「ARTURIA Spark LE」製品レビュー:専用コントローラーで操るソフト型リズム・マシンのLEバージョン

ARTURIASpark LE
ビンテージ・アナログ・シンセの中でもとりわけ個性と存在感が強い機種をチョイスし、独自のサウンド・エンジン“TAE”によって、それらが持つ不安定な部分さえも再現し、非常に完成度の高いソフト・シンセとして世に送り出しているARTURIA。ボク自身もMinimoog V(現Mini V)やArp2600Vなどをリリース当初からずっと愛用し続けています。一昨年、同社はソフト音源とハードウェア・コントローラーをセットにしたハイブリッド・リズム・マシンSparkを発売。バーチャル・アナログ、フィジカル・モデリング、そしてサンプル・プレイバックという3つのエンジンを内包し、コントローラーで演奏/プログラムできる製品ということで人気を博しました。そして今回、その小型版となるSpark LEが登場しました!

ノート・パソコンに合うコントローラー
ソフト部は上位機Sparkと同等


冒頭でも書いたように、本機はスタンドアローン/VST/RTAS対応のソフト(メイン画面)とUSB接続のコントローラー(写真①)から成るリズム・マシンです。

▲写真① 専用コントローラーにはメイン画面とほぼ共通の操作子をレイアウト。一番下に8個並ぶのがバックライト付きベロシティ・パッドで、ここでパートのトリガーやセレクトを行う。そして、その上にある16個のボタンでステップ・シーケンスを組むというのが大まかな使い方。ベロシティ・パッドをリアルタイムにたたいて演奏/録音することも可能だ。中央にあるタッチ・センシティブFXパッドでは、指でフィルター開閉などのエフェクト・コントロールが可能 ▲写真① 専用コントローラーにはメイン画面とほぼ共通の操作子をレイアウト。一番下に8個並ぶのがバックライト付きベロシティ・パッドで、ここでパートのトリガーやセレクトを行う。そして、その上にある16個のボタンでステップ・シーケンスを組むというのが大まかな使い方。ベロシティ・パッドをリアルタイムにたたいて演奏/録音することも可能だ。中央にあるタッチ・センシティブFXパッドでは、指でフィルター開閉などのエフェクト・コントロールが可能
まずはコントローラーの愛らしいボディを見てみましょう。手持ちのAPPLE MacBook Pro(15インチ)の前に置いてみると、サイズ的にかなりしっくりした感じで並べられます。MacBook Air(11インチ)ならもっとフィットするかもですね。そもそもSparkの小型版を作ろうとした経緯として、ユーザーから“スタジオで使う分にはいいけど、ライブに持ち運ぶにはちょっと大きい”という声があったとのこと。確かに今回のサイズならAPPLE iPadのような感覚で、バッグのポケットにスッと入れていけそうです。そしてまたデザインが良い。オフホワイトをベースに、グレーとパステル・ブルーのポイント使いのカラーリングは同社のハードウェア・シンセOrigin直系のデザイン。これはかつてWALDORFやALESISで筐体デザインをしてきたアクセル・ハートマンによるものだそうで、すっかりARTURIA製品の顔とも言える個性を放っていますね。パッドやツマミ類の感触も上々で、早く音を出してみたくなります。本機で音を鳴らすには、パソコンにソフトをインストールし、このコントローラーをUSB接続します。ハード単体で演奏することはできません。ソフトのインストールはあっという間で、コントローラーを接続して起動すれば、何の苦もなく使い始めることができました。煩わしいセッティングなど必要無いところはさすが専用機。ちなみに、このソフトは上位機種のSparkとほぼ同等です。GUIはコントローラーと基本的に同じで(画面①)、例えばコントローラーのパッドをたたくとソフト側も同じ部分が点灯して、音が鳴ります。ロータリー・エンコーダーになっているツマミを回せば、ソフト上で現在値が表示されるようになります。
▲画面① ソフト部のステップ・シーケンス画面。コントローラーからの打ち込みだけでなく、マウス・クリックでパターンを組むことができる。こうした部分も含めてソフト自体は上位機種Sparkとほぼ同じ仕様だ ▲画面① ソフト部のステップ・シーケンス画面。コントローラーからの打ち込みだけでなく、マウス・クリックでパターンを組むことができる。こうした部分も含めてソフト自体は上位機種Sparkとほぼ同じ仕様だ
ソフトの方はマウスでもコントロールできます(コントローラーを接続していないときも使用は可能)。パッドをクリックすると、コントローラーの方も点灯するなど同じように反応します。誰もが最初にたたくであろうパネル一番下のパッドでは、各ドラム・パート(インストゥルメント)を演奏できます。パッドは8個ですが、レイヤーを切り替えて計16個のパートを扱うことができます。上位機種のSparkには、コントローラーの各パッドの上に3個のロータリー・エンコーダーが縦に1列ずつ付いていたのですが、本機ではそれが一番右上のところに3個あるのみとなっています。これは各パッドにアサインされている音のパラメーターをエディットするためのものなので、Sparkだと各音をダイレクトに操作できていたものが、本機では左上のSelectボタンを押しながら選んだパッドの音をエディットするというスタイルになっています。自由度が減ったと感じる人もいれば、必要十分と感じる人もいるでしょう。いずれにせよ省スペース化には大きく貢献しているので、スタジオ・ユースかモバイルなのかという視点で、どちらを選択するかを決める要素にもなるんじゃないでしょうか?下から2列目にある16個のボタンはステップ・シーケンサーに対応し、ここでリズムを打ち込んだり、バンクやパターンの選択を行ったりします。またTuneボタンを押すことで、このボタンが鍵盤のような役割になり、セレクトした音のキーを変更することができます。9ボタンの位置を±0として、左右に半音ずつ上下することになり、パターン再生中に押すと現在打ち込まれている音がそのキーに変更され、録音状態だと鍵盤を演奏するようにリアルタイム録音ができます。さらに上方にはXYパッドがあり、フィルター、スライサー、ローラーといったリアルタイムでのパフォーマンス向けエフェクトがコントロールできます。フィルターに関してはローパス、ハイパス、バンドパスに加え、同社が販売しているOberh
eim SEM Vに搭載されているフィルターなど、計8種類の中から選択できます。フィルター・タイプはFilterボタンを数回押すことで切り替えます。スライサーではリピートやパンなどのさまざまなスライスを生成し、Rollerボタンを押しながらパッドを押せば、そのパッド音がロール再生されます。さらにメインのロータリー・エンコーダーの下にあるLoopセクションでは、2つのノブを使って、プレイ中のパターンのループ・ポイントと長さをコントロールし、リアルタイムにフィルやブレイクを作り出すことができるので、これらを駆使して通常のリズム・マシンには不可能なインパクトの強いダイナミックなライブ・パフォーマンスをすることが可能です。一番大きなロータリー・エンコーダーは、各パッドの楽器音、それらをセットにしたキット、キットとシーケンスなどをまとめたプロジェクトの選択に使用されます。

リアルで太く厚く存在感のある音
ソフト側で細かなエフェクト処理も可能


さて、ここからはLush-101の話。Audio Units/VST対応のプラグイン・タイプのソフト・シンセで、音の特徴とデザインに関してはSH-101から影響を受けているが、中身はSH-101複数台分どころか、同社の持てるノウハウをすべて投入したかのような大規模なものだ。SH-101を元に機能を拡張したオシレーターとフィルターに加え、LFOとエンベロープは各2基に増えている。さらにコーラスやディストーションなどのインサート・エフェクトとアルペジエイターを加えたものを1レイヤーとし、これを8つまで重ねることができる。各レイヤーはマスター・ミキサー(後述)でまとめるが、それぞれのレイヤーにはEQとコンプレッサーが付いており、さらに3つのセンド用エフェクトまで用意されている。それらは同社のプラグイン・エフェクトであるSilverLineシリーズのアルゴリズムが搭載されているようだ。さらに詳しく各モジュールを見ていこう。まずオシレーターは、SH-101と同じく波形をミックスしていく方式だ。矩形波、ノコギリ波、サブオシレーター、ノイズをそれぞれ加算するのはSH-101と同様だが、ノコギリ波はROLAND JP-8000と同じSuper Saw機能が追加されており、ノコギリ波を幾つも重ねた分厚いサウンドが得られる。このSuper Sawサウンドがトランス系のテクノで使われるようになって、JP-8000やラック型のJP-8080が再評価された。Super Saw的なオシレーターは他機種でも目にするようになっているが、オリジナルの分厚さというか、重なり具合はLush-101が一番よく再現されていると思った。次にフィルター。SH-101はローパス・フィルターのみだったが、Lush-101ではバンドパスとハイパスも選べるようになっている。また“SH-101”と“NORMAL”という2つのフィルター・モードをスイッチできる。余談だが“SH-101”というモード・スイッチはフィルターだけでなく、OPTION画面でエンベロープのトリガーについてもSH-101をシミュレートするかどうか選択できるようになっており、実機を忠実にシミュレートしようとする姿勢が感じられる。このフィルター・モードの違いについては実際に聴き比べて試してみたが、“SH-101”モードではレゾナンスの効きがより強くなるようだ。TB-303のようにビキビキ言わせたいときは“SH-101”の方が良いかもしれない。このモード切り替えはローパスだけでなく、バンドパス/ハイパス・フィルターでも有効となる。そしてもう1つ、フィルター・セクションの右側に独立したハイパス・フィルターも装備されている。カットオフ周波数のみをいじるだけのシンプルなものだが、このパネル・デザインはROLA
ND Jupiterシリーズを連想させる。エンベロープも充実している。LFOによるトリガーのリセットのほか、実機には無いポラリティ(極性)の変更も可能だ。またLush-101は至るところに“TRIG”と“GATE”という切り替えスイッチが付いているが、これらはモノフォニック設定時にレガートで弾いた(前の鍵盤を離す前に次の鍵盤を弾く)場合、そのモジュールへのトリガーをどうするかというもので、“TRIG”では常にトリガーされ、“GATE”のときは完全に鍵盤を離すまで次のトリガーを受け付けない。ほかのシンセではマルチ/モノトリガーなどのスイッチですべてのモジュールをコントロールすることが多いが、本機は“この辺の細かい設定で思い通りのシーケンスを作ってくれ”というこだわりが見受けられる。LFOは実機より大幅に高機能になっている。LFOレートはホストDAWのBPMにシンクさせることも可能で、通常のテンポ(100〜200BPM)なら、同じスライダー位置でもシンクさせた方がゆっくりした効果が得られるようだ。

ステップごとのゲート/タイ調整など
詳細な設定が行えるアルペジエイター


プリセットのプロジェクトを幾つか聴いてみました。ビンテージ・リズム・マシンに関しては考えられるものすべてを網羅していると言っても過言でないほどで、同社のお家芸であるTAE技術と高解像度サンプリングでかなり正確に再現されていました。それ以外にも最新のダンス・ミュージック・シーンに即したものからアコースティックなドラム・セットまで、合計100以上のキット(インストゥルメントは1,000以上!)のお陰で次々とインスピレーションが湧き出てくるようです。試奏していて気付いたのは、まず出音の太さ、厚さ、存在感です。そしてパッドをたたいたときの、ソフト音源をコントロールしているとは思えない反応の良さ。これは単体機の感覚そのものです。ベロシティ・センスもいいし、アフター・タッチ的なプレッシャー・センスも良くて、表現力が非常に豊かに感じられました。打ち込む際は、左上のトランスポート・ボタンがプレイ状態だとステップ入力、録音ボタンを押すとリアルタイム入力と、演奏を止めることなくボタン1つでシームレスに録音形式を変えていける上に、Select+録音ボタンでリアルタイム入力のクオンタイズもON/OFFでき、ノッてるうちにどんどん新しいパターンにトライしていけてとにかく楽しかったです。またコントローラーでの操作は非常にシンプルで、ライブ・プレイや直感的な音/フレーズ作りに適したインターフェースとなっているものの、その実ソフトを使い込んでいくと、かなり複雑なところまで音作りをしていくことが可能でした。サンプリングCDで有名なUEBERSCHALLやSAMPLE MAGICなどが提供するサンプル音もあるし、ユーザー自身のサンプル・ライブラリーを読み込んでオリジナルのキットを作ることも可能です。各インストゥルメントはそれぞれミキサー・チャンネルを持っていて(画面②)、チャンネルごとのインサート・エフェクト(コンプ、ディストーション、ビット・クラッシャーなど)や2系統のセンド・エフェクト(リバーブとディレイ)を駆使した音作りさえもこなしてしまいます。
 
▲画面② 1つのパターンは16個のインストゥルメントから構成されており、ミキサー画面でそれぞれのボリューム、インサート/センド・エフェクトの設定が可能となる ▲画面② 1つのパターンは16個のインストゥルメントから構成されており、ミキサー画面でそれぞれのボリューム、インサート/センド・エフェクトの設定が可能となる
ただでさえ愛着が湧くコントローラーに加え、ノート・パソコンやiPadのケースなどでよく使われるネオプレンの専用ケースも付いてたりしてガジェット感がハンパないです。ライブに限らず、ちょっとした外出の際にもノート・パソコンと一緒に持っていって、暇を見つけてはリズム・プログラミングに没頭する……そんな新しいライフ・スタイルまで見えてきそうな製品ですね。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年5月号より)
ARTURIA
Spark LE
39,900円
▪駆動形式/USBバス・パワー ▪外形寸法/284(W)×17(H)×171(D)mm ▪重量/約1kg 【REQUIREMENTS】 ▪Mac/Mac OS X 10.5以降、INTEL製2GHz以上のマルチコア・プロセッサー(PowerPC非対応)、動作フォーマット:スタンドアローン/Audio Units/VST/RTAS(AAXには近日対応) ▪Windows/Windows XP/Vista/7/8、2GHz以上のマルチコア・プロセッサー、動作フォーマット:スタンドアローン/VST/RTAS(AAXには近日対応)▪共通項目/2GB以上のRAM、2GB以上のハード・ディスク空き容量、インターネット接続環境