Windows環境で評価の高い波形編集ソフトウェアをMacに移植

SONYSound Forge Pro Mac
 Windows環境で不動の人気を誇る波形編集ソフトSONY Sound Forge ProのMac版がついにデビューします。なぜかWindowsに比べ波形編集ソフトに関しては手薄で現行製品で定番と呼べるものがないMacユーザーにとって、これはかなり大きなトピックではないでしょうか。それでは待望のSound Forge Pro Macをチェックしていきましょう。

Macに最適化した新GUIを採用
IZOTOPE製のプラグイン群も装備


プロダクションに必要な一連の作業を総合的にこなすのがDAWなのに対し、オーディオ・ファイルの不要な部分をトリミングしたり、長尺のファイルから必要な部分だけを抜き出すなど、あくまで“編集”に特化したのが波形編集ソフトです。もちろんDAWでも編集作業は行えますが、的を絞って設計されている分だけプログラムとして軽く、操作性が高いのが波形編集ソフトのメリットで、特に膨大なサウンド・ライブラリーに素早くアクセスする必要があり、音質とともに作業効率も重視しなければならない映像やゲームなどの「音効」にかかわるプロフェッショナルにとっては必需品とも言えるソフトなのです。1990年代、まだOSがWindows 3のころからそんな厳しいプロの現場で評価され続けているSound Forgeは波形編集ソフトの草分けであり、現在もその代表と言える存在です。既に固定ファンも多数いるソフトなので、Windowsと極力同じようにMacへ移植されるのだろうと勝手に想像していたのですが、そんな読みは見事に外されました。まず起動して驚いたのが、Mac OSに合わせていちから設計したという美しいユーザー・インターフェースです。Sound Forgeは見た目や操作感がWindowsらしい質実剛健なソフトというイメージが強かったので、まるでiTunesなどのAPPLE純正ソフトのようなデザインに最初は少し戸惑いました。しかし、しばらく使っているうちに戸惑いは感心に変わりました。先入観を持たず触れてみると、トラック・パッドによるスクロールや波形の表示の縦横への拡大/縮小といった頻度の高い操作が簡単にできる点など、従来の波形編集ソフトには無い直感的な操作感が気持ちよく、“最新のAPPLEソフトウェア”とも言えるような手触りがあります。また比較的シンプルな作業を長時間にわたり繰り返し行う波形編集ソフトには、全体的に柔らかい色使いでまとめた目に優しいデザインの方が適しているように感じました。このように波形編集画面を中心に、ファイル・ブラウザーやプロパティ、メーターなど必要なパネルを自由にレイアウトできるユーザー・インターフェースと、先述したトラック・パッドやマウス・ホイールにうまく割り当てられた各種機能により、波形編集で一番重要な“目的の範囲をスムーズに選択する”という作業がストレス無く実行でき、必要な処理を迅速に行えます。波形編集に関しては、バージョン1のソフトフェアとは思えないほどの完成度です。波形編集ソフトに求められるもう一つの大事な機能として、オーディオの精密な調整があります。うっかり入ってしまったノイズやレコード針音の除去、経年変化で劣化してしまったカセット・テープの音質改善などの修復/復元作業もそれに含まれ、そのために本ソフトにはIZOTOPEのマスタリング/リペア&レストア用のプラグイン・スイートがバンドルされています。マスタリング用プラグインはマルチバンド・コンプやEQはもちろんのこと、リバーブや4つの帯域で位相を調整できるステレオ・イメージング・モジュールなど6種類を用意。Mastering Exciter(画面①)はMSモードが用意されたマルチバンド・エキサイターで、アナログ・テープっぽい穏やかなサチュレーションから派手なエキサイター効果まで積極的なサウンド・メイクが可能です。Declipper-ga2画面① Sound Forge Pro MacにはOzone 5などプロにも信頼の厚いIZOTOPEによるプラグイン・スイートが付属。Mastering Exciterは4バンド仕様のエキサイターで、各クロスオーバー周波数を調整できるほか、Retro/Tape/Tube/Warmという4つの動作モードを備えるリペア&レストア用のプラグインは、修復ツールとして定評があるIZOTOPE RX2から選抜された3種類で、Declickerはレコードの針音やクリック系のノイズ用、Denoiserはテープ・ヒスやモーターなどのバックグラウンド・ノイズ用、Decl
ipperはオーバーロードによるひずんだ部分を取り除くツールです。3種類ともかなりよくできており、あらためて最近のリペア&レストア・ツールの優秀さを再認識しました。中でも特に重宝しそうなのが、アナログのレベル・オーバーによるひずみだけでなくデジタル・クリッピングまで修復するというDeclipperです(面②)。せっかくの良いテイクが録音レベルの設定ミスで部分的にひずんでしまったということは誰しも経験があると思います。さまざまなケースがあるので、すべてが魔法のように元通りになるとは言いませんが、これまでだったらあきらめるしかなかった症状がかなり改善されます。これらの高品位なリペア&レストア用のプラグインがバンドルされているというだけで、十分“買い”ではないでしょうか。Mastering Exciter-ga1画面② IZOTOPE RX2より移植されたDeclipperは、オーディオ・ファイルに含まれる“ひずみ成分”を除去するプラグイン。スレッショルドとアウトプット・ゲインを調整するだけのシンプルなインターフェースで、アナログのひずみからデジタル・クリップまでを精度高くクリーンにする

タイム・ストレッチやビット・レート変換も
音質変化が少なく高品位な処理が可能


Sound Forge Pro Macのエフェクト処理に関しては2つの方式があります。1つはDAWのミキサーなどで行われているリアルタイム処理です。そのメリットとしてはレンダリングするまでいつでもパラメーターを変更可能なのと、CPUが許す限り複数のプラグインを使用できること。先ほど紹介したIZOTOPEのプラグインはすべてこのタイプです。もう1つは“Processes”と呼ばれる波形を書き換える方式です。リアルタイム処理できるプラグインはこのProcessesでも使用できますが、リアルタイム処理に比べ複雑な計算を要するProcesses専用のプラグインも幾つかあります。ZPLANEの高品位なタイム・ストレッチ・プラグインElastique Timestretchもその1つ。テンポを半分に落としても、一昔前だったら信じられないほどのクオリティで処理してくれるこのプラグインが使えることは、単なるエフェクト処理を超えた素材の再構築がSound Forgeで可能なことを意味するのではないでしょうか。実は筆者が一番気に入ったのは、少々地味ですがサンプル・レート変換用のIZOTOPE 64-Bit SRCと、ビット・デプス変換用のIZOTOPE MBIT+DitherというProcesses専用の2プラグインです。サンプリング・レートにしてもビット・デプスにしても、ダウン・コンバートした際の音質変化にはいつも悩まされるのですが、これらのコンバーターはかなり高品位な処理が可能で、とても良い印象を持ちました。特にIZOTOPE 64-Bit SRCはパラメーターを細かく設定できるモードもあるので、素材に応じて最良のセッティングを追い込めます(画面③)。iZotope 64-bit SRC-ga3画面③ サンプル・レート変換時に使用するIZOTOPE 64-Bit SRC。変換時の音質変化が少ない高精度のコンバートが可能で、マスタリング時にも大きな威力を発揮するだろう。“Cutoff Scaring”“Alias Suppression”など詳細なパラメーター設定も可能なお複数のプラグインの接続順序とパラメーターの設定を保存できる“Plug-In Chain”という便利な機能があるのですが、これに対応しているのはリアルタイム処理用(ほとんどのプラグインがそう)のみです。また肝心なソフト自身の持つサウンド・キャラクターがプレーンなものなので、エフェクトなどの音質変化がつかみやすいのも大事なポイントでしょう。Sound Forge Pro Macは単なる波形編集ソフトではなく、最高64ビット/192kHzの解像度という高いポテンシャルを持ったレコーダーでもあります。素材やミックス・ダウンしたマスター・ファイルを録音するレコーディング・ソフトとして十分なスペックです。先々のフォーマットの変化に対応するためにも、素材やマスターは極力情報量が多い状態で残しておき、状況やその時のニーズに応じて高品位なコンバーターで変換しファイルを書き出すという使用法は、今後の主流になっていくような予感がします。このように、Sound Forge Pro Macの操作性やサウンド・クオリティはとても満足できるものですが、幾つか残念な点もあります。それはバッチ処理とAcidized WAVの作成機能がこのバージョンには搭載されなかった点です。特にWind
ows版のSound Forge Proがプロフェッショナルに支持される大きな理由が、複数のファイルに同じエフェクトとプロセスを適用し、繰り返し同じ作業を自動的に実行できる高度なバッチ処理なので、次のバージョン・アップにはぜひとも期待したいところです。 WindowsのGUIや操作環境をそのまま移植しなかったことに対しては、既にSound Forgeに慣れ親しんでいたユーザーにとっては違和感を覚えるところも多少あるでしょう。しかし、この先Macという新たな環境で新規のユーザーも得ながらソフトとして成熟させていくことを考えると、基本的な部分は継承しながらも大胆なデザイン変更に踏み切った思い切りの良い判断を支持したいと思います。Sound Forge Pro Macはオ−ディオ・ファイルのコンディションを整えたり、自分の創作意欲を刺激してくれる素材を作るためのツールとして、またレコーダーとしても非常に高いポテンシャルを持ったソフトです。サンプラーやオーディオ・ファイルの切り張りに重点を置くクリエイターは、ぜひ一度自分のワークフローの中にSound Forge Pro Macを組み込んでみることをお勧めします。(サウンド&レコーディング・マガジン 2013年3月号より)
SONY
Sound Forge Pro Mac
33,600円
●量子化ビット数/24ビット サンプリング・レート/44.1/48/88.2/96/192 kHz ●周波数特性/10Hz〜20kHz ●ダイナミック・レンジ/115dB(アナログ入力)、113dB(アナログ出力)  ●外形寸法/92(W)×137(H)×26(D)mm ●重量/268g(実測値)

▪Mac/Mac OS X 10.4以上、256MB以上のR AM(512MB以上を推奨) ▪Windows/Windows XP/Vista/7(32/64ビット)、256MB以上のRAM(512MB以上を推奨)