アタック・タイムは豊富な9段階切り替え
SSL的な"Auto Release"も搭載
まずは外観。シンプルで業務機らしさが漂っているのですが、細部の仕上げは良い意味でラフさも見られます。現代のコンプにしてはパラメーターが少なく、取っ付きやすくまとまっています。普段コンプを使い慣れている人ならすぐに使い始められるでしょう。
スレッショルドは±20dBあり、ある程度レベルの入った音源でも設定しやすくなっています。レシオは1.5:1/2:1/4:1/10:1/Hardの5段階から圧縮比を選択。アタック・タイムはUltra Fast/0.1/0.3/0.6/1/3/10/30/60/120msの9段階切り替え。続くリリース・タイムは50ms/100ms/300ms/600ms/1.2s/Auto Releaseと6段階の切り替えが可能です。豊富なアタック・タイムの選択肢やSSLを意識したであろうAuto Releaseが特徴的です。一番右のブレンド・コントロールは原音とコンプレッションされたサウンドをブレンドして出力できる機能で、もともとパラってコンソールで混ぜていたことを本機1台でできるようにしたものです。ブレンド・コントロールのところに装備されたスイッチを押すと、原音をミュート可能です。ほかにもサイド・チェイン入力などもありますが、その辺りは追って触れていきましょう。
ひずみが少なくワイド・レンジ
どんな設定でもパンチを感じるサウンド
まずはアナログ・コンソールのミックス・バスに本機をインサートしてみます。音源は生のリズム・トラックにアコギを重ねた男性ボーカルもので、ここで使用したコンソールはSSL AWS900。AVIDPro Toolsからの24chほどのパラアウトをAWS900でラフにミックスした状態で試聴しました。
サウンドの第一印象は非常にクリーン。クリアと言った方が適切でしょうか。レシオを2:1に設定して結構リダクションしている状態でも、詰まった感じやひずみも少なく、クリアでオープンな高域とパンチのある低域を聴かせてくれます。ボーカルの存在感もありつつ、キックとスネアが張り出してきて、ベースがしっかりボトムを支えています。L/Rに振られたアコギの広がりや張り出し具合も心地良く、音像も大きく聴かせてくれます。SSL的なまとまりの良さもあるのですが、よりクリアでレンジが広い印象です。またアタック遅め/リリース速めに設定すると、ドラムのアタックが強調されて非常にパンチのあるサウンドにすることができました。かなりコンプレッションしても不自然さの少ないナチュラルなサウンドです。リリースは最も速い設定で50msなのですが、聴感上はもう少し速めに感じます。
続いてドラムのバス・トラックに挿してみます。アタックを"Ultra Fast"に設定してつぶしきったクラッシュ・サウンド、スネアが前面に張り付くようなタイトなコンプ、ゴースト・ノートを持ち上げたグルーブ重視のコンプまでさまざまな設定が可能ですが、すべての設定で共通しているのはクリアでひずみが少ないことと、いかなる設定にしてもパンチが効いているという2点。そんなところからも、ポップスやロックには最高の相性です。
本機はアタック/リリース・タイム、そしてレシオの組み合わせで音色や動作が結構変化するので、幅広い設定が可能。ですから必ず楽曲に合う設定が見つかるはずですが、設定が細かくできる分、その設定にたどり着くまでが簡単ではないかもしれません。操作はシンプルですが、なかなか奥の深いコンプだと言えるでしょう。また最近多くのコンプに搭載され、すっかりおなじみとなったサイド・チェインのハイパス・フィルター(サイド・チェイン信号の150Hz以下をカット)も搭載され、強めのコンプレッション時にも低域へのコンプのかかり過ぎを避られるので便利です。
本機のクリアな音質とパンチ感は、定番プロ機のテイストと現代の機材らしさがブレンドされた個性的なキャラクター。また、プロ機ということを考えれば驚くほど安い価格もポイントです。それらを踏まえてあえて希望を言えば、Comp In/Out、サイド・チェイン関係のスイッチをLED表示化して視認性が高まればなお良いという点と、スイッチのオン/オフのストロークにもう少し厚さを持たせ、オンになっているかオフになっているかが分かりやすくなればいいなと感じました。エフェクト音とドライ音を聴き比べるためのComp In/Outは非常に重要で、遠目からでも一目りょう然にすることで、プロの現場での使いやすさは格段に向上します。"MK2"ということで初代から改良がなされているようなので、今後のさらなるバージョン・アップにも期待したいところです。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2012年4月号より)