MIDI編集機能の強化で音楽制作ツールとして進化を遂げたDAW

DIGIDESIGNProToolsHD8Software
DIGIDESIGN Pro Toolsがメジャー・アップデートされ、Ver.8になった。世界標準とも言える総合レコーディング・ツールはどのように変容を遂げたのか、早速チェックしてみよう。ちなみに、今回はPro Tools HD 8 Softwareの試用になるが、Pro Tools LE/M-Powered 8 Software(アップグレード予価:17,850円)、Pro Tools M-Powered 8 パッケージ(オープン・プライス/市場予想価格29,800円前後)も用意されている。

より分かりやすくなったユーザー・インターフェース


DIGIDESIGN Pro Toolsがメジャー・アップデートされ、Ver.8になった。世界標準とも言える総合レコーディング・ツールはどのように変容を遂げたのか、早速チェックしてみよう。ちなみに、今回はPro Tools HD 8 Softwareの試用になるが、Pro Tools LE/M-Powered 8 Software(アップグレード予価:17,850円)、Pro Tools M-Powered 8 パッケージ(オープン・プライス/市場予想価格29,800円前後)も用意されている。まず、今回のバージョン・アップで目を引くのはユーザー・インターフェースの変更。これまでもバージョンが変わるごとに少しずつは変化していた部分だが、Ver.8においてはかなり大幅な変更が行われた。早速、Pro Tools 8を立ち上げると、“クイック・スタート”ウィンドウが現れ、今バージョンからは“テンプレートからセッションを作成”“空のセッションを作成”などを選べるようになっている。さて、セッションを開くと各ウィンドウの右上にはミニ・メニュー・ボタン(画面①)が新たに用意され、そのウィンドウに対応した設定、例えば、編集ウィンドウならトラック・リストやリージョン・リストなどの表示が選択できる。▲画面①各ウィンドウの右上にはミニ・メニュー・ボタンが用意され、そのウィンドウに対応する設定が可能また、ツール・バーはトランスポートなど各パーツの表示/非表示だけでなく、commandキーを押してドラッグすることで、各パーツの場所のレイアウト変更も可能だ(画面②)。▲画面②画面上段に位置するツール・バーは各ツールの位置を変更でき、自身のスタイルに合ったカスタマイズが可能になっている簡単なカスタマイズ機能だが、これが可能になったことは、エンジニア向きだけではなく、個人の音楽制作ツールとしての方向性も見えてくる。ちなみに今回はMacでの試用のため、ショートカットはMac用のみ記載する。また、前バージョンでは独立していたユニバース・ウィンドウ(画面③)が編集ウィンドウの上部に追加されている。これは全体のトラックと時間軸を一望できるもので、瞬時に目的のトラック/時間軸に飛ぶことができる。トラックの大きさを変えることなく移動できるので、トラック数が多いセッションではとても重宝するだろう。▲画面③ツール・バーの下段にはセッション全体を見渡せるユニバース・ウィンドウが追加され、セッション内の移動がより便利になったさらに、今バージョンからはトラックのカラー設定もよりフレキシブルになっている。各トラックをさまざまな色に設定できるようになったので、場合によってはセッション全体の画面がすごくカラフルな見た目にもなる。これまではちょっとそっけないイメージのあったPro Toolsだけに、かなり違ったイメージに見える。

独立したウィンドウでMIDIの編集が可能に


MIDIトラックのピアノロールによる編集/表示に関しては、これまで編集ウィンドウ内でMIDIトラックとして表示されていたのが、Ver.8では2種類のウィンドウが追加された。まずは、編集ウィンドウの一番下にMIDIトラックを表示(画面④)できるようになり、また独立して開くウィンドウにも表示可能だ。基本的にほとんど同じだが、前者を使えば新しいウィンドウを開くことなく作業ができるので、“編集ウィンドウは1画面でじゃなくちゃ”というユーザー向けとなっている。▲画面④MIDI編集画面を編集ウィンドウの下段に表示した状態。ピアノロール画面の下にはベロシティやコントロール・チェンジの編集トラックも追加可能だ。ベロシティによるノート色の変化も確認できる MIDI編集画面でどのMIDIトラックを表示/編集するかは、左側のトラック・ウィンドウで選択することができる。そこのトラック・リストで表示したいトラックをチェックすることにより、それがMIDI編集画面に表示される。複数のトラックを選択することも可能で、各トラックは違う色に表示されるので、一画面で複数のトラックを編集するときも分かりやすい。このとき、複数のトラックを編集したい場合はエンピツ・アイコンでshiftキーを押しながら選択すればいい。また、これまでのMIDI編集では、ノート/ベロシティ/コントロール・チェンジなどの編集/表示は1つのMIDIトラック上で表示を切り替えて行う必要があった。ほかのDAWソフトと比べたらもう1ステップが必要だったわけだが、今バージョンではそういった各MIDI情報を表示するトラックをピアノロールの下に追加して表示し編集できる。もちろん、前バージョンのように切り替えで表示/編集することも可能だ。ピアノロール画面でのノートの編集方法にも多少変更があった。例えば、これまではノートを一から作るには、エンピツ・ツールを選んでノートを作成する必要があったが、今バージョンからは画面上でノートを入れたい場所をダブル・クリックすればノートが作成される。同様にノートを選んだままダブル・クリックすることによりノートを削除することも可能だ。また、新しく加わった機能で便利なのが、commandキーを押しながらノートを上下にドラッグすることによってベロシティが変更できること。この場合、ベロシティの強さは色の濃さとして表示される。また、ProToolsではcontrolキーを押しながらクリックすればリージョンの頭を合わせることができるが、MIDIノートでも同じことが可能だ。そのほか、option+control+commandキーを押しながら鍵盤部分をドラッグすると、そのまま上下スクロールするなど、MIDIのショートカットのファンクションは実はかなり充実している。ProToolsはMIDIが弱いというこれまでのイメージは今回のバージョンでは全く感じることはない。

オーディオ/MIDI編集感覚で使えるスコア・エディターを搭載


新しく加わった2つのMIDI編集画面に関しては、楽譜表示に切り替えることができ、ほかに独立したウィンドウであるスコア・エディター(画面⑤)も用意されている。このスコア・エディターでの操作子は、Pro Toolsの編集ツールをそのまま使う感覚で操作することができる。音符を置いたり、長さを変えたりすることなど、MIDI編集のときと全く同じ方法。ゆえにPro Toolsに慣れている人なら、そのままスムーズに楽譜の編集も可能になるだろう。どうしても複雑になりがちな楽譜関係なだけに、この点は大きな魅力だ。▲画面⑤スコア・エディターは独立したウィンドウで表示可能。ピアノロール画面を切り替えて同じ編集ウィンドウの中に表示/編集することもできる表示するトラックはMIDI編集画面と同じように、左のトラック・ウィンドウで選択する。スコア・エディターに対する設定項目はさほど多くなく、シンプル。また、例えば“譜表の間隔”など設定を変更すれば、リアルタイムで楽譜の表示も変わるのでとても気持ちがいい。譜面作成/印刷の機能は必要最小限といった感じで、クレッシェンドや強弱記号などの打ち込みは不可。歌詞などのテキストの挿入も不可能で、ドラム譜、ギターのタブ譜などもできない。しかし、Pro Toolsには以前のバージョンから、譜面作成ソフトのSIBELIUS Sibeliusにファイルを直接送るというコマンドが搭載されており、本バージョンでもそれは同様なので、本格的に譜面を作成する場合はSibeliusに送ることになるだろう。とはいえ、動作も軽く、表記もとても奇麗なので、用途次第ではこのスコア・エディターで十分という制作者も多いかもしれない。MIDIの音を生楽器に差し替えるために譜面を打ち出す、といった用途ならこれで大丈夫だろう。

ピアノからリズム・マシンまで
個性的な音源5種を新搭載


今バージョンでは、5種類のインストゥルメントが新たに標準装備されている。ここからはその新音源をそれぞれ詳しく見ていくことにしよう。■Mini Grand(▼画面⑥)いわゆるグランド・ピアノ音源。パラメーターは左から、ダンスやハード、ブライトなどピアノのタイプが選べるMODEL、ベロシティによる変化の度合いを調整するDYNAMIC RESPONSE、6種類のリバーブが選択できるROOM、リバーブの量を調整するMIX、出力のLEVELとなっている。音はとても上品でどれも使える感じ。なんでも、グランド・ピアノ音源のSTEINBERG The Grandを開発したチームが丸ごとこのプロダクトに携わっているそうで、The Grandよりは多少波形の容量が少ないため、Mini Grandという名前になっているだけとのこと。ただし収録内容は決してMiniではなく立派なピアノ音源だ。■Boom(▼画面⑦)こちらはリズム音源。内蔵音色はアコースティックなものよりはエレクトリック系が中心となっている。いわゆるリズム・マシンの音だ。Boom自体にパターンを打ち込むこともできるので、リズム・シーケンサーとしても使用可能だ。パターンの作成方法は、いわゆる“808方式”で16個あるボタンを使ってそれぞれの楽器のリズムを打ち込んだり、パターンを切り替えたりすることができる。パターンは左側のマトリクスで打ち込むことも可能。音色のエディット/変更は各ツマミで行うので直感的で分かりやすい。音源として使う場合は、C3以上のノートで、パターンのトリガーとしても使えるので、右手でパターンを走らせ、左手で楽器をたたくことによってあっという間にリズムを打ち込むこともできる。また、スピード・コントロールにより簡単に倍テンのパターンを作れるのも便利だ。■Vacuum(▼画面⑧)アナログ・シンセサイザーをモデリングした本音源で特徴的なのは、フィルター部とアンプ部に真空管のシミュレーターが入っていること。ハードウェアでは最近似たような製品があったとはいえ、ソフトウェアで採用するとはなかなか面白い発想だ。それぞれのセクションに、真空管によるサチュレーションつまみが用意されており、上げていくと音が太い感じに変わってくれる。名前の通りデジタルくささはあまりなく、とてもアナログな感じの音だ。リード・シンセやベースのサウンドにぴったりだろう。試用していた時点ではプリセット・パッチが用意されていなかったが、かなり存在感のある音が作れそうだ。■Xpand! 2(▼画面⑨) これまでバンドルされていたXpand!もVer.2とバージョン・アップを果たして搭載された。大きな違いとしては、まず音色数。Xpand!に比べ約2倍の2,000音色もの収録しており、それぞれのカテゴリーが充実していると感じた。スペックとしては、Xpand!同様、4つのモジュールが同時に使用できるが、それぞれのMIDIチャンネルを変えることが可能になったので、今までのレイヤー/スプリットとしての使い方だけでなく、マルチ音源として使えるようになった。これによって手間とCPUへの負荷が少し楽になった、ということになる。インターフェースも洗練された見た目になったが、前バージョンで好評だった、ファンクションに応じて機能が変化するスマート・ノブはそのままとなっている。■DB-33(画面⑩⑪)▲画面⑩オルガン音源のDB-33。▲画面⑪DB-33のキャビネット設定画面。オルガン音源DB-33にはドローバー、ロータリー・スピーカーのコントローラー、パーカッション、クリックなどといわゆるHAMMOND系オルガン・モジュールの定番パラメーターがずらっと並んでいる。トーン・ホイールはその種類を変えることもでき、ハイファイな感じからちょっと壊れているような汚い感じまで出すことができる。裏面ではロータリー・スピーカー・キャビネットの設定ができる。ドライブを上げればジョン・ロードのような派手なひずみを得ることも可能だ。また、スピードのコントロールも、低音部、高音部が別々に設定できたり、かなりオルガンにこだわった作りとなっている。また、外部入力もできるので、アンプ・シミュレーター/ロータリー・スピーカー・エフェクトとして使うことも可能だ。

ElevenFreeなど
エフェクトも30種以上を追加


ソフト音源だけでなくエフェクトもかなり増えている。まず、これまでオプションだったエフェクトから。DIGIDESIGNMaxim、D-Fi、BOMBFACTORYSansAmpPSA-1など、どれも現場でよく使われているエフェクト9種を搭載して、各プラグインの販売価格の合計が10万円以上(!)になることを考えると、これは相当魅力的だ。 さらに、全く新しいエフェクトも追加されている。アンプ・シミュレーターのElevenFree(画面⑫)はアンプ種類は少ないものの、音もそれっぽいアンプ・シミュレーター。新たに搭載された20種類のAIRシリーズのエフェクトもバリエーションが豊富。内容を見ると、同社の付属のエフェクトは少々お固いイメージなのに対し、オート・ワウやディストーション、フェイザーなどのコンパクト・エフェクター的なものから、リバーブ、スプリング・リバーブ、フィルターなどミキシングにも使えるものまでかなり幅広く網羅している。▲画面⑫新たに追加されたプラグイン・エフェクト群。左上から時計回りにアンプ・シミュレーターのElevenFreeと、Airプラグイン・シリーズのファズ+ワウのFuzz-Wah、ピッチ・シフターのFrequencyShifter、リバーブのSpringReverb オーディオ編集ではコンピング機能(画面⑬)が追加された。この機能は、これまでテイクを取り出して、コピペで作っていたOKテイクを、より簡単に作成できるもので、テイクを同じ時間軸上に並べて、使用したい部分を選択し、OKテイクに加えてまとめる機能だ。今までエンジニアはそれぞれの方法でOKテイクを作成してきたが、この機能により作業効率は格段に上がるだろう。▲画面⑬今バージョンでは“コンピング”機能でより簡単にOKテイクをまとめることが可能になった。上の画面では3、4、5段目のテイクから使いたい部分だけを選択し、2段目トラックにOKテイクをまとめている ちなみに前バージョンのハイライトとしては、オーディオ・トラックのタイムを自在に変えられるエラスティック・タイムが搭載されていたが、Ver.8ではエラスティック・ピッチ機能を搭載。これはリアルタイムでピッチを調整できる機能で、さらにフレキシブルな音楽制作が可能になる。また、ProToolsLE/M-Poweredに関しては、これまで32トラックだった最大トラック数が48に拡張された。さらに、オプションによりトラック数を64トラックに拡張可能。またProToolsLEに関しては新製品のCompleteProductionToolkitを導入することでサラウンドにも対応し、128トラックまで拡張できる。かなり高価なオプションだが、ProTools|HDとの間を埋めるプロダクトとして注目したいところだ。そのほかの細かい部分では、Webアップデート・メニューによりオンライン・アップデートが可能になった点やグリッドを生かしながらシャッフル、スリップなどの機能も使用できるようになったこと、ProTools|HDハードウェアの能力を最大限に生かした超低レイテンシーと、従来以上のプラグイン能力を実現できるようになったことも挙げられる。今回のバージョン・アップの大部分は一から音楽制作を行うツールとして使うための機能が強化され、結果的にDAWソフトとして充実している感がある。また、これまでのユーザー、特にエンジニア系の人が戸惑わないように、従来の使い方と大きな変化がないように工夫されているのは評価できる。これまでMIDIは別ソフトでProToolsを使っていた人、あるいはProToolsを使っていてMIDIのために他ソフトの導入を考えていた人にとっては他ソフトの必要がなくなったと言えるだろう。もちろん筆者を含めProToolsを制作ツールとして使っている人にとっては、何よりもありがたい強力なバージョンアップだ。
DIGIDESIGN
ProToolsHD8Software
アップグレード予価/29,400円

REQUIREMENTS

■Windows/Windows Vista (SP1)/XP Professional(SP3)/XP Home(SP3)、1GB以上(Pro Tools LE/M-Poweredの場合:2GB以上を推奨)/2.5GB以上のRAM(Pro Tools HDの場合、Pro Tools LE/M-PoweredとToolkitオプション併用の場合) ■Mac/Mac OS 10.5.5 以降、1GB以上(Pro Tools LE/M-Poweredの場合:2GB以上を推奨)/2.5GB以上のRAM(Pro Tools HDの場合、Pro Tools LE/M-PoweredとToolkitオプション併用の場合)