DJソフトTraktorの新機能=Remix Deck対応コントローラー

NATIVE INSTRUMENTSTraktor Kontrol F1
NATIVE INSTRUMENTS Traktorのアドオン・コントローラーとして発売されたTraktor Kontrol F1(以下F1)。まず本品を手にすると、外箱には驚くほど丁寧に製品の各機能解説が印刷されている。箱から出すと、F1はカラフルなおもちゃのように見える多くのパッド、4本のフェーダーと4つのフィルター・ノブから成る。その外観に違和感を覚えるDJもいるかもしれないが、実際に使い込むうちに、F1がどれだけ機能的で視認性に優れているか、そして音楽の表現を広げる革新的なツールだと認識できるはずだ。

Traktor Pro 2.5のRemix Deckに
完全対応したパネル・レイアウト


F1は、同梱される同社のDJソフトウェアTraktor Pro 2.5の新機能Remix Deckに対応したアドオン・コントローラーで、同社のX1やS2、S4をはじめとしたTraktorコントローラーとの併用を想定して設計されている。筆者のテスト環境は、APPLE MacBook Pro/INTEL Core i7 2.5GHzで、OSは10.7.4、RAMは16GBで、DJ用音源はFireWire800による外付けハード・ディスクに収納。Traktorのコントローラーとオーディオ・インターフェースには同社Traktor Kontrol S4(以下S4)を使用した。F1をAPPLE Macで使用する場合はドライバーも不要でUSB接続するだけ。Traktor Pro 2.5も簡単にインストールできた(筆者の場合Traktor Pro 2からの無償バージョン・アップ)。Traktorの動作はさらに安定したようで、プレイ中のフリーズやアップデート時のトラブルも無くなっている。さて、この環境が生み出す新たな世界はいかなるものか? マニュアルを読み進めながら、操作を開始してみた。まずはTraktor Pro 2.5の新機能としてうたわれているRemix Deckだが、これは任意のサンプルをアサインして、DJプレイに組み込める機能だ。普通に音楽をプレイする際のTrack DeckをRemix Deckに切り替えるのだが、その操作はTraktor画面の各デッキにABCDと書かれた部分をクリックする(画面①)。Remix Deckモードの画面で現れるのが4つのSample Slot(画面②)で、各スロットにそれぞれ16個のサンプルを格納でき、最大で64個のサンプルをロードできる(各Sample Slotに対して使用可能なサンプルは1つのみ)。ちなみに各Sample Slotの設定は1つのRemix Setとして保存できる。また4つのデッキすべてをRemix Deckに設定して、F1を4台接続すれば、16chのサンプル・コントローラーとしても使用可能だ。また、S4を併用すれば各Remix Deckから同時に出力される4つのサンプルをグループ化してミックスすることもできる。

▼画面① Traktorのデッキを通常のTrackDeckからRemix Deckに切り替えるにはデッキ名が表示される部分をクリックすると、上の画面が出るので、ここから選択する



▼画面② Remix Deckの全容画面。中央部に並ぶ4つの枠がSample Slotで、各Slotに対して最大で16個のサンプルをアサインできる。Sample Slot内に表示されるファイル名左のカラー・アイコンとF1のパッドは色が同期しているので、プレイする際の視認性も高い。また、各サンプルは個別にトリガー、プレイ、ループ再生が可能となるほか、各設定はRemix Setに保存できる



視認性に優れた16個の発光型パッドは
Sample Deckのカラー・アイコンと同期


それでは実際にRemix Deckにサンプルを読み込んで音を出してみたい。NATIVE INSTRUMENTSのサイトには、無料でダウンロードできる21のRemix Setがある。このセットはテクノからチルアウトまでを網羅し、その容量は1.4GBに及ぶ。これらをすべてダウンロードして、それらをTrack Collectionに新設されたAll RemixSetsフォルダーにドラッグ&ドロップすれば、Traktorへのインポートは完了だ(画面③)。

▶画面③ TraktorのTrack Collection画面。Remix SetをAll Remix Setsフォルダーにドラッグ&ドロップすればインポートは完了


その中にTechnoと表記されたセットを発見してロードを試みた。サンプルを読み込むにはF1のBROWSEパッドをたたいて青く点滅させる。既にAll Remix Setsフォルダーが選択されていれば、その上のエンコーダー・ノブを回し、ここではGravityと書かれたセットを選択してノブを押すと、Aデッキの各スロットにサンプルを読み込める。またSHIFTパッドを押しながらノブを回せば、フォルダーの移動も可能だ。BROWSEパッドをもう一度押すとプレイ・モードに戻り、演奏可能な状態になる。この段階で16個のパッドは16色に光り、キックなら赤、ハイハットなら黄色、エフェクトは青というように、用途に合わせて各パッドの色も設定できる。DJであればまず最初にキックを出したくなるもの。F1に並ぶ16個のパッドの左上がオレンジ色に発光していて、1つ目のSample SlotにアサインされたA1 Solo Lightというサンプル・ネーム左のアイコンと同じ色であることに気付いた。これによってサンプルの把握もしやすく、視認性にも優れて非常にプレイしやすい。ここでオレンジのパッドをたたくと、2小節パターンのキックが鳴り始める。BPMは127で、S4のピッチ・コントローラーを使えばテンポは簡単に変更できる。次のサンプルを聴くため、すぐ下の濃いオレンジ色のパッドをたたくと、キックとベースがミックスされたLightK+Bassに切り替わる。このときにQUANTパッドを点灯させておけば、たたいたタイミングがクオンタイズされ、奇麗なタイミングでサンプルが切り替わる。切り替わるタイミングの調節ももちろん可能。QUANTパッドを押しながらエンコーダー・ノブを回せば、ビート単位での設定もできる。仮に4とすれば、次の1小節の1拍目でサンプルが切り替わる。こうして1つ目のSample Slotにロードされたサンプルを試聴。この段階でエンコーダー・ノブの左側にある2文字のパネルはP1を表示しているが、時計回りにヒネるとP2と表示が変わり、同時にTraktorにロードされるサンプルが2つ目のSample Slotに移る。この段階でF1とRemixDeckの機能の概要が想像できた。続いてキックに音を重ねてみようという気になるのだ。

滑らかなカーブのフェーダー
簡単にブレイクを作れるMUTEパッド


続いて2つ目のSlotにあるグリーンのアイコンで表示されたSolo Clapのパッドをたたくとクラップが重なり、ビートの原型がほぼ完成する。クラップ音が大きく感じたら、縦フェーダー式のボリュームを下げればOK。フェーダーのタッチは重量感があり、滑らかなカーブも必要十分だ。また、一番上にあるフィルター・ノブはシンプルなフィルターだが効きは強烈。右に目いっぱい回せば、キックなどのかすかなアタック音だけを残して消滅する。なおフィルターはTraktorの初期設定に依存するので、レゾナンスの効いたLadderと素直なXoneを選択できる(画面④)。

▼画面④ フィルターの設定はTraktorの設定(Preference)から行う上の画面のFilter SectionよりXone、Ladderの2種類から選択が可能。Xoneは素直な特性でLadderはレゾナンスの効いたキャラクターを持つ


続いてシンセ・リフを重ねるため、3つ目のSample SlotにあるLead Echoをたたく。このサンプルは8小節パターンだが、Traktorのビート・グリッド機能によって見事なタイミングでビートに同期する。この段階で"1つのトラック"が鳴っているのに等しい。F1の最下段にあるオレンジ色のパッドはMUTEで、キックを抜きたいときにたたけば、簡単にブレイクを作ることもできる。ミュート中もサンプルの再生は続いているので、長尺のサンプルでも任意の場所でMuteを解除すれば、出音に表情を付けることが可能だ。続いてAデッキに設定したRemix Deckに合わせて、Bデッキに手持ちの曲をロードしてプレイしてみる。A、BデッキともSYNCを点灯させておけばテンポも自動的に合うため、"マッシュアップ"されたような新しい音楽が鳴らすことができた。Aデッキにはワン・ショットのサウンド・エフェクトもロードされているので、これを時折重ねれば、これはもう明らかにリミックスの域に達していると言えるだろう。さらにRemix SetにDrums and Beatboxを選択してみた。これはすべてワン・ショット・サンプルで構成されるドラム・キットで、各パッドをたたけば、F1がAKAI PROFESSIONAL MPCになったかのよう(ベロシティには未対応)だ。さて、F1を操作する初期段階を簡単に書いてみたが、サンプルのスクラッチやリバース再生、音程変更など、紹介できなかった機能が搭載されているため、秘めたるポテンシャルは計り知れない。また、本機はMIDIコントローラーとしても機能するので、楽曲制作にも重宝するだろう。筆者は早速、自身のトラック「Was it a Dream?」をバラしてRemix Setを構築し、麻布十番のクラブWAREHOUSE702で開催されたイベントでテストを行った。その使用感は確かなもので、F1によるDJとライブの垣根を越えたパフォーマンスは、今後自身のツアーでも展開するつもりだ。ぜひこのツールを使って、次世代のクラブ・ミュージックをフロアに投入してほしい。

サウンド&レコーディング・マガジン 2012年8月号より)

撮影/川村容一

NATIVE INSTRUMENTS
Traktor Kontrol F1
26,800円
▪外形寸法/120(W)×52(H)×294(D)mm▪重量/730g

▪Mac/Mac OS X 10.6または10.7、INTEL Core 2 Duo以上、2GB以上のRAM(4GBを推奨)、1,024×768のモニター解像度、USB2.0、1GB以上のハード・ディスク空き容量、ハイスピード・インターネット接続▪Windows/Windows 7(最新のService Pack32/64ビット)、2GHz以上のINTEL Core 2 DuoまたはAMD Athlon 64 X2、2GB以上のRAM(4GBを推奨)、1,024×768のモニター解像度、USB2.0、1GB以上のハード・ディスク空き容量、ハイスピード・インターネット接続