ユーザーの声を吸収し操作性を突き詰めたV-Mixer最上位モデル

ROLANDM-480
めっきり暖かくなってきて、上着を着るかどうかも悩む季節になりました。被災地の方のためにも一刻も早く過ごしやすくなってほしいものです。さて今回は、著者も絶大な信頼を置き、愛用してきたROLAND V-Mixing Systemのデジタル・コンソールM-400の後継機。ユーザーの声や具体的なアイディアを追加したM-480が発表されました。早く使いたくて仕方がありません。

インサートできるエフェクトの数が増加
チャンネルEQのカーブも可変に


M-480はV-Mixerの最上位機種。資料によると信号処理能力が2倍となったとのことで、従来機よりも大きく"現場向け"になっている印象です。"従来を知らない"という方に簡単にV-Mixing Systemをおさらいしますと、同社はCAT5eケーブルを使用した独自のネットワーク・オーディオ伝送技術REACを採用し、ステージ・ユニットやFOHユニットなどで構成された伝送システム=Digital Snakeを提唱しています。これにより、音声信号を24ビット/44.1、48kHzというリアルで高品質なサウンドを40ch送受信でき、伝送距離は約2km(光伝送時)! ここにデジタル卓V-Mixerを加え完成するのが、V-Mixing Systemなのです。またV-MixerとパソコンやタブレットPCなどをUSB接続することでリモート操作ができたり、V-MixerのREACポートでパソコンと接続すれば、DAWソフトに最大40chのマルチ録音(24ビット/96kHz)も可能。著者も何度か録音をしましたが、ケーブルを1本つないでボタンを押すだけでした!それでは本機を見ていきましょう。フロント・パネルのフェーダー(写真①)は100mmのモーター・フェーダーで、瞬時に快適なコントロールが可能。しかもタッチ・センス付きなので、フェーダーに触れるだけで、そのチャンネルの状態、設定を中央の大型ディスプレイに表示します(写真②)。入出力やエフェクト設定を行うチャンネル・エディット・セクション(写真③)もそのチャンネルに即応し、パラメーター設定がダイレクトに可能。直感的でハイスピード・オペレーションが実現されています。またすべての入力チャンネルに、4バンドのパライコ、コンプ、ゲート、ディレイも装備。全体で48入力/6ステレオ・リターン/16AUX/8マトリクスと充実しており、たとえそれでも足りない現場でも、本機同士を2台までカスケード接続でき、最大96ch入力にも対応します。

▶写真① M-480のチャンネル部。上からSELECTボタン、SOLOボタン、入力メーター、MUTEボタン、フェーダーとなる。フェーダーはタッチ・センス付きのモーター・フェーダーとなり、ストロークは100mm


▼写真② パネル中央の大型ディスプレイには、チャンネルやエフェクトの状況が分かりやすく掲載される。ここで開いている画面は写真③の設定に対応するもの。チャンネル・エディット・セクションでの設定が即座に反映される



▼写真③ チャンネル・エディット・セクションはPREAMP、GATE、COMP、HPF、EQUALIZER、PAN、AUX/MTX SENDSという構成。中でもPREAMP部ではファンタム電源(+48V)とPAD(−20dB)をボタン1つで設定できることが可能となった。またGATE、COMP、EQUALIZER、AUX/MTX SENDSのセクションのDISPボタンを押せば、大型ディスプレイに設定画面を呼び出せる


また最低限のアクセスで操作できるよう、パラメーターのほとんどにディスプレイ・ボタンを搭載。例えばチャンネル・コンプを触りたいときにはCOMPセクションのDISPボタン、EQを細かく設定したいときにはEQ横のDISPボタンを押せば大型ディスプレイに設定画面が立ち上がります。リア・パネルにはANALOG IN(XLR)×8とANALOG OUT(XLR)×8に加え、STEREO IN(RCAピン)、DIGITAL OUT、TALK BACK MIC IN(XLR)、USB端子などを装備。さらに本体右側のUSB端子にUSBメモリーを挿せば、本機の出力をWAVで録音や、メモリー内のファイルを本機で再生も可能です(写真④)。ここまできたらポータブル・レコーダー用にRCAピンのRECOUTも欲しいという贅沢な悩みくらいしかありません(笑)。機体はコンパクトで、重量も20kg。1人で機材車からPA席まで余裕で運べました。

▼写真④ パネル右側には、USB MEMORY RECORDER、SETUP、GROUP、SCENEMEMORY、USER、TALKBACK/OSC、MONITORという7セクションを集約。 USBMEMORY RECORDERセクションでは、本機に直接差し込んだUSBメモリーに本機の出力をWAVファイルで録音したり、USBメモリー内のWAVファイルを再生することも可能だ


またM-400との違いとして、各チャンネルにインサートできるエフェクトの数が圧倒的に増加。EQだけでも31バンドのグライコもしくは8バンドのパライコを合わせて12系統(モノ)。さらにそれとは別で、マルチエフェクトも6系統(ステレオ)使用可能。マルチエフェクトには複数の高品位なリバーブやディレイに加えて、同社のSDE-3000、SRV-2000、RE-201など6種類の名機のモデリングが含まれるほか、先に述べたEQ群とは別のEQが用意されます。12系統のEQと6系統のマルチエフェクトは併用できるので、例えばリバーブ×2とディレイを使うオペレートの場合でも、残りの3系統にステレオのグライコを挿入すれば、先に述べた12系統と合わせて合計18系統のグライコを使うなんてことも可能です! すごい!!また今回リニューアルされたポイントの1つとして、チャンネルEQのカーブが4バンド共に可変になり(M-400は高域と低域はシェルビング固定だった)、しかも、"ローパス"×2、"シェルビング" "ピーキング" "ノッチ" "バンドパス""ハイパス" ×2と豊富にチョイスできるのです。

▼リア・パネル。左からSTEREO IN L/R(RCAピン)、TALK BACK MIC IN(XLR)、DIGITAL OUT(オプティカル&コアキシャル)、RS-232C端子、リモート・セレクト・スイッチ、MIDI OUT/THRU、MIDI IN、USB端子、REAC端子A&B、REAC端子SPLIT/BACK UP、ANALOG IN1〜8(XLR)、ANALOG OUT1〜8(XLR)



太い音を素直に届け
EQするのももったいないサウンド


説明はここまでにして、筆者がPAを担当しているバンド、ADAPTER。の最新作『音遊戯』の発売に伴うTOWER RECORDS新宿店で行われたインストア・ライブと、昨年末にできたばかりの大型ライブ・ハウスの新宿BLAZEでのライブでチェック。2つのお店の協力を得て、実際に現場で使用してみました。ADAPTER。は広範囲な周波数レンジを持ち、多チャンネルのシーケンスが重なり合う和風テイストのテクノ・サウンドに、ボコーダーやANTARES Auto-Tune、拡声器などを駆使したボーカル、そして3ピース・バンドの絶妙なバランスが融合し"通常のバンド・ミックス"では成り立たない難しいミックスが求められるバンド。さらに卓返しでボーカルはイアモニを使用するので、より細かく繊細なオペレートが要求され、膨大な仕事量になります。それでは、まずはインストア・ライブ。会場には本機とDigital Snakeだけ持ち込み、スピーカーは会場の機材をお借りしました。エフェクターなどが本機に集約されている故の身軽さですよね。最低限の楽器編成で行われたライブとなり、その入力もシーケンスL/R、ベース、エレクトリック・ドラムL/R、Auto-Tune、クリック......と、普段の5分の1程度。しかしラインものばかりなので、すべてのチャンネルにコンプを使用。出力はモニター2系統とイアモニ、メイン・アウト。イアモニ出力は本人の耳に直接送っているので、耳の保護のためにもコンプとEQは欠かせません。また現場のスピーカーは音楽用に設計されたものではなく、出力的には弱いので、こちらにもコンプをかけました。これだけの機材をアナログで行うとなれば、膨大な機材量になります。さて、その使用感と言えば、M-400と同様パッチ変更もマトリクス図のように見た目で判断しやすいのが良好。サウンドも真っすぐで素直で太く、EQするのがもったいないとすら思いました。これは入力信号を即座に24ビットでデジタル化することで、鮮度を失うことなく、アナログ特有の音質損失やクロストークの発生、また引き回した際の高域の劣化を防いでいるからでしょう。また操作面においては、従来はPAD(−20dB)やファンタム電源(+48V)は"カーソルで選択してエンター・キー"という操作があったのですが、M-480ではチャンネルに搭載されていて、短時間のサウンド・チェックにも便利。実際にチェック、リハーサル時間も10分程度で済み、満足いくライブを実現したのも、再生音&操作性が良い本機だったからかもしれません。そしていよいよ新宿BLAZEでのライブ。常設の卓は使用せず、ブース前に長テーブルを設置し、そこにちょこんと本機をセット。会場の大きさとアンバランス(笑)......しかしこれで十分。今回は約40chのという多入力ですが、もちろん本機1台で事足ります。ここではリニューアルされたチャンネルEQが力を発揮。本会場のようなしっかりとしたスピーカー・システムでは、M-480特有のスピード感や存在感、安定感のある素晴らしい音を100%届けることができ、筆者含め関係者やお客さんも大満足でした。


良いことばかりですが、それほど本機は良いコンソール。あえて言うなら、出力はスピーカーへ送るほかにもいろいろ使用することがあるので、メイン出力はリミッターでなくコンプが使えればいいな、と。また、AUXレベルがツマミ表示できれば、直感的で分かりやすいかなぁと思ったくらい。今後がますます楽しみですね。

サウンド&レコーディング・マガジン 2011年6月号より)
ROLAND
M-480
1,218,000円
▪チャンネル数/48ch+6ステレオ・リターン▪AD/DA/24ビット、44.1/48kHz▪外形寸法/749(W)×229(H)×614(D)mm▪重量/20kg