジュールへのトリガーをどうするかというもので、“TRIG”では常にトリガーされ、“GATE”のときは完全に鍵盤を離すまで次のトリガーを受け付けない。ほかのシンセではマルチ/モノトリガーなどのスイッチですべてのモジュールをコントロールすることが多いが、本機は“この辺の細かい設定で思い通りのシーケンスを作ってくれ”というこだわりが見受けられる。LFOは実機より大幅に高機能になっている。LFOレートはホストDAWのBPMにシンクさせることも可能で、通常のテンポ(100〜200BPM)なら、同じスライダー位置でもシンクさせた方がゆっくりした効果が得られるようだ。
ステップごとのゲート/タイ調整など
詳細な設定が行えるアルペジエイター
プリセットのプロジェクトを幾つか聴いてみました。ビンテージ・リズム・マシンに関しては考えられるものすべてを網羅していると言っても過言でないほどで、同社のお家芸であるTAE技術と高解像度サンプリングでかなり正確に再現されていました。それ以外にも最新のダンス・ミュージック・シーンに即したものからアコースティックなドラム・セットまで、合計100以上のキット(インストゥルメントは1,000以上!)のお陰で次々とインスピレーションが湧き出てくるようです。試奏していて気付いたのは、まず出音の太さ、厚さ、存在感です。そしてパッドをたたいたときの、ソフト音源をコントロールしているとは思えない反応の良さ。これは単体機の感覚そのものです。ベロシティ・センスもいいし、アフター・タッチ的なプレッシャー・センスも良くて、表現力が非常に豊かに感じられました。打ち込む際は、左上のトランスポート・ボタンがプレイ状態だとステップ入力、録音ボタンを押すとリアルタイム入力と、演奏を止めることなくボタン1つでシームレスに録音形式を変えていける上に、Select+録音ボタンでリアルタイム入力のクオンタイズもON/OFFでき、ノッてるうちにどんどん新しいパターンにトライしていけてとにかく楽しかったです。またコントローラーでの操作は非常にシンプルで、ライブ・プレイや直感的な音/フレーズ作りに適したインターフェースとなっているものの、その実ソフトを使い込んでいくと、かなり複雑なところまで音作りをしていくことが可能でした。サンプリングCDで有名なUEBERSCHALLやSAMPLE MAGICなどが提供するサンプル音もあるし、ユーザー自身のサンプル・ライブラリーを読み込んでオリジナルのキットを作ることも可能です。各インストゥルメントはそれぞれミキサー・チャンネルを持っていて(画面②)、チャンネルごとのインサート・エフェクト(コンプ、ディストーション、ビット・クラッシャーなど)や2系統のセンド・エフェクト(リバーブとディレイ)を駆使した音作りさえもこなしてしまいます。

ARTURIA
Spark LE
39,900円
▪駆動形式/USBバス・パワー
▪外形寸法/284(W)×17(H)×171(D)mm
▪重量/約1kg
【REQUIREMENTS】
▪Mac/Mac OS X 10.5以降、INTEL製2GHz以上のマルチコア・プロセッサー(PowerPC非対応)、動作フォーマット:スタンドアローン/Audio Units/VST/RTAS(AAXには近日対応)
▪Windows/Windows XP/Vista/7/8、2GHz以上のマルチコア・プロセッサー、動作フォーマット:スタンドアローン/VST/RTAS(AAXには近日対応)▪共通項目/2GB以上のRAM、2GB以上のハード・ディスク空き容量、インターネット接続環境