ストリングス・シンセサイザーの名機11モデルの音色を収めた音源

UVIString Machines
UVI SoundcardシリーズはフランスのUVIがリリースしている大容量サンプリング音源です。ドラムやベースなどの定番系以外に、ちょっと変わった音源をラインナップするユニークなメーカーである彼らの新作は、1970年代に流行したストリングス・シンセ系音源を一同にそろえたString Machinesです。早速レビューしましょう。

ストリングス・シンセの代表機を網羅
生々しい質感のサウンド特性


1970年代中期から末期にかけて、オーケストラの弦楽隊の代用ができるストリングス・シンセが流行しました。その中身は電子オルガンをEQで強引に加工したような構造なので、シンセのような複雑な音作りはできず、プリセットで音を切り替えて音量のエンベロープを調整できる程度のモデルがほとんどでした。それでも当時の電子楽器としては珍しく和音が出せたり、その独特のサウンドにより多方面から人気を得ていました。しかし1980年代に入ると、SEQUENTIAL Prophet-5のようなポリフォニック・シンセで作った、よりリアルなストリングス・サウンドが登場し、これらのシンセは急速に廃れていきます。それでもアナログのリズム・マシンのように、本物とは違うけど独特の響きがあるため、最新のテクノロジーと組み合せて新たな音源として生まれ変わらせた。それがこのライブラリーの全容と言えるでしょう。前置きが長くなりました。String Machines(以下SM)を鳴らすには付属のUVI Workstationを使います。スタンドアローンあるいはVST/Audio Units/RTAS AAXに対応し、またMOTU Mach Five 3ユーザーならコンパチブルで読み込めます(※2017年3月現在はFalcon/UVI Workstation上で動作する)。音色でまず驚いたのは収録モデルが11種類に及ぶこと。筆者の知る限りは当時活躍した代表的なモデルが、すべてそろっていると言っても過言ではないと思います。これらのモデルを紹介すると、当時一番人気だったARP Solina String Ensembleはほかの音色とは一線を画すものでした。収録パッチもほかに比べて多く、主力音源に位置付けられるようです。ちなみに本ソフトのパネル・デザインもSolina String Ensembleを模倣しています。国産機だとROLAND RS-505とVP-330、KORGPE-2000、YAMAHA SS30と定番どころ。加えてEKO StradivariusやARP Siel Orchestra、LOGAN String Melody、CRUMAR Performerなどの希少モデルは筆者も初めて聴くものばかり。音色はどれも生々しい質感が良好です。ちなみにこれらの音源は24ビット/96kHzでサンプリングしたものを、最終的に16ビット/44.1kHzにダウン・コンバートすることで軽快な動作を実現しています。おかげで音色チェンジも瞬時に行え、ライブでも使えるのはうれしいポイントです。
 

2種類の音色を組み合わせることで
幅広い音色作りが可能


SMの基本構造は、1つのパネル上に2つのレイヤーがあるので2種類の音がロードできます。単に1つの楽器の音として使う場合、片方に音をロードして音色(バイオリンやチェロ)を選択するだけ。パネル中央にはアンプとフィルターのエンベロープが左右に配置され、カットオフやレゾナンスも装備。その下はピッチやグライドで、発音ごとにパンニングさせたり、最下段のモジュレーション・ホイールでカットオフの設定、さらにフェイザー、ディレイ、リバーブを独立設定できるエフェクトがスタンバイ。ここまでが1つのレイヤーに対して用意されるパラメーターです。これらを駆使すればオリジナルの音源から大きくかけ離れた音色も出せるわけですが、もう1つのレイヤーに別の音色をロードすれば、さらにディープな音作りが可能です。ここで特筆すべきはスピーディな編集が行えるパネル・デザイン。A/B個別なのか同時なのかをボタン1つで瞬時に切り替えられるのは良いアイディアだと思いました。このパネルを裏側にするとステップ・モジュレーターが現れ、音量とフィルター・カットオフに対してリズミカルな変調をかけることができます。こちらも各レイヤーを個別に対象にすることができますし、ホストとのテンポ同期、分解能やステップ数も細かく指定できるので、良い意味でスクエアなものからナチュラルなものまでユーザーに合わせた変調が楽しめます。ステップと言えば、UVI Workstationにはステップ・シーケンサーが付属します。これが大変よくできていて、ステップ数の増減や各ステップの連携、デュレーションの変化、グルーブ・アマウントなど、多くのパラメーターが用意されています。そのため小さなパターンを複雑なフレーズに発展させて遊んでいると......あっという間に時間が過ぎてしまいます。UVI Workstationはマルチティンバーなので、別のライブラリーを追加したり、自分でサンプリングしたネタを加えられるので、DAWを使わずにUVI Workstationだけで完結させるのもアリです。というわけで、昔ながらのストリングス・シンセ楽器として使うも良し、率先してシンセサイズして新たな音世界を構築するも良しと、見た目以上に奥行きの深いソフトだと感じました。link-bnr3サウンド&レコーディング・マガジン 2012年8月号より)