10種のドラム音源と500MBのループ
パッドで演奏/録音が可能
まず第一印象は、先程述べた通りコンパクトでありながらも適度な重さ。重過ぎず軽過ぎずといった印象です。ギター・ケースなどの外ポケットにそのまま入る大きさで、サイドに保護バーも付いて多少ハードに扱っても問題無いでしょう。またパネルのレイアウトもとても分かりやすく、右上からエフェクト・セクション、チューナー、メトロノーム、ツール・セクション、リズム・セクション、トラック設定セクションなどのボタンが割り当てられており各設定/編集にダイレクトにアクセスできます。各トラックのミュート/録音/再生などの切り替えもバック・ライトが色で切り替わるので、各トラックの待機設定がボタン1つで済みます。またクリックのセンド量調節/送り先の切り替え部分など、これらの目的とするポイントに少ない階層でアクセスできるのは個人的にとても好感が持てます。今回はこれだけ多機能なので、R8のみで実際に1曲完結させようと思います。電源はUSBバス・パワー/電池/電源アダプターの三通りの電源方式から選べ、さまざまな環境に対応します。今回はまずドラムから作り始めますが、既にリニアPCM音源を使った10種類のドラム音源、500MBのループ素材(BIGFISHAUDIO製!)が入っています。双方共にスタンダードな音色、輪郭もありすぐに自身の演奏になじむ音、とても扱いやすい音です。リズム・パターンは豊富で、イントロ/フィル/エンディングのパターンまで用意されています。今回は実験の意味も込めてフィルのパターンをループさせたいと思います(笑)。またリアルタイムに打ち込むことも可能で、その場合は各フェーダーの下に並んでいるパッドがドラム・パッドになります。既に左から"KICK" "SNARE" "HAT"......と名前が割り当てられているため(写真①)、余計なアサインも必要ありません。さらに、特筆すべきはこれらがサンプラーになるということ。自身で録った楽器の生フレーズをR8内部で波形編集(波形もズーム表示可能)、それを感度調節可能なパッドに割り当て、ループさせたり、ゲート/ワン・ショット/リピートなどのモードでパッドをたたいて演奏もできます。この操作感は、内部編集がAKAIPROFESSIONAL MPCシリーズに、パッドの感覚はROLAND SPシリーズに通じるものがありました。サンプラーを制作のベースとしたクリエイターの方は違和感無く扱える機能でしょう。
続いてキーボードを録音してみます。本体にはマイクプリが2系統装備されているので、ステレオで録音していきました(写真②)。ちなみに1ch側はHi-Z入力に対応し、ギターやベースの直接入力も可能。マイクプリの音色は非常にナチュラルです。音も細くなりませんので、後の加工、エフェクトの乗りも良いです。また、これは個人的にですが、ノブを7~8割に持ってきたときのひずみ具合はかなり好きでした。決して音が太くなるわけではないのですが、エフェクティブに使うとなればこれはありです。
その後ベースも録音して、続いてボーカルへ。実はR8の左右の下に高感度マイク(写真③)が装備されており、ここから録音することも可能。音はとてもクリアな上、ステレオなので今回はこれでボーカル、そして窓からこのR8本体を手で持って、外の音をSEとして収音してみます。またファンタム電源に対応するためコンデンサー・マイクも使用可能ですので、フィールド・レコーディングをしてみても面白いかもしれませんね。
出力されるサウンドは素直な音質
内蔵DSPエフェクトは146種類
そしていよいよミックスに入ります。8つ並んだフェーダーをヘッドフォンとモニター・スピーカーを併用しながら微調整しつつ、PAN/EQセクションで定位/音質を調整していきます。ヘッドフォン出力とメイン出力の音質差は感じられなく、出音も非常に素直で、このままでも十分なくらい。またこのフェーダーですが、小さいながらも適度な重さ/スムーズさで非常に操作がしやすいのです。これはマイクプリ部のノブやジョグ・ダイアルもそうですが、こういった部分にもZOOMの高いクオリティが感じられます。最後にはエフェクト処理ですが、本機にはレコーディング、ミックス、マスタリングに対応するDSPエフェクト(146タイプ/370パッチ!)が内蔵されています。また各楽器アルゴリズム/タイプ別に構成されたエフェクトやアンプのモデリング機能もあり、まさにこの中で簡易的ではありますが、マスタリングまで完結できるのです。今回はベースにそのアンプ・モデリング、SE&ボーカルにリバーブ、ドラムにディレイをかけ、マスターにマスタリング・パッチの中から"DiscoMst"というパッチを使用しました。これにより2ミックスの音質補正とともに音圧が上がり、全体に深い低域が加わりました。ほかにも"1930Mst"や"LoFiMst"など個人的に興味深いパッチもあり好印象。面白いです! もちろんこの2ミックスを聴きながらバランス/定位/音質の再調整も可能。あえて難点を挙げれば、DSPエフェクトは44.1kHzの設定時にしか使えないことや、内蔵のドラム・トラックにEQが使えない点でしょうか。
オーディオI/Oモードで録音して
DAWのコントローラーとしても使用可能
ある程度音質が決まれば、マスター・トラックにバウンスしていきます。このとき自分はトラック・メイカー的な発想として、リアルタイムでミュートのオン/オフ、フェーダーでの音量操作を行い曲に抑揚を付けながらバウンス。バウンス終了後は付属の2GBのSDカード(最大32GBのSDHCカードに対応)に保存されるので、それをUSB接続したパソコンに転送して完了です。ここまではMTR的な使い方ですが、このR8は最大24ビット/96kHzの録音に対応するオーディオ・インターフェース&DAWコントローラーにもなるのです(MTRでは最大24ビット/48kHzの録音)。またうれしいことにSTEINBERG Cubase LEが付属しますが、自前のAPPLE Logic Proで操作してみます。今回はRODE NT1-Aでボーカルを録りましたがマイクプリの音質はMTR使用時と同等の音質で、あくまでナチュラルです。色付けが無いため、ビギナーの方が扱うのに最も最適な音質と言えます。主要DAWソフトに対応するコントローラーについては面倒な設定も要らず、問題無くR8上で操作できます。やはりフェーダーの大きさの面など、ハイクラスのフィジカル・コントローラーの操作感には及びませんが、通常使う分においては全く問題ありません。それに机のサイドやパソコンのモニターの下などに置くスマートな宅録派には逆に本機くらいの大きさが最も良いのかもしれませんね。
以上、R8の制作においてのベーシックな利用方法を試してみましたが、これ以上何を追加すればいい分からないほど多機能なため、その利用方法は何通りもあると言えます。自主制作の場だったり、デモを作る場合など、これ1台で想像以上にハイクオリティな作品ができることは間違いないでしょう。お薦めです!
(サウンド&レコーディング・マガジン 2011年6月号より)
▪Windows/Windows XP/Vista(SP1以降)/7、INTEL Pentium 4 1.8GHz以上、1GB以上のRAM、USB2.0対応ポート▪Mac/Mac OS X 10.5.8以降/10.6.5以上、INTEL Core Duo 1.83GHz以上、1GB以上のRAM、USB2.0対応ポート