「ZYNAPTIQ Unveil」製品レビュー:独自技術によりリバーブ成分の増減を可能にしたプラグイン・ソフト

ZYNAPTIQUnveil
ZYNAPTIQ Unveilはリアルタイムで2ミックスの残響成分をMAP(Mixed-Signal Audio Processing)テクノロジーに基づく独自の人工知能技術によってコントロールできる、Windows/Mac対応のプラグイン・エフェクトです。普段、筆者がマスタリングの作業時に2ミックスの残響成分を調整するときは、リバーブやMSのエンコード機能を使ったサイド成分の調節でコントロールしてきました。果たしてこのプラグインがどのように働き、さらにはマスタリングの現場で使えるものなのかを検証してみましょう。

独自の5つのパラメーターを装備
FOCUSでリバーブ成分の増減が可能


テスト環境はWindowsコンピューター(INTEL Core i3 2.93GHz)にDAWソフトSTEINBERG Nuendoを立ち上げて、VSTプラグインとして試しました。インターフェースは上段左にはグラフィックEQ的な見た目のFOCUS BIAS、その隣に波形ディスプレイ、下段にはFOCUS、LOCALIZE、REFRACT、ADAPTATION、PRESENCEという5つのパラメーターのほか、ディスプレイの表示切り替えやバイパス・スイッチ、I/O DIFF(プロセス時のゲイン変化を補正)が並びます。一見すると割とシンプルで感覚的に使えそうなルックスです。インターフェースの各ポジションの動作説明に移ると、まず2ミックスのデータを再生するとディスプレイにはリアルタイムで波形が表示されますが、原音=緑/プロセス後=ピンクと色が分かれており、プロセスによってどのようなエンベロープになっているか表示されます。この表示は左下にあるDIAGRAMボタンでON/OFF操作が可能です。続いて各パラメーターの説明をしていきましょう。FOCUSは全体のプロセス量を決め、中央(ゼロ)でバイパス状態、右へ回すと徐々にリバーブが消え、左側はリバーブが増えます。ちなみにこの設定は最小か最大にしておくと、他のパラメーターの効果が分かりやすくなります。LOCALIZEは時間や周波数の定位を決める部分で、左に回すとナチュラルで、右へ回していくとアタック遅めのコンプでリリースを持ち上げたような音になり、振り切るとコンプのポンピング効果のようになりました。アタックがつぶれるイメージは無いですがリリースは持ち上がる印象で、実際に試すと音源のゲインも0.5dB程度上がったので、マスターが0dBまである音源だとひずむ可能性もあります。このパラメーターをコンプで例えるとスレッショルドですが、実際には音源のピークのどの部分からリバーブを消し始めるかという働きになるようです。

フィルター的な音色変化もなく
モヤモヤした空気感の除去も可能


REFRACTはコンプのアタック・タイムのような効果で、音源のピークに対して左に回すと早い状態でリバーブが切れ、右に回すと遅い状態……つまりアタックから少し余韻が残るような音になります。ADAPTATIONもコンプで例えるとリリースのような働きで、左から右へ回すに従ってリリース・タイムが伸びるような印象でした。一番右のPRESENCEは左から右へ回していくと広域がエンハンスされる効果で、アナログのシェルビングEQでハイを上げたようなサチュレーション感が付加されて音を派手にしてくれます。画面左上のFOCUS BIASは特定の周波数のみに効果を適用でき、見た目はグライコですがフィルター的な感じは無く、自然に各周波数の付近の効果が持ち上がる感じでした。ちなみにFOCUSパラメーターの値がゼロ(中央)時にはFOCUS BIASのみが有効になります。さらにアウトプット部分にあるI/O DIFFをONにするとプロセス音のみを聴くことができます。ここでは各パラメーターの効果をコンプに例えて説明しましたが、オフィシャル・サイトには、ダイナミクス系の処理でなく独自のプロセスとあります。確かに音の感じはダイナミクス系の処理を思わせる部分もありますが、アタックがつぶれることはないので、フィルター的な音の変化という印象はありません。この効果をどうやって作っているのかは分かりませんが、確かに各パラメーターを調整するとリバーブ感やモヤモヤした空気感を奇麗に除去でき、粒立ちの良い音にすることができます。何よりもその音がフィルターがかっていないリアルな感じに聴こえてくるのが、このプラグインの良いところだと思いました。若干難点があるとすればソフト自体の動作が割と重いところでしょう。先述の筆者のコンピューターでテストしたところ、2ミックス・データに使用した場合、24ビット/48kHzだとCPUのパフォーマンスは30%前後、24ビット/96kHzにすると倍の60%ぐらいになるので、ネイティブ環境なら2ミックスでの使用が無難でしょう。 本ソフトをマスタリング作業で使用するのではあれば、修正不可能なライブ録音のリバーブの除去、古めの音源のリマスタリングなどでモヤけ感じを消したりする場面で使えそうでした。また、録音環境によって仕方なく乗ってしまった残響音の除去などにも威力を発揮しそうです。 (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年3月号より)
ZYNAPTIQ
Unveil
オープン・プライス(市場予想価格/ 10,000円前後)
▪Mac/Mac OS Ⅹ 10.5.8以降(32/64ビット)、INTEL Core 2 Duo 2.4GHz以上のCPU、1GB以上のRAM、60MB以上のハード・ディスク空き容量、動作フォーマット:Audio Units/VST/RTAS/AAX、インターネット環境 ▪Windows/Windows XP(SP3)、Vista、7、INTEL Core 2 Duo 2.4GHz以上のCPU、1GB以上のRAM、60MB以上のハード・ディスク空き容量、動作フォーマット:VST/RTAS/AAX、インターネット環境