−15dBのPADや100Hzのローカット
3種類の指向性切り替え機能を装備
そもそも、MA-301FETは基本性能と音質、そしてコスト・パフォーマンスの高さから好評を博した同社MA-201FETを基に開発されたマイク。まずはその外観を見ていこう。ボディ全体を覆うマット・ブラックの塗装にはブランド名などが白く刻印されており、非常に精悍(せいかん)なたたずまいとなっている。同社のコンデンサー・マイクには、内蔵プリアンプにFET/真空管を使ったものがそれぞれ存在しているが、MA-301FETのようにFET型のマイクはグリルがブラックに塗装されており、真空管型と一目で見分けが付く。本機の外形寸法は50(φ)×約160(H)mmとなっており、スタジオでよく使われるコンデンサー・マイクNEUMANN U87を一回り小さくしたようなサイズだが、手にしてみるとズッシリとした重量感に驚かされる。ボディには適度な厚みがあり、とてもしっかりとしている上、−15dBのPADや100Hzのハイパス・フィルター、指向性切り替え(無/単一/双)など各種スイッチ類の使用感も良く、作りの良さが凝縮されている印象だ。付属品のショック・マウントも頑丈に作られており、最近トレンドとなっている大きめのレバーによって可動部がキッチリと締められるなど、大変使いやすい設計となっている。内部はシンプルな回路構成でありながら、金の薄膜を付着させた直径1インチ/薄さ3ミクロンのダイアフラムやJENSEN製のトランス、ミリタリー・グレードのFETなど厳選されたパーツが採用されており、高いサウンド・クオリティを実現しているという。資料で各種スペックを眺めると突出した部分は見受けられず、平均的な数値が並んでいるのだが、奇をてらうことなくオーソドックスな基本設計を軸にしながら性能向上に努めようという姿勢が随所に感じられる。
低域がもたつきにくく中域は明りょう
アンサンブルの中で映える音質
さて、ここからはその努力が実を結んでいるかどうか、レコーディングに使ってみよう。まずはアコギの収音から。MA-301FETをAPIのマイクプリ512Cに接続し、強弱を付けたコード・ストロークやアルペジオを録音してみる。録り音を聴いてみると低域のもたつきが少なく、音の芯となる中域にコシがありながらもヌケの悪い"詰まった"部分は皆無。高域については、ここ10年ほどの間に発表されたマイクにありがちな嫌なギラつきが感じらない。全体的に派手さは無いものの、伸びやかで非常にクリアな印象だ。ただし、極めて自然なサウンドというよりは、明確な狙いに基づいて綿密にチューニングされたような"作り込まれたナチュラルさ"を感じる。これは決して批判ではなく、収めた音が最終的にアンサンブルの中で際立つよう設計されているという意味であり、録音後にあれこれと強引な処理を施す必要が無いことを指している。そういった部分でも、使い勝手の良いマイクと言えるだろう。さらに注目したいのが、そのレスポンスの良さ。弱い音は弱く、強い音はそのまま強く......という風に、演奏のダイナミクスをリアルにとらえてくれるのだ。この特性は、今回チェックできなかったアコースティック・ピアノやドラムのオーバーヘッドなどとの相性の良さにつながると思う。次に男性ボーカルでチェック。録り音を確認してみると、アコギ収音で得られたものと同じく繊細かつ明りょう度の高いサウンドは、オケの中でボーカルを際立たせるのに一役買っている。MOJAVE AUDIOは、MA-301FETとほぼ同じ仕様の真空管マイクMA-300を手掛けているが、それを使えば、よりウォーム&ファットな録り音を得られるのかどうか試してみたいものだ。最後に、高い音圧を持つソースということでベース・アンプの音を録ってみる。−15dBのPADをONにしてスピーカー・キャビネットに近づけると、しっかりとした近接効果が得られるものの、その録り音はブーミーになり過ぎることのない比較的素直な音像となった。
前半で述べた通り、MA-201FETをベースに開発されたMA-301FET。MA-201FETが持つ性能の高さをキープしつつ、PAD/ハイパス・フィルター/指向性の切り替えという3つの機能を追加したことで、さまざまなソースに対応し、表現の可能性を広げている。プロのレコーディング現場ではもちろん、自宅録音にもその実力を大いに発揮してくれるだろう。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2012年8月号より)