新プラグインと柔軟な操作性で創造力がますます強化されたDAW

CAKEWALKSonar 8 Producer
かつて“Cakewalk”というのは先進的なスペックを誇るMIDIシーケンス・ソフトの名前でした。その血統を受け継ぐ“Sonar”はコンスタントにほぼ年に1度のメジャー・アップデートを繰り返し、時流に応じた機能の拡張を続けています。さらにここ数年はROLANDという強力なパートナーとタッグを組み、より総合的な音楽制作環境をユーザーに提供するDAWへと進化しています。そんなSonarの最新バージョンが発表されました。ラインナップとしては、スタンダード・モデルのSonar8Studio(オープン・プライス/市場予想価格50,000円前後)もありますが、今回はフラッグシップであるSonar8Producerをチェックしながら、新機能を中心に、意外と知られていないその実力を紹介したいと思います。

大量のソフト音源/エフェクトが付属
ユーザー・フレンドリーな操作性


海外、特にアメリカで高いシェアを誇るSonarですが、対応プラットフォームがWindowsのみであることが影響しているのか、Macが優勢な日本の音楽市場では、残念なことにその知名度は実力ほどの評価を受けていないような気がします。せっかくの機会なので魅力的でかつ高いポテンシャルを誇るSonarがどのようなDAWなのか、その特徴をかいつまんで紹介するところから始めることにしましょう。まずは、DAWを比較検討するときにどうしても気になってしまうスペックですが、基本的なところを挙げてみました。


  • オーディオ/MIDI共にトラック数は無制限

  • 最高24ビット/192kHzに対応

  • ACID互換ループをはじめとした各種オーディオ・フォーマットに対応

  • 64ビット浮動小数点処理のオーディオ・エンジン

  • POW-rディザリング搭載

  • トータル15種類のソフト音源

  • マスタリングにも対応するものも含め49種類(!)にも及ぶエフェクト(MIDIエフェクト含む)


やはり目を引くのは豊富なプラグインたちです。ソフト音源およびエフェクトともに、バンドルされているものだけでも不自由な思いをすることはないでしょう。また、VST/VSTi/DirectX/DXiに対応しているのでサードパーティ製も自由に使えます。後述しますが、数だけではなくシンセサイザーの老舗ROLANDがサポートしているだけのことはあり、ソフト音源などそのサウンド・クオリティは折り紙つきです。次は外観をチェックしてみましょう。画面①がメインの作業スペースとなる“トラックビュー”です。▲画面①トラック・ネームやミュート、ソロなど数種類のボタンが各トラックの先頭部分に用意されています。また、左側には選択したトラックの詳細な情報を表示する“トラック・インスペクタ”が、そして上部には自由にアサイン可能な各種ボタンなどが配置されています。こうしたレイアウトは今やDAWの定番とも言えるもので、多くのDAWが基本的にこのスタイルに落ち着いていることからも、この配置の合理的な実用性の高さが分かると思います。MIDIの打ち込み/編集に関してもピアノロール、譜面、イベントと主な表示方式はすべて網羅しており隙がありません。画面②はいわゆるミキサー画面の“コンソール・ビュー”。▲画面②左下にはEQやプラグイン・スロットなどの表示/非表示を切り替えるボタンが分かりやすく並び、無駄なくシンプルなデザインにまとめられています。そのほかにもシンセ・ラックなど、目的ごとに用意された画面が数種類ありますが、いわゆる“ルックス”に関してはとてもスタンダードにまとめられています。見かけ上は特に際立った特徴はありませんが、どの画面も操作性や視認性を高めるための工夫が施されていることが特徴と言えます。例えば、トラックビューだけでなく、ほとんどの画面の上部に並ぶボタンのエリアは、ユーザーによるカスタマイズが可能で、自分好みの操作環境を簡単に構築できます。また、MIDIやオートメーションなど、ポインター近辺や選択したデータの値を、ポインター・ヘルプのようにさりげなく表示してくれるところなど、かなりユーザー・フレンドリーな設計がされています。オーディオ関係では、複数のテイクから良い部分のみを簡単に編集してOKテイクを作れるクリップ編集ツールや非破壊のオーディオ・クオンタイズ、ピッチ/タイミング/フォルマントなどを独立してコントロールできる“V-Vocalプロセッサ”など、最近のトレンドといってよい機能で搭載されていないものは無いというほど多機能です。本当に思わず感心するほどオールラウンドにさまざまなことに対応しているDAWで、オーディオに関する新たな技術だけでなく、先述したようにもともとMIDIシーケンス・ソフトとして開発されただけに、MIDIに関してはとても成熟した操作環境を持っている点や、使い勝手の良いステップ・シーケンサーなどシンセ・マニアを喜ばせてくれるサービス精神があるところなども個人的には高得点です(笑)。このように“多機能”も特徴の一つではありますが、数多くの、しかも高い水準にある機能たちが、バランスよくスムーズに連携することによって得られる“機動力”こそがSonarの一番の特徴であり、最大の魅力だと言えます。

楽曲制作を強力にサポートする
3種類の新ソフト音源


足早に概要を説明してきましたが、次はお待ちかねのバージョン・アップによる新機能を中心に、さまざまな機能を作曲、編曲、録音、編集、ミックス、マスタリングという実際の作業の中で具体的にチェックしていきましょう。まず、作編曲時に欠かせないソフト音源とMIDI機能からみてみましょう。近年のバージョン・アップで、楽しみの一つが新たなソフト音源の追加だと思うのですが、今回もその期待を裏切ることなく、D-Pro、Beatscape、TruePianosAmberの3種類が加わりました。D-Proは前バージョンに付属していたD-ProLE(機能限定バージョン)からフル・バージョンになったことで、より細かい音作りが可能になっただけでなく、ライブラリーが8.6GBに拡張しサウンド・バリエーションが一気に広がりました(画面③)。2,500を超えるサウンド・プログラムは、ポップでエッジの効いたROLANDFantomシリーズを連想させるようなサウンド・キャラクターです。サンプル・プレイバック・タイプのシンセサイザーですが、膨大なサンプルで生楽器のリアリティを追求するというよりは、的確なサンプルの選択によって作られたセンスの良いプリセットは、イマジネーションを後押ししてくれます。特に作曲時などに重宝しそうな楽器で、今後のSonarシリーズのコアとなるソフト音源だと思います。▲画面③8.6GBものライブラリーが付属するソフト音源、D-Pro。オーケストラ音色やビンテージ・キーボードの音色も充実しているほか、高度なシンセサイズ機能も有し、マニアックなサウンド・メイキングも行える BeatscapeはREXプレーヤーとして機能する16個のパッドを持ったリアルタイム・ビートメーカー(画面④)。各種の音楽スタイルに合わせた4GBのREXライブラリーを自由に組み合わせたり、ビートそのものを組み替えたりしながら新たなビートを作り出すことができます。もちろん付属のライブラリーだけではなく、Sonar上にあるオーディオ・クリップであればドラッグ&ドロップですぐに素材として使うことができるので、自分の演奏を簡単に“ネタ”として再構築することもできます。REXプレーヤーですからテンポの変更も簡単です。17種類のエフェクトをパッドごとに最大3つまでインサートできるのもうれしい仕様です。▲画面④REXプレーヤー・タイプのリズム系サンプラー、Beatscape。4GBものライブラリーが付属する。16個のパッドそれぞれにエフェクトを最大3個までかけられるのも魅力 TruePianosAmberはサンプリングとモデリングを併用しているハイブリッド・タイプのピアノ専用音源(画面⑤)。全部で4つのモジュールが搭載されている4FRONTTruePianosから1つの音色を抜粋したSonar用の特別版です。かなり最適化されているもののモデリングを使っているのでサステイン・ペダルを多用したときなど少々CPUメーターが上がりますが、タッチに応じた音色変化はさすがにサンプリングだけのピアノ音源とは一味違います。ピアノというベーシックで使用頻度の高い楽器にこのように高品位なものが用意されているのはありがたいことです。またアップグレードすることにより、ほかの3つのモジュールも使用可能になるようです。▲画面⑤高品位なピアノ音源、TruePianosAmber MIDI関係の新機能としては“シンプルインストゥルメントトラック”があります(画面⑥)。▲画面⑥ソフト音源を立ち上げる際の動作を設定する画面。ここで“シンプルインストゥルメントトラック”にチェックを入れておくと、MIDIトラックとオーディオ・トラックが一体化したインストゥルメント・トラックが作成される。ソフト音源のマルチアウトを使用したいときは、従来のようにマルチアウト用のオーディオ・トラックを生成することもできるMIDIトラックとオーディオ・トラックが一体化されてされたこのトラックは、シンセラックでソフト音源をマウントするとき同時に作成できます。以前はMIDIトラックとオーディオ・トラックが生成されていましたが、これを1本にまとめられるので、かなり作業テンポが上がります。またループエクスプローラ機能が強化され、従来のオーディオ・クリップに加え、MIDIファイルもソフト音源を指定して試聴できるようになったことも大きく作業効率アップにつながることでしょう(画面⑦)。▲画面⑦ループ素材を検索/試聴できるループエクスプローラ。ソフト音源を選んでMIDIファイルも試聴できるので、明確なイメージを持って素材を選べる

バス作成を効率化するセンドアシスタント
複数クリップも一括編集が可能に


録音関係でのトピックは、録音/再生中にトラックを録音待機、または解除することができる“オンザフライ・レコーディング”が可能になりました。またシンプルインストゥルメントトラックのバス・センド版ともいえる“センドアシスタント”機能では、バスの作成やエフェクトの挿入、バス・アウトの指定を1つの画面で行えます(画面⑧)。さらに、トラックをバウンスする際にリアルタイムのオーディオ入力や、ソフト音源の演奏も可能になった“ライブ・インプット・バウンス”も目を引く機能です。いずれもユーザーからの要望をかなえたもので、確実に今まで以上にスムーズでストレスの少ない録音作業が可能になります。▲画面⑧インサートするエフェクトまで指定してバスを作成できる“センドアシスタント” 次に編集機能に目を移しましょう。Sonarではトラックに記録されるオーディオ・データやMIDIデータを任意の長さで区切ったものを“クリップ”と呼びます。データをクリップ単位で扱うことにより、別の位置への移動やコピー&ペーストなどの編集を分かりやすく、簡単にできるようにしているのです。
このクリップに関する新機能である“クリップ・グループ”は、オーディオ/MIDIを問わず複数のクリップを1つのグループとしてまとめて編集できるようにする機能です。複数のトラックのクリップをタイミングを保持したまま移動させたり、編集したりといったことが簡単にできます。同一テイクのクリップを、自動的にグループ化するように設定することもでき、新たなクリップのグループへの追加/除外も可能です。またキーボードのテンキーに移動や選択、編集のための下記の3モードが装備されました。

  • 移動モード:画面のスクロール、ズームを行う。

  • 選択モード:クリップの選択を行う。

  • 編集モード:トリム、スリップ編集、フェード・イン/アウトの設定を行う。


指がなじめば、この機能も操作性のアップにかなり貢献すると思います。新機能ではありませんが、筆者が操作性で最も感心するのは、右クリックやショートカットへの割り振りがとてもこなれている点です。1つの画面でも場所に応じて適切に右クリック・メニューが切り替わり、デフォルトで左手のホーム・ポジションに多用するツールのショートカットが集められているので、右手はマウスとテンキー、左手はキーボードというフォームでほとんどの作業をスムーズにこなせます。派手ではありませんが、長時間の作業を共にするDAWにとっては大事な部分だと思います。ほかにも“フリーエディットツール”機能が強化されて、クリップ中段でドラッグするとクリップ内を任意に選択できるようになったり、特定のバスにアサインされている全トラックを瞬時にグループ化できる“クイックグループ”機能も強化され、バスをalt+クリックするだけでトラックが即座にグループ化されるようになりました。これなどはステムミックス時などに重宝するでしょう。さらに、分割ツールとミュートツールが複数のクリップの同時編集に対応するようになったのも、ささやかながらうれしいことです。どんな状況にも対応できる俊足強打のマルチプレイヤーのようなSonarですが、その高い機動力はこうしたハンドリングの良さがあるからこそなのです。

64ビット精度で動作
新たなエフェクトも搭載


次はミックス・ダウンなどに関係するポイントをチェックしてみましょう。まずエフェクトですが、新たに4種類が加わりました。TL-64TubeLevelerはいわゆる“真空管の音”をモデリングにより再現したもの(画面⑨)。コンプレッサーやアンプのような、入力信号のレベルに応じたウォームな真空管サチレーションを得ることができます。▲画面⑨TL-64TubeLeveler。真空管機器のサチュレートによるサウンドをモデリングで再現。入力信号のレベルに応じたサウンドの変化まで追求されており、アナログライクなウォーム・サウンドを得ることができる TS-64TransientShaperは、ここ数年注目されている音の立ち上がりや減衰の仕方、いわゆる“トランジェント”(過渡特性)をコントロールするエフェクト(画面⑩)。サウンドのアタックやエッジ感を積極的にコントロールできます。▲画面⑩TS-64TransientShaper。アタックやディケイを調節して、例えばループ素材のノリを変化させるといったことも可能。周波数帯域ごとに検出を行うため精度の高いコントロールを実現しているとのこと 両プラグインは、Sonar7で登場したLP-64LinearPhaseMultibandやLP-64LinearPhaseEqualizer、VC-64VintageChannelなどと同様に、Sonarシリーズの特徴である64ビット浮動小数点処理のオーディオ・エンジンを最大限に生かすべく開発された“64ビット・エフェクト”です。内部演算が64ビットという高い精度で行われているので、Sonarはきめ細やかな、デジタル・カメラなどでいうと画素数が高い感じのサウンドなのです。さて、ChannelToolsは音の広がりを調整するステレオ・イメージャー(画面⑪)。ゲイン、パン、幅、位相、ディレイなどを調整可能で、ゼロ・レイテンシーでチャンネル間の定位をコントロールできます。逆相を使いスピーカーの外にまで音を広げるアグレッシブな使い方から、マルチマイクのときのマイク同士の距離を補正するような微調整までデリケートな設定ができます。守備範囲が広く、とても重宝するツールです。▲画面⑪ステレオ・イメージャーのChannnelTools。ゲイン、パン、幅、位相、ディレイなどを調節できる。M/Sでレコーディングされた素材のデコードにも対応している GuitarRig3LEは、NATIVEINSTRUMENTS製アンプ・シミュレーターの機能限定版(画面⑫)。3種のアンプとキャビネット、11種のエフェクトを搭載。これが加わったのはギタリストにとっては本当にポイントが高い出来事です。▲画面⑫NATIVEINSTRUMENTSGuitarRig3LE。有名アンプ・シミュレーターの機能限定版で、3種のアンプとキャビネット、11種のエフェクトが搭載されている

より使いやすくなった
MIDIコントローラー連携機能“ACT”


そのほかの機能にも触れておきましょう。新機能ではないのですが、通好みの渋い機能を持つのがレベル・メーターです。RMS/ピークの切り替えが可能なほか、レンジやピーク・ホールドの設定が細かくできるなど、多彩な機能を備えています。これはレベルの管理や把握が重要なプロのレコーディングにも対応できる仕様です。また、これも新機能ではありませんが、ぜひ紹介したいのが“ACT”(ActiveControllerTechnology)。これはMIDIコントローラーを効率よく使うための機能で、アクティブになっているエフェクトやソフト音源を自動的にコントロール対象にして、細かな設定をしなくてもMIDIコントローラーのつまみ/フェーダー/ボタンなどをアサインしてくれるユーザー・フレンドリーな機能です。今回はMIDIコントローラーのマッピングおよびプリセットが追加/更新され、より使いやすくなりました。特にEDIROLPCRシリーズとはかなり親和性が高く、ハードウェア・メーカーとソフトウェア・メーカーがタッグを組んだメリットが強く感じられます。さらに、ステレオだけではなく、5.1chをはじめ7.1chなど各種のサラウンドに広く対応しているのも強みです。サラウンド専用エフェクトも用意されていますが、何よりうれしいのは通常のモノラル/ステレオ・エフェクトをサラウンド用エフェクトのように使用するための“サラウンドブリッジ”とツールが用意されていることです(画面⑬)。DirectX8オートメーション対応のプラグインであればパラメーターの連動も可能です。▲画面⑬サラウンドブリッジ機能を使用するとサラウンド用以外のエフェクトも、L/Rの入力をサラウンドのチャンネルにアサインして使用できる 最後になりましたが、CDライティング機能も装備されています。このモードだけでは曲間や音量の変更などの修正はできませんが、今までのバイタリティあふれる機能拡張の具合からも、これからこの機能が充実するのではないかと個人的に期待しています。またROLANDからの強力な技術サポートが望めるので、今盛んに技術革新と製品開発が進んでいる映像関係の機能も、向上を期待できるのではないかと思っています。Sonarは時代や状況に応じたニーズを的確に判断し、整合性を崩さずにうまく自分の中に取り入れることが、とてもうまいDAWです。ROLANDとの親密な関係が機能や音質に良い意味で積極的に反映されてきているような気もします。オーディオを扱い“まとめ上げる”作業もそつなく快適にこなしますが、やはり一番の魅力である“機動力”は作曲やアレンジ、リミックスなど“作り出す”作業において、最大のポテンシャルが発揮されると思います。昨今のDAWはかっての“録音機”というポジションから機能を拡張し続け、エフェクターや音源を統合した新しい時代の“楽器”へと進化しようとしています。楽器である以上“音が良い”(魅力的な音が出る)ことは当たり前として、思い浮かんだこと(インスピレーション)をスムーズに形(サウンド)にするためには優れた演奏性が必要です。どんなに“良い音”を出せる楽器でも弾きづらいのでは“良い演奏”や、ましては“良い音楽”を作り出すのには不向きです。そうした意味において、Sonarは魅力的な楽器としてクリエイターの強力なパートナーになってくれると思います。
CAKEWALK
Sonar 8 Producer
オープン・プライス(市場予想価格/85,000円前後)

REQUIREMENTS

▪Windows/WindowsVista/Vista×64/XPProfessional/XPHome、INTELPentium互換プロセッサー1.4GHz以上(Coreプロセッサー推奨)、メモリー1GB以上(2GB以上推奨)、30GB以上のハード・ディスク空き容量(7,200rpm以上またはSATAハード・ディスクを推奨)、1,024×768ドット/HighColor(16bit)以上のディスプレイ(1,280×1,024ドット以上推奨)、Windows対応オーディオ・インターフェースまたはサウンド・カード(WDM/ASIOドライバー推奨、WindowsVistaの場合は、外付けオーディオ・インターフェースを推奨)、DVD-ROMドライブ(インストールに必要)、記録型CDドライブ(CDライティングに必要)