計250Wの出力パワーは旧型の倍
ヒップホップなどに向く気持ち良い低域
箱から取り出すと、サイズ、重量共に最近の各社のニアフィールド・モニターよりも一回り大きい。ルックスは旧型の20/20と似ているが、角が丸くなり、全体に樹脂塗装が成されているのが違うところ。電源を入れると、前面パネルの左下にある"EVENT"の文字がオレンジ色に点灯する。ボディ/スピーカー共に黒一色のカラーリングで、存在感がある。リア・パネルのツマミはゲインとハイ/ローのシェルビングEQ(それぞれ2kHz以上と400Hz以下)の3つだけで、入力もリア・パネルにXLRのバランス入力だけ、というシンプルな作りだ。
早速、音を聴いてみた。まず、音が大きい。ピーク時250Wで旧型の20/20の倍の出力があるというアンプはさすがで、プライベート・スタジオでこれ以上は出さないだろうというところまで音量を上げても音が全くつぶれない。"高出力/低ディストーション"とカタログでうたわれている通りだ。
さまざまなジャンルの音源を試していくと、ヒップホップやクラブ系のサウンドでの低音が気持ち良い。苦労して低音を作っているのではなく、ポリプロピレンが採用された7.1インチのウーファーが余裕で鳴っているイメージだ。アメリカのヒップホップ・アーティストたちに好まれた20/20のサウンドの特徴はしっかりと引き継がれている。またツィーターは1インチのシルク・ドーム・タイプ。周波数特性は35Hz~20kHzとなっていて、実際にサイン波で試してみると、40Hzまではしっかり聴き取れる。またハイエンドも優秀で、ジャズのシンバル・レガートや、クラシックの弦のこすれなども奇麗に聴き取れる。中域から高域への音のつながりが自然で、ウーファーとツィーターの音色に落差が無い。高域に特別な派手さは感じられないが、音質に余計な飾りが無いのにはとても好感が持てる。
フロント・ポート方式(フロント・パネルにバスレフ・ポートがある)なので、リア・ポート式のスピーカーほど設置場所にシビアになる必要はないが、しっかりとした土台の上に、左右の適度な距離を保って設置したい。もしも低域や中域で音がたまっているように感じたら、EQで調整する前に設置する位置と角度を調整した方がいいだろう。
音作りがしやすい音像と定位感
特に中域の音が正確に聴き取れる
実際にDAW環境で制作に使ってみた。まず、打ち込みでリズムを作っていくのはとても楽しい。音量を下げめにしていても低音がしっかりと感じられるので、長時間の作業にも向いている。また、アコースティック・ギターやボーカルの録音でも、定位がしっかりしていて音像が近く感じられ、音作りがやりやすい。作業しているうちに気が付いたのだが、中域に飾りが無く、録音したそのままの音で再生されるニュアンスはYAMAHANS-10Mに似ている。本機は音の大きさや低音の魅力が語られることが多いだろうが、音楽制作の上ではボーカルの録音に使いやすいということが最大のメリットかもしれない。ボーカルの中心となる中域の音が正確に聴き取れるので、音程のわずかな揺れや声の状態の違いが手に取るように分かるのだ。
さらに定位の良さは、音の前後感の判別、エフェクトの乗り具合や、リバーブの見えやすさなどにもつながっている。全般に、制作にはとても適したスピーカーで、ストレスが非常に少ない。
パワーがあることから、録音スタジオやカフェ・クラスのライブなどにはもちろん向いている。また、小音量でもちゃんと低域から高域まで再生してくれるので、小規模のホーム・スタジオにも使える(ただし、設置スペースを十分に取ることが重要)。この価格帯でこれだけのパフォーマンスとは正直驚いた。ぜひ店頭で音を確認してほしい。コスト・パフォーマンスは非常に高い。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2012年4月号より)