
たくさんのツマミやスイッチを配しながら
操作がしやすいパネル・レイアウト
本機は2Uサイズで、白っぽく(淡いグレーとでも言いましょうか)厚みのあるフロント・パネルには各ツマミとスイッチが紺色の文字で分かりやすく表示されています。ツマミはつや消しの紺、白、赤とセンスの良い配色で、洗練された現代的なデザインが好印象。リア・パネルにはCHANNELA/Bの入出力(XLR)とサイド・チェイン・インサートのセンド/リターン(フォーン)があります。さらに3ピンの電源コネクターは100V~240Vのユニバーサル電源で、グランドリフト・スイッチも付いています。フロント・パネルにはアタック(20~80ms)、リリース(0.1~3s)、レシオ(1:1~40:1)、スレッショルド(−30~+20dB)と、コンプ・モード切り替えスイッチ(RMS/Peak)がCHANNEL A/Bの2ch分あります。各ツマミは回すとクリック感があり、長さもあるのでつまみやすく、ストレス無く作業できます。スイッチはすべて自照式で視認性も良好。ほかにもさまざまなスイッチがあるので、使いながら見ていきたいと思います。
今回は、私がミックスしたものでトータル・コンプをかけていない素材がありましたので、それでチェックしてみました。まずCHANNEL A/Bをステレオ・リンクさせ、ステレオ・コンプとして使用。コンプ・モードはRMS(アタック/リリースを合わせたRMS信号に適応されるモード)に設定しました。音色は他のPorticoシリーズとほぼ同じ印象で、ソフト・ニー系で自然な感じ。アタック遅め、リリース速め、レシオ低めに設定すると、音楽的に音量感が上がって良かったです。
次にモードをPeak(ピーク値に反応するアタック・タイムが約0.1msに設定されるモード)に切り替え、アタック速め、リリース遅め、レシオ高めの設定に。少しハード・ニー系の音色になり、パンチが効くようになります。同じ音量感の素材でも、より音量を突っ込みたい場合はRMSよりもPeakの方が良さそう。また本機には、FF/FB切り替えスイッチがあります。これは音色を切り替えるもので、FFがコンプらしい音色変化、FBが自然な音色変化になり、RMS/Peakどちらのモードでも使えます。さらに倍音を調整できるTextureツマミがあり、Silkスイッチをブルーにすると中低音、レッドにすると中高音の倍音に適応され、右に回すと倍音が増えていきます。音楽的に強力に効くので、本機のセールス・ポイントとなるでしょう。私はブルーにしたときがお気に入りで、本機を使うときは必ずと言っていいほどこのスイッチを使用することになると思います。
信号をミッドとサイドの成分に分け
任意の帯域にのみコンプをかけられる
さて本機には、まだ便利なスイッチがあります。SC HPFスイッチをオンにすると250Hz以下の信号がコンプをバイパスするようになり、低音がコンプに引っかかるのを防げます。250Hzは音楽的においしい周波数なので、ぜひ試してみてください。ほかにはBlend(元音とコンプ音のミックス・ボリュームを調整できます)とLimit(かけてもつぶれる感じがあまりありません)というツマミがあり、聴感上のボリュームを自然に上げたいときにBlendツマミを少し左にしてダイレクト音を足し、Limitツマミを軽くかかるポイントに調整すればうまくボリュームが上がります。
次に、パネル右側のSFEセクションについて。これは近年マスタリングで流行しているMS処理と同じで、Depthがミッド、Widthがサイドのコントロールとなり、それぞれのボタンを押せばMSのバランス調整が可能。またDepthとWidthには便利なフィルターEQを搭載。これはLF/LMF/HMF/HFの4種類のプリセットを選ぶと、選んだ帯域にのみコンプがかかります。コンプのオン/オフ・スイッチをオフにすればMS用EQとしてだけでも使用できますが、ここでは併用したいので、コンプをオンにしてCHANNEL AをDepth側、CHANNEL BをWidth側のコンプとして使用しました。ちなみにフィルターEQのプリセットは非常に良くできていて、ほかには無い大きな特徴。私の好みはDepthをLFにして中低域にパンチを出してから、WidthをHMFにして中高域の広がり感を出すというもので、キックやベースにのみコンプをかけるようなイメージです。
本機は最近のプラグイン・コンプの流行や特徴をうまくリサーチして開発されたように思います。いろいろ試してみましたが、コンプとMSコントロール両方を使ってうまく処理するのがオススメで、本機のだいご味ではないでしょうか。
▼リア・パネル。CHANNEL A/Bそれぞれの入出力(XLR)に加え、サイド・チェイン・インサート用のセンド/リターン(フォーン)も実装
(サウンド&レコーディング・マガジン 2012年4月号より)
撮影/川村容一