中高域の解像度が非常に優れた高品質オーディオ・インターフェース

PRISM SOUNDOrpheus
ハイエンド・オーディオのジャンルではAPOGEEと並び称されるPRISM SOUND。Orpheusは同社初のFireWireベースのオーディオ・インターフェースです。価格帯は“さすが”な感じで、完全にハイアマチュアからプロ向けモデルと言えます。近年、ユーザーが音楽制作にかける金額は、ソフトウェアの普及も相まってかなりデフレ感があり、“安くてそこそこ”のものが市場的にメインであるように感じます。そんな風潮の中、コストを考えず、ひたすら技術の高さを追求するPRISM SOUNDの姿勢は、応援したい気分にさせられます。“テクノロジー”はコストを度外視することで発展してきたという歴史があります。そういったわけで、期待を込めてレビューしていきたいと思います!

10イン/10アウトの入出力
優れたコントロール・ソフトも付属


まず概要ですが、Mac(Core Audio)、Windows(ASIO/WDM)両OSに対応。今回はMacでチェックしたのですが、セットアップ自体は付属ソフトウェアのインストールのみですぐに使えるようになりました。入出力は、アナログ・イン/アウトがそれぞれ8ch、デジタル・イン/アウトが2chずつの合計10イン/10アウト仕様。最近はDAWとソフトウェア音源をメインに、厳選したハードウェアを組み合わせる音楽制作スタイルが主流でしょうから、スペック的にはこれで十分ではないでしょうか。また本機は2系統用意されたヘッドフォンの音量以外はすべての操作を付属のコントロール・ソフト(画面①)で行うことが前提となっています。▲画面① Orpheusに付属するコントロール・ソフト(Windows/Mac対応)のインターフェース。上部にあるのが、ワード・クロックなどの設定を行うUNIT SETTINGS、サンプル・レートやレイテンシーを設定するGLOBAL SETTINGS。その下のINPUT SETUP(左の画面)/OUTPUT SETUP/MIXERS(右の画面)はタブで切り替えるインターフェースとなっている。INPUT SETUPのライン入力には−4dB/+10dBの切り替えスイッチ、MIXERSには2系統あるヘッドフォンのソース・セレクトなどの多彩な機能が搭載されているが、全体的なレイアウトはとてもシンプルで分かりやすいものになっているフロント・パネルの大きなボリューム・ノブですらソフト側でコントロール可能(画面②)です(もちろん本体でも操作できます)。▲画面② コントロール・ソフトのOUTPUT SETUP画面では、Orpheus本体のフロント・パネルにある大ぶりなノブに出力をアサイン可能。これにより、ノブをモニター・コントローラーのように使うこともできる(ミュートも装備)。アサインは各トラックの上部にある“VOL”ボタンをクリックするだけのシンプルなオペレーションだ 特筆すべきは、このソフトがインターフェース的に優れている点。大きく言うと、全体的な設定をするUNIT/GLOBALセクションと、タブ構造のINPUT/OUTPUTなどを設定するセクションに分かれており、目的のパラメーターを探すのが非常に楽でした。アナログは8インプットと書きましたが、うち2chはマイク/ライン入力を兼用。さらにもう2chは、それに加えてギターなどインピーダンスが低い楽器用の入力も兼用になっています。このような仕様だとソフト側の表示がごちゃつきそうですが、何と、このソフトはどの入力端子にケーブルが挿さっているかをちゃんと認識して、自動的にソフト側で表示を変えてくれます(画面③)。これはよくできています!▲画面③ Orpheusのコントロール・ソフトは本体のリア・パネルのどの入力端子にケーブルが挿さっているかを感知し、自動的に表示を切り替えてくれる。2つある画面の一番左にあるA|1トラックの表示が、左の画面ではピンク色の“MIC”、右の画面ではグリーンの“LINE”になっているのが分かる

量感よりも解像度を重視したDA部
リバーブのテールが最後まで聴こえる


では、オーディオ・インターフェースのキモでもある音質面を具体的に述べていきたいと思います。まず何はともあれ出力、つまりDAコンバーター部からいきたいと思います。PRISM SOUND自体はもともと音響測定器メーカーということもあって、基本的には時間的ノイズであるジッターや電気的な本体内のノイズ対策に細心の配慮をしつつ、製品が作られています。とにかく、音に対してマイナスな面の対策を徹底していけば、おのずと音質は向上するという考え方でしょう。高性能なモニター・スピーカーでチェックしたところ、まず印象的なのは“ひずみっぽさ”が少ないところでした。最近、市販のCDを聴いていると、ひずみっぽさや細かい音のザラつきを感じることが多いのですが、同じソースで聴き比べてみても、音のひずみや雑な感じが少なく、非常に聴きやすい印象でした。これは、そこそこのモニター・スピーカーでは聴き取れないレベルの話かもしれませんが、Orpheusのサウンドのクリーンさは、“聴きやすさ”という形で、ほとんどのユーザーがサブリミナルに感じ取れるものだと思います。音のキャラクターとしては中高域の解像度が非常に優れており、簡単な例を挙げると、リバーブのテールが最後までちゃんと聴こえます。高域に関しては派手さこそありませんが、非常に奇麗で無理がなく、周波数のつながり方が自然でした。中低域に関しては、塊でくる肉厚系なものというより、タイトでそれぞれの音の特徴がケンカせず、うまく表現されている感じ。低域に関しても同様で、量感より解像度を重んじている印象です。トータルなイメージは明るく、地味な印象というのは全く無いのですが、派手さで一気につかむタイプというより、周波数バランスや位相特性の良さで引き込む、実直なキャラクターだと感じました。楽器ごとの距離感がつかみやすく、ゴチャつきがちな中低域から中高域のスペースが広い感じが、最大の特徴ではないでしょうか。以上は、僕が普段使っているクロック・ジェネレーターをクロック・マスターにして聴いた印象です。内蔵クロックに設定して再度チェックしたところ、解像度は若干落ちますが、今度は低域の量感が増しパワフルになる印象でした。整理整頓された感じはやや薄くなりますが、これはこれで1つ1つの楽器が大きくなり、全体もダイナミックになります。このように使われるクロック次第で音のレスポンスは変わりますが、基本的にちゃんと基礎体力がある機種ですので、“ここがダメ”というよりは“ここがこう良くなるのか”と良い点に耳がいく感じでした。アタック感や中低域の量感などは非常に良く、ニアフィールド・モニターで聴いた際の立体的な聴こえはかなり好印象です。ちなみに以前、自分でDIGIDESIGN Pro Tools用のAD/DAコンバーターを比較した際、PRISM SOUNDとAPOGEEのものを並べて試したことがあったのですが、音の印象的にはそのときと同じで、低域の迫力と高域の派手さならAPOGEE、中域のリッチ感や音の滑らかさではPRISM SOUNDという感じでした。これはもう、はっきり言ってどちらでも良くて(笑)、焼き肉とすき焼きのどちらが好きか?みたいな話です。

音の密度が高く
高級なサウンドのADコンバーター


次に入力部、ADコンバーターですが、こちらは先述のDAコンバーターと音のキャラクターはかなり似ていました。シンセサイザーや打ち込み系のドラムをDAWに録ってチェックしたところ、かなり好印象。“良い録音をされたものはEQのレスポンスが良い”というのが自分的な経験則としてあるのですが、Orpheusで通して録ったものはまさにそのようなサウンドでした。注意深く聴くと音に密度があって、後のミックスの際に音がきびきび反応してくれそうな感じです。安いADにありがちな、くし状のフィルターがかかったような音とは別次元の、高級なサウンドでした。コントロール・ソフトの機能的には、レベルがオーバーした際にリミッターとして働くOVERKILLERスイッチがあったり、ライン入力に対して+4dB/−10dBの切り替えスイッチがチャンネルごとに用意されていたり、MS方式のマイク録音時に使用するMSスイッチや+48Vファンタム電源、ハイパス・フィルター、位相反転スイッチなどなど基本は押さえつつ、+αの機能も搭載されています。またMIXERSのページではDAWでの録音時に気になるレイテンシーの問題回避のためのモニター設定や、2系統あるヘッドフォンのソース・セレクト、各チャンネルがメインのボリュームのノブに対して反応する/しないを決める“VOL”ボタンなどさまざまなパラメーターが用意されているので、ラップトップ・コンピューターとOrpheusとマイクのみといった非常にシンプルなセットアップでも、キチンとしたレコーディングをすぐに始められると思います。このようなケースを考えると、2系統備えられたヘッドフォン端子はとても重宝するでしょう。

実際のレコーディング作業だけでなく
“耳のレベル”も上げる機材


デジタル・オーディオが現在のように市民権を得てから結構年月が経っていますが、アナログ時代には無かった問題がいろいろと出てきては解決され、理論と実際の出音の整合性が取れることで、サウンド的にはかなりブラッシュ・アップされつつあるように思います。そうした意味でも、常にデジタルの最先端のトライアル&エラーを積み重ねているハイエンド・ブランドPRISM SOUNDが送り出すOrpheusには、コンシューマー機では決して出し得ないクオリティを感じました。あと、細かい話なので詳細は省きますが、説明書のかなりの部分でクロック、ジッター、ノイズ・シェイピング、ディザーなどデジタル・オーディオに関する問題点と同社のこだわりが堪能できたのが、個人的には良かったです(笑)。読んでみるとその生真面目さは実際の音の特性に出ている感じがして、妙に納得がいきました。音楽を聴くため、作るために本機を購入するのもいいですが、耳のハードル(音自体のディテールの分析と理解)を上げるという意味でも、Orpheusの精度はかなり有効なものだと思います。実際にスタジオにいらっしゃる若手のトラック・メイカーの方が、オーディオ・インターフェースのグレードを上げた途端、トラックの精度が激的に上がったこともありました。この場合、入力の音質改善も大きいですが、やはりモニター音の分解能が上がったことによる音色選択の精度の向上が、最も大きな要因だったように思います。本機のようなハイグレードなインターフェースは実際どの程度のクオリティか、店頭のデモなどでぜひ一度聴いてみてもらいたいです。コンピューターとDAW、ソフト・シンセなどのおかげで音楽制作の初期投資が安価になった現在だからこそ、逆にオーディオ・インターフェースにお金を回すのもアリだと思いますし、自分の時代を考えるとアマチュアのころから本機の何倍も機材に投資していたので……とか言いつつ、ぜいたくな話ですが、単純にAPPLE iTunesで聴く音楽の音質が恐ろしく良くなるだけでも、かなりの幸せを感じますよ!(笑  

▲リア・パネル。左よりFireWire 400端子×2、MIDI OUT/IN、ワードクロック入出力(BNC)、デジタル入出力×2系統(コアキシャル、オプティカル)、ライン出力×8(TRSフォーン)、ライン入力×4(TRSフォーン)、マイク/ライン入力(XLR/TRSフォーン・コンボ)

PRISM SOUND
Orpheus
850,500円

SPECIFICATIONS

■量子化ビット数/24ビット ■サンプリング・レート/44.1/48/88.2/96/176.4/192kHz ■周波数特性/20Hz〜20kHz ■ダイナミック・レンジ/116dB(−60dBFS) ■全高調波歪率/0.00028% ■外形寸法/483(W)×44.5(H)×290(D)mm ■重量/3.7kg

REQUIREMENT

■Windows/Windows XP/Vista ■Mac/Mac OS X 10.4以上